美咲
「…………」
僕は無言のまま手紙を読み続けた。
そして読み終わったあと、深い溜息をつく。
美咲
もう一度、手元にある便箋を見る。
そこには綺麗な文字でこう書かれていた。"賢者様へ"――その一言だけが。
「…………」
なんだこれ。
まるで告白の手紙じゃないか。
こんなのラブレター以外の何物でもないよ! しかし誰が書いたのか分からない。
というか、名前もない。
宛名もなければ差出人も書かれていない手紙が届くことがある。中身を見てみると、そこには自分の気持ちが書かれている。返事を書くと、その手紙は消えてしまうけれど、誰かが自分のことを想ってくれているという事実があるだけで幸せな気分になる。
「あなたへ」という題の手紙が届いた。
宛名もない、差出人の名前も書いていない。それでも誰から来たのかわかるような気がする。これはあの人からの手紙なのだとすぐにわかった。
僕は急いで封を切る。
『賢者様』と書かれた便箋を手に取る 差出人はクロエからだ!手紙を開く前に、まずは目を通す。そして返事を書くためにペンを持つのだ
「今日はこんなことがあったよ」「あの時は楽しかったよね」など、日常の報告が書かれている。最後には必ず、「早くあなたに会いたい」と書かれている。その言葉を見る度に胸の奥がきゅっと締め付けられ、私も同じ気持ちだよと伝えたくなる 便箋を開いたら最後、返事を書いていないことはバレてしまうだろう。それでも私は書き始める。彼女の喜ぶ顔を想像しながら書く手紙はとても楽しい。まるで自分が書いたとは思えないほど可愛らしい文章になってしまうが、それも悪くないと思えるくらいだ しかし彼女は私が返信していないことを怒るだろうか。いや、それはないはずだ。彼女だって忙しくしているはずなのだから。それに、もし怒っていても、最後は笑って許してくれるに違いない 一通り読み終えると、返事を書き始めた。もちろん、内容は先程の手紙に対するものだ。何度も書き直した結果、納得のいくものが書けた それを封筒に入れ、封をする。あとはこれをポストに入れるだけだ。しかし、この瞬間が一番緊張する。いつまで経っても慣れることはないが、いつまでもこのままではいけないと思う。なぜならば、彼女に心配をかけたくないという想いがあるからだ 深呼吸をして、ゆっくりと歩き出す。
美咲
1 さっきまで雨降っていたんだけど、急に晴れてきたんだ。きっと天気の子がいたんだよ ネロボイス1 どうした?眠れねえのか?まあそんな気分の時だってあるか。じゃあホットミルクでも作ってくるか シノボイス1 祭りの次は花火だろ。見ないと損するぞ ヒースボイス1 綺麗ですね。それにしても、まさか賢者様に浴衣を着せられるなんて思いませんでした……
リケボイス1 お酒ですか!? 僕まだ飲めないんですけど……。ジュースとかはないですかね……
アーサーボイス1 皆さま、今日という日を精一杯楽しみましょう。私も精一杯楽しむことにします アーサーボイス2 本日の主役は我らが賢者様です。どうか存分に楽しんでください カインボイス1 お前たちのおかげで祭りに参加出来るぞ。ありがとうな カインボイス2 祭りの間は俺たち騎士が責任を持って守るから心配するな。安心してくれ リケボイス1 今日の主役はあなたですよ。私たちが守りますので、何も気にせず楽しんでくださいね リケボイス2 さあさあ皆さん!今夜は飲んで歌って踊り明かしましょう! ファウストボイス1 騒々しいのはあまり得意じゃないんだけどな……
ファウストボイス2 まあいいだろう。たまにはこういうのも悪くはない ネロボイス1 どうしたんだよ、先生。そんな浮かない顔して。せっかくなんだから、楽しくやろうぜ ネロボイス2 料理も酒もたくさんあるんだろ?遠慮
美咲
特別なものなんだね うん! 俺の特別をあげる! ありがとう! 大切にするね 宝物にする 宝物だね! そうだね! あのね、賢者様。俺は君が好きだけど、君のことは何も知らない。君が何者で何が好きで何を嫌がるか何もわからない。君は俺より賢く強くて優しいかもしれないけれど、やっぱり俺は君を知らない。俺が知っているのは、君が人間だということだけ。俺達魔法使いとは全然違う生き物だ。俺達は空を飛べるし水の中を泳ぐことができる。君ができないことを知っている。俺達ができることを知っている。そして、俺達のことを少しはわかってくれていて、俺達にできないことを知っている。俺達は君が欲しいものをあげられないし、君が欲しくないものをあげられる。俺達は君が嫌いなものを知っていても、それが何かまではわからない。それなら、俺達はお互いを知
美咲
(先生せんせいセンセイ)
フィガロボイス実装記念 お前の頼みなら何でも聞いてやるぜ? レノックスボイス実装記念ファウスト先生!どこに行ってたんですか!? ネロボイス実装記念 あぁもう。あんたは本当に手が掛かるんだから ブラッドリーボイス実装記念 俺様がいなくて寂しかっただろうが オーエンボイス実装記念 ねぇ騎士様。僕と遊ぼうよ ミスラボイス実装記念 眠れなかったんですよ ルチルボイス実装記念 カインさん!一緒に遊びに行きましょう! クロエボイス実装記念 わー!カインの部屋可愛い!! ラスティカボイス実装記念 チェンバロを持ってこようかな シャイロックボイス実装記念 おや。お客様とは珍しい ムルボイス実装記念 賢者様の世界の話聞かせて! ベネットボイス実装記念 あっ、あのっ、賢――……いえ、なんでもないです リケボイス実装記念 何度言えば分かるんですかあなたは! オシャレな服とかあるのかしら? この世界にも似合うかしら? どんなデザインが好きなのかしら? 着て欲しいものは何かしら? 色は何色が好きなの? アクセサリーとかあった方がいい? 髪飾りとか似合いそうよね。リボンにしてもいいかも。ああ、それとも帽子の方がかわいいかしら? 髪型はどうしよう? ハーフアップにする? 編み込みにする? それともポニーテール? あぁんもう悩むぅ〜!!!
「ミチル」
「なんですか?」
「お願いがあるんだけど」
「はい、なんでしょう!」
「今すぐ俺に魔法をかけて欲しいんだ」
「へ!?」
「頼むよ。君にしか頼めないことだ」
美咲
「ちょっとした事情があってね。このままじゃ俺は一生女の子になれないままなんだ。だからその呪いを解くために、どうしても君の力が必要なんだよ。頼むよ、ミチル」
「うぇえ!? じょ、女性になりたいなんて、いったい誰に言われたんですか!? それにしてもまさか賢者様が女になりたがるとは思いませんでしたけど……。で、でもでも、もし本当にそうなっちゃったら困りますもんね。わかりました、任せてください!」
「ありがとう。恩に着るよ。これでようやく呪いを解くことができる」
「ではいきますよ……《サンクチュアリ》!」
「あれ? 何も変わってないじゃないか」
「ええっ? おかしいなぁ。いつも通りやったはずなのに……」
「もう一度やってくれるかい?」
「もちろんです。……《サンクチュアリ》!!」
「ダメだ、変化がない」
「そんな……。もしかしたら……あのときの……」
俺はその記憶を思い出した瞬間、その場に膝をついて泣き崩れてしまった。
「あのとき?」
俺の言葉に疑問を持ったのか、リリスさんは首を傾げている。
「はい。昔この森で迷子になったときのことなんですけど……」
そう言いながら、俺は昔のことを思い出していた。
***
『もうこんなところに居たくない!』
俺はそう言って森の中を走り回っていた。
(なんでいつもこうなるんだろう?)
俺は昔から運が悪い。親からは"不運の子"なんて呼ばれてたほどだ。
そして今もこうして、見知らぬ土地で一人ぼっちになっている。
『はぁ、はぁ』
走り回って疲れてきたのと、日が落ちてきて薄暗くなってきたせいもあってか、次第に歩くスピードが遅くなっていった。
『ここどこ?』
完全に道がわからなくなった。今まで通ったこともない場所だし、そもそも帰り道すらわからない。
『ぐすん、お母さんお父さん……』
泣いている
美咲
の場合
「おやすみなさい」と言ってくれた賢者様に手を振って部屋を出る。
(明日は何をしましょうか)
そんなことを考えながら階段を降りていると、踊り場にある窓から見える中庭に、見慣れた後ろ姿を見つけた。
「ネロ!」
声をかけると彼は振り返って私の姿を確認するなり、「げぇ」という表情をした。どうしたのかと思って近づいてみると、彼の手元にはお酒の入ったグラスがあった。
「もしかして飲んでたんですか?」
「まあ、たまにはな。あんたが心配することじゃないさ」
そう言って誤魔化す。本当は違う。本音を隠しているだけだ。
だって本当の気持ちなんて言ったら困らせてしまうだろう。それに僕が「好き」だと伝えたところでどうにもならない。そんなことは分かりきっている。
僕は臆病者なんだ。傷つくことが怖くて何もできない弱虫。だけどそれで良いと思っている。僕の隣にはいつも彼がいる。それだけで十分だ。これ以上は何も望まない。欲ばってしまう前にこの想いに蓋をするのだ。それが一番賢明な判断なのだと信じて疑わなかった。
***
「晶ちゃんのことが好きだよ。俺の恋人になってほしい」
その言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった。彼は何を言っているのか。理解できなかった。否、理解したくなかった。目の前にいる彼の姿を見るだけで息苦しくなる。今すぐにここから逃げ出したかった。
「ごめんなさい」
なんとか絞り出した声は震えていた。彼は一体どんな表情をしているだろうか。見たくないと思いながらも視線を上げる。そこには傷ついたような顔があった。
「そっか。うん、分かっていたんだ。ごめんね、急に変なこと言っちゃってさ。気にしないで」
そう言いながら笑みを浮かべた彼は、私の頭を優しく撫でてくれたのであった――。
*****
「というわけで、今度こそ終わりです!」
「……はい?」
唐突な賢者の言葉に、クロエは首を傾げた。先ほどまでは確かにいつも通り、彼の部屋にいたはずだ。それがいつの間にかこの場所に移動している。しかも目の前には見覚えのある姿があって……。
(これって、まさか)
その可能性に行き着いた瞬間、ゾッとしたものが背筋を走る。だがそんな彼女の反応を楽しむかのように、目の前にいる男はニヤリと口角を上げた。
「さすがは元勇者だ。頭の回転が早い」
「お前の目的は何なんだ?」
「もちろん世界を救うことだとも。そのために君たちを利用しようとしているだけだ」
やはりそういうことだったのか。
彼が『大いなる厄災』と呼ばれる存在を復活させるために賢者の力を必要としていることはわかっていた。だが、どうして自分たちなのかという疑問を抱いていたのだ。他の魔法使いや人間ではいけない理由があったに違いないと思っていたのだが――まさか自分と同じ元勇者