夕焼けに殺される

中継機よ。

落ち着け、我は絶対ぞ。

発信機も、そちらへ向かわせる。

事態はそれほどに、大きい。

……発信機。

お前は、わかっていない。

言っただろう。

事態は大きいと。

失敗は許されぬ。

感情で物事を語るな。

…………

国が傾く。

かも、しれぬのだぞ。

発信機。中継機。

一応だ。

警戒は、怠るな。

貴様らが、繋がっていることが、

現実まで、持ってかれた場合、

何かと不都合が起こる。

それと、なのだが。

分離蛸。

ヤツは、他の輪廻と、違う。

孤独蛸や安楽蛸も、そうだ。

逢魔トキから、生まれた輪廻。

どこかが、おかしい。

何か、秘密がある。

本音を言えば、もう逃れられないという事はわかっていた。

しかし、こうでもしなければ思えないのだ。

この世界で……。

この都合の良い嘘で溢れた社会で、

生きよう、と。

セーラー服、それが宙を浮いている。

まるで、そこに人があるかのように、膨れ上がって。

その頭部にあたる部分にあるのは、巨大なスマートフォン。

その電源は落ちており、液晶には大きな亀裂が幾つも入っている。

液晶の向こうが光る。

点滅している。その間隔が狭まっていく。

蛸を囲って、宙に幾つものスマートフォンが現れた。

すると直後、それらは3色の光を放った。

光が各機器と繋がり、半球のようになると、

次にその内部にて。刹那、白く瞬いた。

蛸の姿が消えていた。

代わりに、何も映っていなかった、宙のスマートフォンには、

その消えた蛸の一部が映されている。

彼らの存在は、そこへ移動したのだ。

痛い、痛い、痛い。

溶ける、融ける、溶ける、融ける。

わたしは、まだ生きているのか。生きてしまっているのか。

苦しい、苦しい、苦しい。

やだ、やだ、やだ、やだ。

殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ。

死にたい、死にたい、死にたい。

私の言葉受け取って、今日も鳥さん羽ばたいた♪

彼の言葉奪い取って、昨日カラスが飛び去った♪

いつか私も、空飛ぶわ♪

側溝へと彼、落ちてった♪

誰にも縛らせない、自由になるの♪

誰もいない、自由になったの♪

ほら、あの雲突き抜けて♪

ほら、あの雲突き抜けて♪

この世の全てを見てみたい♪

もう何も知りたくない♪

きっと月には兎がいて♪

彼の言葉は燃えていき♪

人類見下し、気取ってんのよ♪

西の天使に食べられちゃう♪

でも、それで良いの♪

それって、どうなの許せない♪

らららら♪

らららら♪

死ぬってわからないけど、生きるって楽しい♪

生きるってわからないけど、死ぬって嬉しい♪

らららら♫

らららら♫

どうして笑わないの♪

どうして怒るの♪

らららら♫

らららら♫

意味求めちゃって、馬鹿みたい♪

痛みが消えたの。

神経が消えたの。

わたしは死ぬの。

もうすぐ死ぬの。

それがわかったの。

身体が動かない。

丸まって動かない。

伸ばした腕がね。

見えるの、筋肉。

わたしは死ぬの。

わたしは死ぬの。

わたしは死ぬの。

逢魔トキ……、

トキ……、

トキ……。

彼のために、結局何もできなかった。

吉森さんは、愛を言葉にしなかった事を後悔していた。

東雲君が死んだ時、言っていた。

でも、わたしは言った。

彼に好きだって、ちゃんと伝えた。

言わないとって、なぜかそう思った。

手も握ってもらったし、

抱きしめてももらった。

なのに、

なのに、どうして満たされないのだろう。

吉森さんは、東雲君とエッチした。

東雲君は輪廻だったけど、それでもエッチした。

彼女の心は、それで満たされたんだろうか。

好きも言えたし、愛し合えた。

これ以上に、何があるか。

何があるか。

…………

………

……

希望、

そう。希望だ。

死ぬとわかった時、人は希望を持てるだろうか。

いや、持てない。

少なくとも、今わたしは希望を持てていない。

彼女は幸せだったのかな。

彼女は幸せに生きられたのかな。

わたしにはわからないけど、

わからないけど、

…………

幸せに、生きたいな。

ああ、つい思考しちゃう。

わたしの悪いクセだ。

でも、絶対にやめない。

まだ、諦めない。

希望を掴む。

グサッ

槍がその肉塊を貫いた。

もう、確実に死んだそれは、更に炎に包まれた。

いや、炎なんてものではない。

焔。骨まで灼き尽くす。

…………。