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「怪異と彷徨う夕闇」第5話、読ませていただきました…。 もう、最初から最後まで、胸がぎゅうっとなりました。特に、慎一の左頬に落ちた勲の涙の描写があまりにも美しくて、切なくて。冷え切った死者の肌に、たった一滴だけ熱い雫が触れる——その温度差だけで、伝わってくる想いの大きさにやられました。露子が平気で手を引くのも、逆に残酷さが際立って辛かったです…。次が気になります。
光の床にポロポロとこぼれ落ちた勲の涙は、 死後の世界の境界線を、静かに、けれど確かに越えていった
それは冷たい奈落の雨ではなく、 一滴の、ひどく温かい雫となって、慎一の左頬へと滑り落ちる
都築慎一
不意に、慎一の足が止まった
触れられた頬に、じわりと広がる熱
それは、不器用ながらも、一緒に手を繋いだ、 勲の生きた体温と同じ温もりだった
一ノ瀬露子
隣で露子が、 不思議そうに首を傾げて覗き込んでくる
慎一は、露子の声すら、 耳に入れようとしていなかった
慎一は露子が放つ、空白のモヤモヤの深淵から視線を外し、 露子の繋いだ手をほんの一瞬だけ緩めた
何かを確かめるように、自分の左頬へと、 ゆっくりと指先を這わせる
死者となった自分の肌は、 すでに氷のように冷え切っている
それなのに、指先に触れたその一滴の雫だけは、 火傷しそうなくらいに熱く、愛おしく、 張り裂けそうなほどの悲鳴をあげて泣いていた
都築慎一
慎一は自分が置いて来てしまった親友の名前を、 心の中で小さく呟いた
人の本心が見えるその鋭い目は、 この一滴の涙に込められたものを見抜いてしまう
それは、あまりにも巨大で、純粋で、遅すぎた、 勲の「本当の本心」の色彩だった
都築慎一
勲は、慎一のことを好いていた
ただの依存でも、寂しさの裏返しでもなく、 一人の少年として、自分のことを好いてくれていた
その紛れもない真実が、 時空も、死後の境界線も全てを飛び越えて、 勲の魂の叫びが、慎一の胸へと突き刺さる
生きていた頃にも、勲の好意は見抜けていたはずなのに 慎一は自分が思っているよりも、能力を、上手く使えていなかった
都築慎一
感情表現が薄い慎一だから、 いつもと変わらない、全てを諦めたような、険しい顔をしているはず
そう思っていたのに、 自分の顔を触った頃には、据わった目から涙が溢れていた
一ノ瀬露子
露子は静かに涙を流す慎一を気にも留めず、 慎一の手を再び強く握り直し、闇の奥へ引っ張る
慎一は後ろを振り返ったが、 そこにはもう、勲の姿はなかった
そこにはただ、 ねっとりとした赤い夕闇が広がっているだけだった
自分はもう、この怪異の女の子の手を掴み、 奈落の底へと堕ちていく選択をしてしまった
もう、ここから取り返しはつかなかった
都築慎一
慎一は自分の顔を手荒に拭うと、 再び前を向き、歩き出す
しかし、その瞳の奥には、 露子への奇妙な好奇心とは全く別の、 決して色褪せることのない「勲」の存在が、永遠に刻み込まれた
自分が誰に、どれほど深く愛されていたのかを知りながら、 別の怪異と永遠を彷徨う
それは慎一にとって、この上なく残酷で、 どこまでも寂しく、生涯解けなかった呪縛の終わりを迎えた瞬間だった