夜に浮かぶ満開の桜を見ると、 美しさと恐怖を感じる時がある。
死体が埋まっているという話も、 なんとなく納得できてしまう。 そのぐらいに美しい。
だが、花のない桜の美しさにも 気づくべきだろう。
スッと伸びた細い枝に絡まる 芽吹く前の花たち。 太い幹はその地肌を そっと地面に降ろして立っている。 風に吹かれて踊る仕草は、 まるで音楽にのせて 無邪気に踊る子どものようだ。
そして、夜にはその肢体は 月の光を浴びて怪しく光る。 ぼんやりと発光するそれは、 昼とは違う顔を見せる。 風に揺られて振られる枝は、 誰かの手のようにも見える。
おいで、おいでと手招きされて、 死の世界へと誘われる気さえする。 よほどの正気がなければ、 そのまま逝ってしまうだろう。
だから今でも夜には 桜の木の下は 通らないようにしている。
ただ
酷く殺意を抱く相手には、 夜桜を勧める時が……ある。
内なる薄暗い希望を胸に、 そいつが夜桜を観に行くことを願う。 強く。 よほど強く。
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