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さて、土曜日です。
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昨日、亜矢に電話した。
ひと通り、聞いてくれた亜矢は
亜矢
亜矢
亜矢
だって。 なんか拍子抜けするアンサーもらったな。 でも、そうかもねって。
瑞樹のことは、言えなかったケド。
慎吾の反応も、聞けなかったけど。
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ということで、駅に着いた。
9時50分です。
電車を降りようとすると、
圭
圭くんが、電車に乗り込んできた。
果歩
圭
果歩
圭
果歩
圭
ホントに、私のこと、見てる…
何考えてるのかわからないけど、 ウソついてないコトだけはわかる。 話すとき、いつも真っ直ぐ見つめられる。
果歩
圭
ウチの方からだと、 学校の1つ先の駅ってこと。 そこはターミナル駅で、 大きなショッピングモールがある。
圭
駅ビルの隣、小さなビルの1F。
オシャレなイタリアンレストランみたい。 あんまり美容院ぽくない外装。
圭
サヤ
うわ、またまたキレーな…
サヤ
果歩
って、オウム返しじゃーん!
サヤ
圭
そうだ!強調!
果歩
サヤ
圭
よかったのか?
果歩
キレイだけど、不思議な姉弟。
シャンプーが終わって鏡の前。
サヤ
ショート…は、ダメだ。
果歩
サヤ
果歩
サヤ
圭
果歩
そう、約束があるのだ。
小学1年生の夏休み、 何も考えず髪をショートにした。 プールや虫採りにジャマだったから。
そしたら
果歩!髪、どうして?
瑞樹が半ベソで言ったのだ。
だって、プールのとき面倒だもの。 長いと暑いし
そんなに切ったら、 オトコみたいじゃないかっ! ダメだよ、 果歩は、お姫さまなんだからっ!
え?だって、もう1年生だよ? お姫さまごっこは、もうやらないんだよ?
…やらないの?
やらない…の、かな?
なんとなく、ゴッコ遊びは、 幼稚園でおしまいだと思ってた。
慎吾もサッカークラブに入ったし、 私もスイミングスクールに通い始めてた。 瑞樹だって、 剣道の稽古の日が増えてたし。
…やらなくても、髪は切らないで。 果歩は、お姫さまだから
いつもあまり感情を出さない瑞樹が、目にいっぱい涙をためて、私に言ったのだ。
わかった。ゴメンね、瑞樹
約束してね、果歩
うん、約束するよ瑞樹。だから泣かないで
あの日から、 ずっと髪をロングにしている。 もう、瑞樹を悲しませないように。
今でも、そう思ってるのかな瑞樹は。
あんなに意地悪なこと言うのに、 髪を切ったら、また泣くのかな。
腹いせに切りたい気持ちと、 瑞樹の悲しい顔と、天秤にかけたら…
やっぱり
瑞樹があんな顔するのはイヤだな
の気持ちが勝った。
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サヤ
シャンプー台で仰向けになる。
サヤ
あー、亜矢にも言われたな、マユ。
果歩
まさか、眉では泣かないよね、瑞樹。 私だって、少しは、キレイになりたい。
せめて、瑞樹と慎吾の隣にいることが、 許されるくらいには。
今まで、 そんなこと考えたことなかったのに… 最近、何かが変わり始めてる。
少し怖いな…
だいぶ時間が経って、 圭くんはどうしてるのかな?と見回すと、スタッフや他のお客さんに、ニコニコと 話しかけて。 お店のアイドル的な?
ホントに不思議なヒトだなー。
鏡の前でブローが始まった。 すっかり髪が乾くと、だいぶ頭が軽い。
サヤ
髪の色も少ーし明るくなって、 とにかく軽い。 長さは、肩の下まであるのに、フワフワと軽ーい。
眉もキレイに整えられて、鏡の中の私は…
女の子だーっ!
サヤ
圭くんの大きな瞳が、 鏡の中の私を真っ直ぐ見る。
圭
店中の人が、みんなこちらを見る。 どこからともなく拍手が…
圭
お客さんやスタッフの 暖かい視線が私に注がれる。
はっずかしーい! けど、ちょっとウレシイ。
果歩
ペコリと頭を下げたら キレイなカールが目の前で跳ねた。 ふわふわっと…夢みたい…
圭
果歩
え?どうして?
突然、涙が溢れ出した。
サヤ
圭
果歩
『お姫さま』ってワードは、 涙のスイッチになってたみたいで。
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果歩
お店の奥の休憩室で、圭くんに ココアを渡されて、少し落ち着いた。
圭
首を激しく横に振る。
果歩
圭
そのあと、お姉さんにお礼を言って 料金を払い、店を出た。
ショッピングモールのカフェで、 遅めのランチを、圭くんと2人で食べた。
涙のワケは、聞かれなかった。
圭くんは、 髪のことも、もう何も言わなかった。 ずっと、面白い話ばかりしてくれてた。
圭くんて、すごく優しいんだ
この時間だけ、初めて… 瑞樹と慎吾のことを、 忘れてたかもしれない。
圭くんとは、駅で別れた。
私の電車が動くまで、 圭くんはずっと手を振ってた。
天使みたい。背中に羽が見えてきた
私も小さく手を振った。
……
電車の窓に映った自分。
お姫さま…
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幼稚園の頃のマイブームは、 お姫さまごっこだった。
DVDで見る王子様は、瑞樹にピッタリで。 当然、私はお姫さま。 慎吾はいつも「オレ、今日はなに?」 って。 ネズミだったり馬だったり。家来とかね。
それでも慎吾は、 ウルトラスーパーポジティブなので
よし、 じゃあ、ネズミになって馬車つくるっ!
とか、
家来だから、城つくるぞっ!
とか言って、 それはとても楽しそうなので、 いつも3人でストーリーそっちのけ。
最後のクライマックスシーンだけ、 瑞樹が膝まづいて
姫、一緒に城へ帰りましょう
とか、
姫、ワタシとケッコンしてください
とかを言わせて、 でもそれはとっても嬉しい瞬間で
ハイ…
なーんて言って、 瑞樹と手を取り合って、見つめ合って…
はい、おしまい。めでたしめでたし
と、慎吾が割って入るまでは 私は ホントに瑞樹のお姫さまになっていた。
でも、白雪姫をやったとき…
泥だんごの毒リンゴを食べて ベンチに横たわった白雪姫の私。 クライマックスは、そう…
おお、なんとうつくしい姫だろう!
瑞樹は本当に私に口づけした。
そう、これが瑞樹の言う 『また俺と』 だ。
ビックリしたけど、イヤじゃなかった。 白雪姫だから当然だと思ってた。 子どもだね。
でも、慎吾が…
やだ…
慎吾?
瑞樹、悪い王子やれ!
悪い王子?
そうだよ、オレが姫を守るやつやる!
なんのお話し?
いいから、勝負しろよ!
慎吾は、魔法の杖みたいな、 小さな棒を2本拾って瑞樹に1つ渡した。
いくぞっ!
わあ、ちょっ!
2人が棒で戦い始めた。 ポカンとベンチで座っていると
姫、オレが悪者から守りますっ!
って、 戦隊ヒーローみたいなポーズをとった 慎吾がなんだかカッコよくって、 なんのお話しだかわかんなくなっちゃったけど… ワクワクしてきた。
調子にのった私は慎吾に
私の最強のナイトに 『あいのちから』を授けましょう
なんて言ったりした。
あいのちから、が効いたのか、 慎吾は瑞樹をどんどん追い詰めた。
剣道やってた瑞樹は、 大振りの慎吾をなんとかかわしてたけど 、とうとう、 すべり台の上に追い詰められた。
そして、飛び降りた!
痛いっ!
慌てて2人で瑞樹に駆け寄る。
瑞樹っ、大丈夫?
おいっ、どこが痛いんだっ⁈
足…骨、折れたかも…
えーーっっっ‼︎
背中、乗れっ!
慎吾の背中に瑞樹をのせて、 私は瑞樹の靴を持って、 3人で瑞樹の家まで走った。
あとはあんまり覚えてないけど…
それぞれ、 親からひどく叱られたんだよね。
骨は折れてなかったけど、 足首をネンザした瑞樹は… 次の日、幼稚園をお休みした。