昼休み。
俺の机の上に、海翔がでかでかと広げた手作り弁当が2つ。
海翔
凪
海翔
凪
海翔
それはもう迷いなく断言された。
どうやら“記憶喪失”という設定は、彼らの中では障害でも何でもないらしい。
凪
颯真
ふと、颯真が口を開いた。
颯真
海翔
凪
言葉とは裏腹に、 箸を伸ばした俺の手が、まっさきに卵焼きに向かったことに、自分で気づいた。
凪
海翔
言いながら海翔が勝ち誇ったように笑う。
ああもう、やめてほしい。 知らないはずなのに、こうして毎日自然に“当たり前”みたいに優しくされて、 俺の知らない“俺”を押しつけられると──
心が勝手に反応する。
颯真
颯真が、ぽつりと呼んだ。
颯真
凪
颯真
その音が、耳に触れた瞬間だった。
──なぎ。
その響きだけで、 なぜか、胸の奥がじわりと熱くなる。
記憶じゃない。 もっと曖昧で、もっとずっと深い“感覚”。
凪
俺は、そう言って目を逸らした。
でも、気づいていた。 自分の手が、ぎゅっとスカートの裾を握っていたことに。
彼らはそれ以上何も言わなかった。
ただ、黙って俺の隣に座って、 2人分の弁当を半分ずつ差し出してきた。
颯真
海翔
2人とも、優しい。うるさいくらいに、優しすぎる。
でも──
それが俺を、じわじわと追い詰めていく気がしていた。
“本当に知らない”はずなのに。
俺はどうして今、 この2人の優しさを、懐かしく感じてるんだろう。
放課後。
教室のドアを開けると、もう廊下に2人が待っていた。
さっきまで別の階にいたはずなのに、どこから現れたのかわからない。
海翔
海翔はにこにこ。 颯真は、俺のバッグを無言で受け取った。
凪
颯真
颯真は自然に歩き出す。
颯真
凪
颯真
何それ。
さっきからずっとそうだ。 俺の“今”を見ずに、どこかで止まった過去の俺と重ねて、勝手に進んでいく。
でも──
鞄を持ってくれている手が、やけに丁寧だった。
海翔は、俺の肩に自然に手を回す。
海翔
凪
颯真
凪
颯真
凪
海翔
ほんとに、さらっと言ってくる。 否定する気力すら削がれていく。
そして── 車内でも、ふたりはぴったり隣に座っていた。
左右に、挟まれて。 静かに本を読む颯真と、スマホでこっそり俺の写真を撮ってる海翔。
凪
海翔
凪
海翔
凪
颯真
颯真の言葉に、海翔が頷いた。
海翔
凪
海翔
颯真
颯真はスマホを取り出して、 小さな画面を俺の前に差し出した。
そこに写っていたのは── たしかに、俺に似た少年だった。 笑っていた。誰よりも自然に。
凪
海翔
海翔
颯真
知らない。 覚えてない。 でも。
ほんの一瞬、画面の中のその顔が、 俺の胸の奥をチクリと刺した。
──ああ、なんで。 知らないはずなのに。 泣きたくなるくらい、懐かしいと思ってしまった。
凪
海翔
凪
海翔が、少し驚いたように俺を見て、すぐに笑った。
海翔
凪
海翔
凪
颯真
凪
颯真
俺は、 目を逸らすしかなかった。
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