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とめどない夏

第2話 - “言い伝え”について

2020年04月12日

#ホラー

#夏

#土着信仰

#田舎

#友情

蒼

…

陽一

…

颯太

…

陽一

いや、何か喋れよ！

颯太

えー…

蒼

んー…

陽一

え、もしかして酔った？電車酔い？

颯太

ちげーよ…なんか…蒼が元気無いから…

蒼

あ、俺のせい…？

陽一

蒼、元気無いのか？

蒼

いや、そういう訳じゃ無いけど…

颯太

でも、いつもよりテンション低くね？

蒼

そ、そうか？

颯太

うん、なんか…憂鬱そう…

陽一

あー、それはちょっと思った

陽一

何かあったのか？

蒼

いや、特に何も無い…けど…

颯太

けど？

陽一

けど？

蒼

…笑うなよ？

陽一

おう

蒼

…

蒼

…ちょっと寂しくなった

颯太

何が？

蒼

家族と離れるのが…

颯太

ぶははははははは！

蒼

おい

陽一

良いじゃん

陽一

可愛いじゃん

蒼

…お前ら嫌い

颯太

あっ！いじけた！

颯太

ごめんって！悪気は無かったんだってー！

蒼

うるせえ

陽一

いや、でも分かるぞ

陽一

俺だって、一人でばあちゃん家に行く時は

陽一

寂しかったさ
家族と離れるんだからな

陽一

小学生の時だけど

颯太

あははははははははは！

蒼

マジ覚えとけよ…

陽一

ごめんって

颯太

マジごめんって

蒼

…

蒼

…いや、でも、何で急にこんな気持ちになったんだろうな…

蒼

…！

蒼

もしかして病気か…！？

陽一

違うだろ

颯太

あー、ノスタルジア症候群みたいなやつ？

陽一

え、何それ

蒼

アレだろ

蒼

ホームシックみたいなやつだろ

陽一

じゃあ普通にホームシックだろ

蒼

…あ、そっか

蒼

ホームシックか、これ

陽一

いや、分かんねぇけど…

颯太

…ホームシックなら、俺もなったことあるよ

陽一

え、そうなのか？

颯太

うん

蒼

…どんな感じだった？

颯太

うーん…あんま覚えてないけど

颯太

胸の辺りが苦しかったな

颯太

あと、喉が詰まる感じ…分かる？

颯太

だんだん息が出来なくなってきて…

颯太

気付いたら、家に向かって走ってた

陽一

…それで？

颯太

帰れたよ

陽一

距離的にはどのくらいだった？

颯太

うーん、従兄弟の家だから…

颯太

10kmとかそんくらいじゃね

蒼

10km！？

陽一

…それって何歳の時？

颯太

たしか6歳

蒼

6歳！！

陽一

すげーな…その時から体力モンスターだったのか

蒼

今はもう無いのか？

蒼

その、ホームシックは

颯太

おう！無事完治したわ！

陽一

良かったな

颯太

ああ

颯太

…蒼も治るよ、多分

蒼

そうか？

颯太

多分な

陽一

ま、辛くなったら言ってくれよ

陽一

俺が何とかするから

蒼

どうやってだよ

颯太

ははは…

他愛もない話だが、俺の心を落ち着かせるには十分だった。

それにしても、颯太がホームシックを患っていたなんて、意外だな。

誰よりも陽気で、呑気なヤツなのに。

小学校からの付き合いでも、知らない事はあるんだな。

…

友達の新たな一面を知れるのって、こんなに嬉しかったのか。

颯太

ふぁぁ…ねむ…

蒼

でけぇ欠伸

陽一

俺はもう完全に目ぇ覚めたわ

蒼

ずっと寝てたもんな、お前ら

颯太

…にしても、あんなに朝早く出たのにもうこんな時間なのか

陽一

本当にな…
今何時だっけ

蒼

夜の7時半過ぎ

颯太

えぇーっ！？

陽一

13時間…

颯太

なっ…そんなことある？

颯太

だって電車だよな？流石にそれは…遅すぎるだろ

蒼

あ、お前ら寝てたから分からないのか

蒼

途中で止まったんだよ、電車

陽一

え、マジで？故障でもしたのか？

蒼

理由は知らん

蒼

でも、車掌さんが何処かに電話掛けてたのは見えた

蒼

すげぇ慌てた感じで

颯太

えー…こわ…

颯太

まさか、人轢いたとかじゃないよな…？

蒼

流石にそれは無いと思うぞ

蒼

そもそも、あんな山の中に人なんか…

陽一

…ちょっと急ごうぜ

蒼

…？お、おう

颯太

急にどうしたんだ？

颯太

つーか痛い！そんなに押すな！

陽一

悪ぃ、でも本当に急いでくれ

陽一

…理由は後で話す

颯太

…？わかった…

蒼

…

陽一

ばあちゃーん！
ただいまー！

颯太

お、お邪魔しまーす…

蒼

…お邪魔します

陽一の祖母

あら？

陽一の祖母

…あら！

陽一の祖母

あらあらあら！

陽一の祖母

陽一じゃないの！
陽一と…

陽一の祖母

陽一のお友達よね？はじめまして！

颯太

はじめまして！渡辺颯太と申します！今日から3日間ほどお世話になります！

蒼

葉風蒼です
はじめまして

陽一の祖母

も〜、こんな辺鄙な所までわざわざ来てくれるなんて嬉しいわぁ〜！

陽一の祖母

何も無い所だけど、寛いで行って！

颯太

ありがとうございます！

蒼

ありがとうございます

陽一

よし！じゃ、そういう訳で

陽一

俺の部屋にレッツゴー！

颯太

イェーイ！

蒼

お、おい！待てって！

陽一の祖母

元気ねぇ〜

陽一

…

颯太

へぇ〜ここが陽一の部屋か〜

颯太

お！押入れ発見！入って良い？

蒼

小学生かよ

陽一

…なあ、ちょっと座ってくれ

颯太

えっ？なんで？

陽一

いいから

颯太

…分かった

蒼

……陽一

陽一

何だ

蒼

さっきから変だぞ、お前

蒼

何があったんだ

陽一

…それを今から話す

颯太

何だよ…どうしちゃったんだよ急に…

陽一

…話すぞ

蒼

おう

陽一

…何日か前に、俺が肝試しに行こうって誘ったよな？

颯太

おう

陽一

その時に、この村にとある言い伝えがあるってことは、話したっけ？

蒼

ああ、言ってたな

蒼

詳細は省いてたけど

陽一

…それについてなんだけどさ

颯太

…(ゴクリ)

陽一の祖母

陽一〜

颯太

ヒィ！？

陽一

な、なんだよばあちゃん！

陽一の祖母

あら、ビックリさせちゃった？

陽一の祖母

ごめんね、ちょっとお菓子貰ったから

陽一の祖母

あんた達食べないかな〜と思って
アハハ！

蒼

いえ！お気遣いなく！

陽一の祖母

いやいや遠慮しなさんな！

陽一の祖母

…あ、失礼

陽一の祖母

方言が出ちゃったわ

颯太

方言？

陽一の祖母

うん、方言

陽一の祖母

この辺りは田舎だからねぇ…

陽一の祖母

標準語じゃないと、多分あんた達聞き取れないと思うからさ！アハハ！

陽一

確かにな

陽一の祖母

陽一の為にも、頑張って矯正したんだけどねぇ…

陽一の祖母

って、私邪魔だったかしら！アハハ！

陽一の祖母

この辺で失礼するわ！ごめんなさいね

蒼

あっ！ありがとうございました！

颯太

すいませんホント！

陽一

…

颯太

…

蒼

…で、言い伝えが何だって？

陽一

ああ、そうそう

陽一

それで、その言い伝えなんだけど

陽一

さっき、電車で起きたらしい事故と似てる所があるんだよな

颯太

えっ

蒼

……

陽一

前に俺が“やべぇ”言い伝えって表現したのは、まぁ、“あまり良くない”って意味も含んでて

陽一

まず、蒼は事故があったことは知ってるけど、何の事故があったかは知らないんだよな？

蒼

…ああ

陽一

そこなんだよ

陽一

しかも、車掌さんがかなり焦った様子でどこかに電話してたんだよな

陽一

…それに、俺、見たんだよ

颯太

…何を？

陽一

俺たちが電車に乗った時

陽一

車掌さんが、あからさまに嫌な顔をしてたのを

陽一

いや、嫌な顔っつーか…

陽一

恐怖を感じてる顔…みたいな…

颯太

え、そんな顔してた…？

陽一

うん、まぁ…気の所為かもだし自信満々には言えねぇけど

陽一

それで、それでな

陽一

言い伝えの内容なんだけど

蒼

…

陽一

要約すると、
『この村自体がヤバい』ってことなんだ

蒼

…え？

颯太

おい

颯太

おい、それ最初に言ってくれよ！

颯太

俺たち、もうその『ヤバい村』に来ちゃったじゃねぇか！

陽一

違う、そういうことじゃなくてな

陽一

まぁ、座れ

颯太

…

陽一

はは、大丈夫だって

陽一

俺がいる限り大丈夫だから

蒼

どういう意味だ？それ

陽一

…

陽一

…この村にはな

陽一

所謂、神みたいなのが祀られてて

陽一

ソレがかなり厄介でな

陽一

村民の誰かが奉事しないと、災いをもたらすらしいんだ

颯太

ホウジって？

蒼

目上の人や、神仏に仕えることだ

颯太

へぇ〜！さすが蒼！

蒼

で、その奉事ってのは具体的に何をするんだ？

陽一

うーん、俺が知ってるのは

陽一

年の初めに、村民の中から奉事する人が1人選ばれて

陽一

その人が1年間、その神に仕えるってことだけだ

陽一

でも仕えるっつっても、特にする事とかは無くて

陽一

ただ、普通に暮らすだけで良いらしい

蒼

要は名前だけってことか

陽一

そういうことだ

颯太

…あのさ

颯太

陽一がさっき言ってた、『俺がいる限り大丈夫』って、結局どういう意味なんだ？

陽一

ああ、そうそう

陽一

それなんだけど

陽一

今年はばあちゃんが奉事する年なんだよな

陽一

それで、奉事人…
あ、奉事する人のことを奉事人って言うんだけど

陽一

奉事人は、その神から恩恵を受けられるんだ

陽一

で、奉事人と一緒に、その血縁者も恩恵を受けられるから

陽一

つまり俺は今、神の加護を受けている状態ってワケよ

颯太

へ、へぇ〜

颯太

そんなことあるんだ

陽一

そうそう

陽一

だから、この村がヤバい所以…つまりその神も

陽一

加護対象の俺たちには手を出せないってことだ

颯太

なるほど…

蒼

…な、なあ

蒼

恩恵を受けられるのは、奉事人の血縁者だけなんだろ？

蒼

つまり、その理屈でいくと

蒼

陽一と、陽一のばあちゃん以外の村人は…

陽一

ん？ああ、言ってなかったか？

陽一

ここの村民、全員俺の親戚だぞ

颯太

！？

蒼

！？…それって

陽一

おう！毎年、全員無敵だ！

蒼

いや、そうじゃなくて！

陽一

ん、何だ？

蒼

…

蒼

…悪い、何を言おうとしたか忘れちまった

陽一

おいおい、しっかりしろよ〜

颯太

なあ！それならさ…

颯太

陽一が言ってた肝試しってのは…

颯太

もしかして、その神に関係することだったり…する？

陽一

正解

颯太

うわぁ！やっぱり！

蒼

……俺たちは？

陽一

…ん？

蒼

俺たちの加護は？

蒼

俺らは、お前の血縁者じゃないけど

陽一

…

蒼

…もし、お前の言うことが本当で

蒼

その神とやらが本当にヤバい存在なら

蒼

俺は颯太と帰るぞ

蒼

何かあってからじゃ遅いからな

陽一

…あのさ

陽一

マジで信じてんの？

陽一

いや、確かに奉事はあるし、神らしきものが祀られてるのも本当だけど

陽一

そこまでビビることでも無いし

陽一

そもそも、祟りとかある訳無いだろ

陽一

あんなの、ただの迷信だって

颯太

お前ら落ち着けよ

颯太

俺、この空気嫌なんだけど

陽一

…ごめん

蒼

ごめん

颯太

…で、結局どうする？

颯太

行くなら明日中に頼むぞ

陽一

じゃあ…明日の夜に行くか

蒼

…

颯太

…よし！今日はもう寝よう！

颯太

多分、疲れてんだよ俺ら

颯太

寝たら元気出るから！

陽一

そうだな

陽一

……おやすみ

蒼

…おやすみ

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