女
ねぇ…
女
あなた私のこと見えるの?
女
私の声聞こえるの?
女
ねぇ?…ねぇ?…
タケル
そう。俺はこの女が言ってるように「見える」し、「聞こえる」
タケル
最初は怖くて怖くてビビっていたけど、不思議なもので慣れちゃうもの
タケル
正直見えてしまうもの、聞こえてしまうものは仕方がないとは思うけど…
タケル
ちょっとウザい
女
ねぇ?
女
聞いてるの?
タケル
ああ
タケル
聞こえてるよ
女
だったら早く答えなさいよ!
女
ねぇ?私の話を聞いてくれない?
タケル
うーーん?
タケル
ちょっとそんな気分じゃないんで…
タケル
また今度ってことで…
女
はあ?
女
散々人を待たせておいて
女
また今度?
女
バカにしないでよ!
タケル
バカにはしてないけど、もう面倒くさいから…
女
はぁ?だからあんた女にモテないのよ!
女
女心が全くわかってない!
女
バーカバーカ!
タケル
バカって言うな
タケル
バーカバーカ!
タケル
こんな感じで見えちゃうし、話もできちゃうから、たくさん絡まれることもあるんだけど
タケル
大抵の場合はこちらに被害なんて及ぼさないし、呪いをかけたり…ってないんだよね
タケル
でも
タケル
今回はちょっと違う感じがする
タケル
なんとなくなんだけどね
男
おい!
タケル
…
男
おい!お前!
タケル
…
男
俺はお前が嫌いだ
男
お前のことが大嫌いだ
男
お前のせいで…死んだ…
タケル
はぁ?なんだって?
タケル
誰が死んだって?
男
お前のせいで俺の大切な人が…
タケル
何を追ってるんだ
タケル
俺はお前のことなんて知らないし
タケル
お前の大切な人に危害を加えるようなことはした覚えもない!
男
15年以上前
男
高校生のお前は、付き合っていた人がいただろう?
タケル
はぁ?誰のこと言ってるんだ
男
サ・チ・コ
タケル
サチコ?
タケル
ちょっと待て!お前さっき大切な人が…って話していたよな!
タケル
サチコに何かあったのか?
タケル
おい!答えろ!
男
やっと思い出したようだな…
タケル
勿体ぶらずに教えてくれ!
タケル
サチコに何があった?
男
お前とサチコは愛し合っていた
男
お前ももちろんサチコのこと好きだったんだろ?
タケル
う、うるさい!
タケル
お前には関係ないだろう!
タケル
それよりサチコがどうかしたのか?質問に答えろ!
男
不自然だと思わなかったのか?
タケル
はぁ?なにが?
男
サチコが突然お前に冷たくなって
男
ヨソヨソしい態度でお前から距離を取るようになって
タケル
…
男
いつしか2人の会話も少なくなり、自然消滅のように2人の愛も冷めていった…だろ?
タケル
…うう
タケル
その通りだ
タケル
なんで急に冷たくされるのか意味もわからず、俺は途方にくれた
タケル
サチコに別の好きな人が出来たのか?とも思ってヤケクソにもなった…
タケル
でも…どうして?そしてなんでお前が…?
男
サチコは
男
お前のことが大好きで仕方がなかったようだな
男
高校生のお前たちは自然流れで結ばれた…
男
そして…
男
ここからはお前の知らないこと…
男
それは…
男
サチコのお腹の中には…新しい命が芽生えた
男
そのことを知ったサチコは悩みに悩んで、お前に言うべきかどうかもかなり迷ったようだ
タケル
ま、マジで?
タケル
その話…本当なのか?
男
親にも友達にももちろんお前にも相談できず1人で悩んだサチコは…
男
一人で産んで育てることを決意した
男
そしてそのことをお前には一切告げずに別れることを選んだ
タケル
ううう…
男
それでも高校生
男
一人で産めるわけなんてないし、お金もないし…
男
大きくなるお腹を隠せず、親にバレた。そして家族は逃げるように誰も知らない町に引っ越すことにした
タケル
だから急にいなくなったのか…
タケル
俺には別れの挨拶もなかったから、てっきり嫌われてるものだと思っていた
男
最後までお前には伝えないって決めていたサチコは知らない街で子供を産んで育てることを決意した
男
でも…
男
か細い高校生の少女が出産やさまざまなストレスに耐えられるわけもなく、子供が生まれるとともに力尽きて…死んでしまった…
男
生まれた子供を胸に抱いて…眠るように亡くなってしまった
男
俺のことを一度だけでも抱いてくれたお母さん
男
俺の一番大切な人だった…
タケル
お母さん?
タケル
もしかして
タケル
君は俺の…子供?
男
俺はお母さんの後を追うように、生まれて数週間後にはこの世を去ることになった…
男
だって…
男
お母さんかわいそうだろ?
男
大好きなお前と別れ…
男
命をかけて産んでくれた俺とも別れ…
男
ひとりぼっちなんてかわいそうすぎる…
男
だから俺は…
タケル
ううう
タケル
ごめんサチコ、そして君にも…
タケル
なんと言って謝っても謝りきれない
タケル
本当にごめんなさい
男
お母さんにも声をかけてあげて
サチコ
タケル…
サチコ
ゴメンね
タケル
サチコ…こちらこそゴメン
タケル
俺今まで何にも知らなかった
タケル
君一人に全てを背負わせて、知らないとは言え、のうのうと生きてきた俺は…クズだ!
サチコ
そんなことないわ
サチコ
あなたは私のことを大切に思ってくれていた
サチコ
それは私にもわかる
サチコ
だから私はこの子が大きくなって、タケルが社会人になった頃にでも…もう一度やり直したかった…
タケル
ゴメン
タケル
サチコ
サチコ
謝らないで
サチコ
私が自分でやったことだから
タケル
でもダメだ!
タケル
俺はこのことを知ってしまった以上、このまんま生き続けることはできない!
タケルは猛スピードで走る車の前に飛び出し、跳ね飛ばされた身体は数十メートルも飛んでしまった…即死だった…
サチコ
タケル…
男
お父さん…
タケル
サ・チ・コ…
交通死亡事故のあったこの現場は幽霊が出るって噂になり、その後心霊スポットだと有名になった
誰一人この場で死んだタケルの家族の悲しいエピソードは知られることはありませんでした。
この場で出てくる幽霊は、怖くなくてなぜか笑顔で笑い声が聞こえるなんて噂も出るほどでした
少なくともあの世では家族3人で幸せに笑っていられることを願います