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下校時刻も過ぎた、夜の7時……
ガチャ
井上涼香
青木悠平
飯塚琥珀
伊藤夏奈
あれだけ強がっていた琥珀が、一番興奮している。
一方の涼香は、今までのはしゃぎっぷりが嘘のように、真剣な表情で金庫の扉に手をかける。
井上涼香
青木悠平
若干震えるその手で、ゆっくりと扉を開ける彼女を、悠平達3人は固唾を飲んで見守る。
キイイイイイ……
数十センチはありそうな、分厚く重苦しい扉の向こうには……
青木悠平
青木悠平
井上涼香
百科辞典ほどの厚さのあるその本を、涼香はゆっくりと取り出す。これ以外には何も入っていない。
青木悠平
青木悠平
青木悠平
青木悠平
期待と興奮で胸を躍らせながら、悠平は涼香と一緒に、本をテーブルまで持っていく。
彼女が表紙に指をかけ、ゆっくりと開こうとして──
グッ グッ……
井上涼香
青木悠平
井上涼香
青木悠平
井上涼香
井上涼香
グッ グッ……!
涼香は懸命に開こうとしているが、本はビクともしないようだ。
井上涼香
青木悠平
井上涼香
飯塚琥珀
悠平が本に手をかけた時、琥珀が声をかけてきた。
飯塚琥珀
伊藤夏奈
青木悠平
琥珀と夏奈は2人とも、ひどく気分が悪そうだった。
つい先程まで、期待と興奮で顔を輝かせていたのに。
飯塚琥珀
井上涼香
青木悠平
井上涼香
井上涼香
グッ! グッ!
悠平は涼香と2人がかりで、古びた本の表紙をこじ開けようとする。
飯塚琥珀
琥珀が慌てて自分たちを止めようとすがりついてきた、その瞬間、
バンッ!!
大きな音を経てて、勢い良く表紙が開いた。
その直後、
バラバラバラバラバラバラ──!!
井上涼香
青木悠平
悠平は目を疑った。岩のように固まっていたページが、1人でに次々とめくれ始めたのだ。
バラバラバラバラバラバラ──!!
そして、ちょうど本の半分ほどまで開かれた瞬間、
ズオオオオオオ──!!
???
青木悠平
井上涼香
胸中から恐怖が湧き上がる。
暗闇から生み出された瘴気と共に、本から形容しがたい無数の怪物たちがあふれ出してきた。
どれも現実の生物とは思えない歪みきった姿で、一体ずつが異なる恐ろしい特徴を持っている。
湧き上がった恐怖が、悠平の身体を固まらせた。
キシャシャシャシャ……! グオオオ……! ピギィィ……!
飯塚琥珀
伊藤夏奈
怪物たちが次々と本から這い出てくる中、本からはおぞましい声が響いてくる。
???
ズズズズズズズズ……!
怪物たちの登場が収まったあと、最後にひときわ大きな怪物が這い出てきた。
ゴーレムのような巨大な体躯。身体全体が、赤銅色の岩石で覆われている。
ダイナマイトでも傷一つ付かなそうなその身体からは、圧倒的な威圧感が放たれていた。
???
???
ピギィィイィィ!!
巨人の声に、その場にいる全ての怪物たちが反応した。
飛び跳ねるもの、這いずるもの、空を飛ぶもの、
多種多様な怪物たちが、一斉に向かってくる。
ドンッ!!
青木悠平
その中の一体にタックルを食らい、悠平は斜め後ろに転がった。
他の3人も同じように突き飛ばされる。
ガン!
地下室の壁にぶつかり、悠平たちはその場に倒れてしまう。
ドドドドドドドドド……!
彼等を尻目に、怪物たちは我先に地下室の出入口へ向かっていく。
梯子を滅茶苦茶に登っていったかと思うと、
ドシャアアア……!
上の方で、家具をなぎ倒す音がした。隠し扉をこじ開け、外に向かったのだ。
そのまま轟音は外へと向かっていく。
???
脱兎のごとく逃げ出していく怪物たちの中で、巨人だけは唯一立ち止まっている。
井上涼香
地下室の隅、悠平と同じように打ちのめされながらも、涼香はあの本を必死に抱きかかえていた。
怪物たちの出現が止まった後、咄嗟に本を回収したらしい。
???
ブゥン!
巨人が丸太のような足を振り上げる。危ない──!
だが、その動きはピタリと止まった。
足を引っ込めた巨人は、忌々しそうな様子で、上を──地下室の天井を見上げる。
???
独り言を言いながら、巨人は早足で梯子の方に向かっていく。
足を動かすたびに、ズシン、ズシンと重苦しい音が響き、地下室全体が揺れる。
梯子の下まで向かった巨人は、身をかがめたかと思うと、
ズゥゥゥゥン!!
ひときわ大きい地響きを立てて大ジャンプし、悠平達の視界から消えた。
青木悠平
立ち上がった悠平は、這う這うの体で3人の元へ向かう。
飯塚琥珀
井上涼香
彼の呼びかけに、琥珀と涼香は同じように立ち上がる。だが……
伊藤夏奈
青木悠平
夏奈は倒れ伏したまま、苦しそうに呻く。
化け物たちに踏まれたのか、彼女の右足には痛々しい傷跡が残っていた。
すねの辺りが歪に歪み、既に腫れ始めている。
飯塚琥珀
井上涼香
青木悠平
涼香が夏奈の靴を脱がしながら、悠平に指示する。
すぐさま物置のスペースまで走り、防災用の搬送具を持ってきた。
万が一の時に、背負って梯子を登れるように用意しておいた物だ。
青木悠平
痛みで動けない夏奈を搬送具で背負い、悠平はなんとか梯子を上った。
上り切ったところで、むわっと埃が顔にかかる。
既に日は落ち、資料室は真っ暗だったが、それでも酷い有様であることが一目で分かった。
床に本が散らばる。隠し扉はなぎ倒され、表の本棚に置かれていたものが全てぶちまけられていた。
そこから中庭に抜け出る掃き出し窓までのルートが、まるで竜巻が通ったかのように滅茶苦茶に荒らされている。
引き戸は蹴破られ、隣の窓ガラスも粉々に砕かれていた。
伊藤夏奈
青木悠平
惨状に気を取られていた悠平に、背中の夏奈が苦しそうに声をかける。
梯子から少し離れた場所で彼女を下ろしたところで、続いて上ってきた琥珀と涼香が駆けつけた。
飯塚琥珀
伊藤夏奈
伊藤夏奈
飯塚琥珀
その後、琥珀が夏奈に連れ添って病院に連れていった。
悠平と涼香で、荒らされた箇所を少しずつ戻していく。
妙なことに、あれ程の異常事態が起きたにも関わらず、様子を見に来る人は誰もいなかった。
井上涼香
青木悠平
井上涼香
井上涼香
涼香がいつになく不安そうな態度で、資料室のテーブルに置いたあの本を見ている。
理解の範疇を超えた超常現象に対して、悠平は何も考えられなかった。
……ピキィ……!
片付けがほぼ済んだ頃、中庭の方から、奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
青木悠平
井上涼香
青木悠平
恐怖心を抑えて、悠平は掃き出し窓の方に向かう。
武器として掃除に使っていたホウキ……それと、あの本も持っていった。
青木悠平
青木悠平
覚悟を決めて外に出る。
中庭も多少荒らされていたものの、資料室と比べればまだ被害は少なかった。
ガサガサ……ガサガサ……
向こうの植え込みが、風もないのに不規則に揺れている。
???
茂みをかき分け、小さな化物が出てきた。
バスケットボールほどの大きさの獣だ。
先程目の当たりにした魑魅魍魎たちの中では小さい方だ。
とはいえ油断はできない。巨人がいないのを確認した悠平は、本を足元に置いて、ホウキを構える。
???
ドドドドドド
次の瞬間、イノシシのような速さで、化物はこちらに突っ込んでくる。
湧き上がる恐怖を抑えて、悠平はホウキを振りかぶった。
青木悠平
バキィッ!!
ぶつかる直前、ゴルフの要領で思いっきりぶち上げる。ホウキが衝撃でへし折れる。
???
ビタン!
高々と舞い上がった化物は、受け身も取れずに中庭の地面に落ちた。
青木悠平
???
青木悠平
化物は怒声のような鳴き声をあげながら、すぐさま立ち上がる。まるで効いていない。
ドドドドドド
先ほどと変わらない勢いで、再び突っ込んできた。だがホウキが折れた以上、立ち向かう手段がない。
青木悠平
せめて激突だけは避けようと、タイミングを見計らっていたところに、
バシャアッ!!
水が爆ぜた。視界の端から、化物と同じ大きさの水玉が、一直線に飛んできた。
???
そのまま奴の側面にぶつかり、ゴロゴロと転がっていく。
青木悠平
???
水が飛んできた方向から、女性の声が聞こえる。聞き覚えのない声だ。
慌てて足元の本を拾ってから、悠平は声の方向を見る。
向こうの方から誰かが走ってくるのが見えるが、暗くてよく分からない。
???
ドドドドドド
化物はみたび突進してくる。
水が効いたのか、先程より随分ふらついているが、それでも闇雲に、こちらに向かって。
???
青木悠平
???
青木悠平
一か八か、助けてくれたことを信じて、悠平は本を開いた。
バッ!
足元に迫っていた化物に向けて、適当に開いたページをかざす。
???
化物が急停止した。次の瞬間、
ヒュウウウウウ──!
掃除機のような大きく吸い込む音がしたかと思うと、奴の身体がふわりと持ち上がる。
???
悲鳴を上げながら、本のページへとまっすぐ吸い込まれていった。
ズン!
持っていた悠平の両手に、やや重い手応えが走る。
???
青木悠平
すぐ近くで聞こえた声に従い、悠平は本を閉じた。
カタカタ……カタカタ……
少しの間、本は不気味に揺れていたものの、やがて動かなくなった。
青木悠平
???
青木悠平
悠平は声の方を見る。自分と同年代の少女が立っていた。
神秘的な雰囲気の女性だ。透き通るような水色の瞳で見つめられる。
心の奥底まで見抜かれているような気がして、悠平は思わず目をそらした。
青木悠平
青木悠平
???
青木悠平
悠平は言葉に詰まる。
彼女の立ち振る舞いから、この本やあの地下室の関係者であることは明らかだった。
金庫を開けて、中の本をこじ開けたなんて、とても言えそうにない。
???
彼女はそれを知ってか知らずか、深く追及はしてこなかった。
青木悠平
???
ヒュッ──
悠平の質問を聞かず、彼女は右手を振り上げる。その途端、
バシャッ!!
青木悠平
足元から、小さな間欠泉のような水が噴き出し、本を持っていた悠平の手にぶつかる。
衝撃で思わず手を離してしまい、本は斜め上空へと打ち上げられ、彼女の手元へとストンと収まった。
???
青木悠平
???
???
青木悠平
タッ タッ タッ──
彼女は最後まで言い切らないまま、闇夜の中へと走っていった。
青木悠平