天の声
地球の南側、ニュージーランドという国に、とても大きな牧場がありました
天の声
そこではたくさんの動物たちが、お日さまと大地の恵みを受けて、のびのびと暮らしていました。
天の声
晴れた朝は、牧場には元気な動物たちの声が響き渡ります。
天の声
牛さんはモーモー
天の声
ひつじさんはメーメー
天の声
やぎさんもメーメー
天の声
豚さんはブーブー
天の声
アルパカさんはぱっかぱっか
天の声
そんな中、一羽だけ、元気のないニワトリさんがいました。
ニワトリ
ああ、あの人、今日もたくさんの小鳥たちに囲まれているわ
ニワトリ
とても楽しそう
ニワトリ
こっちを見ても、風が吹くとくるくる向きを変えてしまう
ニワトリ
どうしたら、わたしのことを見てもらえるだろう…
天の声
ニワトリさんは、小屋の屋根のてっぺんにいる風見鶏さんに恋をしていました。
天の声
ニワトリは、ニワトリ。決して、きんぴかの風見鶏にはなれません
天の声
それでもニワトリさんは風見鶏さんのことを諦められませんでした。
天の声
風見鶏さんの周りには、いつもたくさんの小鳥がいます。
天の声
旅が大好きなツバメさんたち
天の声
お化粧ばっちりのジュウシマツさんたち
天の声
ちゅんちゅん、とにかくいつも楽しそうなスズメたち
天の声
でも飛べないニワトリさんは、風見鶏さんのところへ行って、思いを伝えることすらできません。
天の声
思いつめたニワトリさんは、卵が産めなくなってしまいました。
使用人
ボス、このニワトリもう10日も卵産んでませんよ。どうしますか?
牧場主
使えないニワトリだなあ。しばらく様子を見て、だめだったらチキンにして食べてしまおう
天の声
人間たちの声を聞いても、ニワトリさんはあまり悲しくはありませんでした。
ニワトリ
あのひとに思いが伝わらないくらいなら、このままチキンになってしまってもいいかもしれない…
天の声
その晩、ニワトリさんは小屋の隅でしくしくと泣きました。
天の声
バラの花びらに落ちた雨粒のような美しい涙が、藁をたくさん濡らしました。
天の声
その涙が天に通じたのでしょう。ニワトリさんはその夜、夢の中で神様に会いました。
神様
小さな小さなニワトリよ。諦めて死に逃げるでない
神様
自分にできることを一生懸命やれば、いつか自ら発する輝きが目印になって、風見鶏の心を動かすだろう
神様
お前の人生は、まだまだ長いんだ
ニワトリ
神様…
天の声
ニワトリさんは、あまり驚いてはいませんでした。
天の声
夢の中なので、神様が現れても全然不思議ではないと思ったのです。
ニワトリ
自分にできることって、いったいなんですか?
ニワトリ
私はこのように小さなニワトリだし、ヒバリさんのようにきれいな声で歌ったり、ツバメさんのように速く飛んだりもできません
神様
そんなことはしなくてもよい
神様
お前の仕事は、卵を産むことだろう
神様
一生懸命、思いを込めて毎日卵を産んでみなさい
神様
いつか、風見鶏をも振り向かせられるはずだ
天の声
神様はそう言うと白い羽を大きく大きく羽ばたかせ、光の中に消えて行きました
天の声
そこでニワトリさんは目が覚めました
天の声
まだ朝というには早すぎる、夜中のしんとした闇
天の声
他のニワトリたちも起きていません
天の声
卵を産むには早過ぎますが、ニワトリさんは神様の言うことを素直に聞いて、卵を産むことにしました
ニワトリ
ううっ、うう…
ニワトリ
久しぶりだから痛い…
ニワトリ
涙が出てくる
ニワトリ
あ、産まれた…
ポコっ…
天の声
ニワトリさんのお尻から、ほかほかの卵が産まれました。
天の声
ニワトリさんは久しぶりに卵を産めて、とても良い気分になりました。
天の声
卵を産んだことで、風見鶏さんに少し近づけた気がしたのです。
天の声
その日の朝、牧場の人たちはたいへん良い気分になりました。
使用人
ボス!こいつ卵を産みましたよ!
牧場主
良かったなあ。チキンにしなくて。チキンにしてしまうのは、俺も少し嫌だったからなあ
天の声
それを聞いて、ニワトリさんも嬉しくなりました。
天の声
まだ、自分がちゃんと必要とされている
天の声
そのことが心から、嬉しかったのです。
ニワトリ
もっと頑張ってみようかしら…
天の声
次の日の朝、ニワトリさんは涙を流し、汗だくになりながら、卵を2つ産みました
天の声
次の日は3つ
天の声
その次の日は、頑張って5つ
天の声
ニワトリさんは神様に言われたことを思い出し、牧場の人たちの笑顔を励みに、なにより風見鶏さんに近づきたくて、頑張りました。
天の声
毎日産んでいるうちにコツをつかんで、10コ以上産むこともありました。
ニワトリ
この思いが、どうか風見鶏さんに届きますように…!
天の声
ニワトリさんはひとつひとつの卵に、ありったけの自分の思いを込めました。
天の声
やがて、ニワトリさんが産んだ卵が孵って、ヒヨコさんのお部屋はヒヨコさんでいっぱいになりました
ヒヨコ
ぴーぴー
ヒヨコ
ぴよぴよ
天の声
ヒヨコさんたちはちゃんと、お母さんであるニワトリさんの気持ちを受け継いでいました。
天の声
そしてある晴れた日の朝、ヒヨコさんたちは一斉に外へ飛び出しました。
ヒヨコ
ぴーぴー!
ヒヨコ
ぴよぴよ!
天の声
大きなヒヨコの上に、小さなヒヨコさん、その上に、もっと小さなヒヨコさん。
天の声
そんな要領で、ヒヨコさんたちはみんなで協力して、ヒヨコでできた梯子を風見鶏さんの小屋の前にたてました。
天の声
あまりのことに、牧場の人たちは、びっくり!!
使用人
ボス、ヒヨコたちが梯子になってますよ!
牧場主
いったい何が起こってるんだ!?
天の声
あまりにも外がぴーぴー騒がしいので、ニワトリさんさんは目が覚めて、外に出てきました。
天の声
そこには、大好きな風見鶏さんに通じる、黄色いはしごがありました。
ニワトリ
今だ、風見鶏さんに思いを伝えられる…!!
天の声
ニワトリさんはニワトリさんらしいゆっくりした足取りで、ヒヨコさんの梯子を一段一段、ゆっくり登っていきました。
天の声
そしてやっと、大好きな大好きな、風見鶏さんの前にたどりつきました。
ニワトリ
風見鶏さん。わたし…ずっと、あなたのことが大好きでした
天の声
そう言ってニワトリさんは、風見鶏さんのくちばしにキスをしました。
天の声
すると、なんていうことでしょう!
天の声
銀色の光が雨粒のようにきらめき、風見鶏さんの身体をすっぽりと包みました。
天の声
あまりの眩しさに、ニワトリさんは目を瞑りました。
天の声
目を開けると、なんと!そこにはとさかの立派な、おんどりが立っているではありませんか!
ニワトリ
オンドリさん…あなたは……?
オンドリ
私は悪い魔法使いに呪いをかけられ、風見鶏にされて屋根の上から動けずにいたんだ
オンドリ
神様に言われて、呪いを解いてくれるメンドリが現れるのを待っていた
オンドリ
小さな小さなメンドリさん、呪いを解いてくれてありがとう
天の声
そう言って、オンドリさんのほうから、ニワトリさんに、こけこっことやわらなかなキスをしました。
天の声
ニワトリさんのほっぺたは真っ赤になり、牧場の動物たちはふたりを一斉に祝福しました。
天の声
牛さんはモーモー
天の声
豚さんはブーブー
天の声
羊さんはメーメー
天の声
山羊さんもメーメー
天の声
アルパカさんはぱっかぱっか
天の声
それから、ふたりは地上を一緒にこけこっことお散歩したり、ヒヨコさんの梯子で屋根の上に登って小鳥たちと遊んだり。
天の声
毎日、それはそれは幸せに暮らしたそうです。
天の声
めでたし、めでたし
END♡