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母がくれた幸せ

第24話 - ヒロイン

111

2022年06月01日

#ホラー

#短編集

テラーノベル

旧校舎図書室

真由美

「私を信じる民が1人でもいる限り

真由美

私は負けません！

真由美

代々王家に受け継がれてきたこのネックレスに誓って――！」

亜梨花

うーん

亜梨花

「私を信じる民が～」の部分はもう少し悲劇的にした方がよくない？

真由美

でもここはヒロインの決意が現われるシーンだよ

真由美

強めに言った方が――

亜梨花

その強さは後の「私は負けません」で爆発させた方がいいと思うの

真由美

そう？

亜梨花

こう、メリハリがつくじゃない？

亜梨花

だから前半は悲劇的、次で強さ爆発、みたいな方向で――

部員A

亜梨花たちすっご…

部員B

めっちゃ活発に議論交わしてるよね

部員A

あーあ

部員A

でもこれも今日で見納めかー

部員B

え？なんで？

部員A

なんでって…

部員A

だって今日は――

顧問

はい一旦練習やめ！

顧問

集まって

部員全員

はーい

顧問

えー今日が何の日かはわかりますね

亜梨花

はい

真由美

はい

顧問

現在亜梨花と真由美が候補に挙がっている

顧問

ヒロイン・エリザ役発表の日です

顧問

2人はこの日まで、互いに切磋琢磨してきました

パチパチパチ…

顧問

でも来月には本番

顧問

いつまでも「どっちにしよっかなー」というわけにはいきません

顧問

では発表します

真由美

どっちに決まっても恨みっこなしだからね

亜梨花

もちろん

顧問

ヒロイン役は――

顧問

真由美に決まりました！

亜梨花

――

部員A

あ…亜梨――

亜梨花

おめでとう

亜梨花

真由美

亜梨花…

真由美

ありがとう！

亜梨花

ほら

亜梨花

みんななに遠慮してるの？

亜梨花

拍手してあげて？

パチパチパチ

部員A

おめでとう真由美

部員B

おめでとう

顧問

じゃぁいつも通り亜梨花が準ヒロインで…

亜梨花

先生、私、準ヒロインはやりません

ザワッ

顧問

え？

真由美

亜梨花…なんで――

亜梨花

私、このまま真由美のサポートにつきたいんです

部員A

亜梨花…

亜梨花

結局は真由美に決まったけど、私もここまでエリザ役を突き詰めてきました

亜梨花

この経験を生かして、今度はサポートに徹したい

亜梨花

そうすれば、これまでにない最高のエリザを作り上げることができると思うんです

部員A

亜梨花…

顧問

――わかりました

顧問

本来ならヒロイン役を外れた方が準ヒロインを演じるのが慣例でしたが

顧問

今回はいいでしょう

亜梨花

先生…

顧問

サポート、よろしくね！

亜梨花

はい！

亜梨花

真由美も、これからもよろしく

真由美

亜梨花…

真由美

ありがとう

顧問

じゃぁこのまま練習続けて！

部員B

はい！

練習中

部員A

ねぇここの動きってこんな感じで――

ドンッ

グラッ…

部員B

危ない！

部員A

キャッ

部員B

…セーフ

部員B

気を付けて

部員B

ここの本棚、固定されてないのよ

部員A

えっ

部員A

こんな本詰まってんのに固定されてないってやばくない？

部員B

今こっちから新校舎の方に本移してる最中らしいよ

部員B

だから固定金具全部とられちゃってるんだって

部員A

へー

部員B

まぁなにが一番やばいって…

部員B

使われてない旧校舎で練習してるこの演劇部そのものがやばいよ

亜梨花

しょうがないよ

亜梨花

バスケ部の大会と被っちゃって、体育館使えないんだもん

部員A

でもこの本棚やば過ぎない？

部員A

ほら、ちょっと押すだけで簡単に倒れちゃうの

グラグラ

亜梨花

…ほんとね

亜梨花

気を付けないと

顧問

あ、知ってると思うけど

顧問

来月の本番ではこの図書館はもちろん旧校舎丸々立ち入り禁止だからね

顧問

本番までの練習はここでやるしかないけど

顧問

くれぐれも忘れものとかしないように！

部員全員

はい！

練習後

真由美

亜梨花！

亜梨花

真由美…

真由美

準ヒロイン役、ほんとに良かったの？

真由美

亜梨花がサポート役だけなんて…

亜梨花

いいの

亜梨花

私は私が準ヒロインを演じるよりも

亜梨花

真由美と一緒に最高のエリザを作り上げたいの

真由美

亜梨花…

真由美

ほんとに、ほんとにありがとうね！

部員A

真由美ー

部員A

先生が呼んでるよー

部員A

エリザのことで話あるって

真由美

あ、うんわかったー

真由美

じゃぁ、あたしさき行くね！

亜梨花

うん

パタパタパタ…

亜梨花

…私、準ヒロインなんかに備える必要ないもの

本番前日

真由美

こんな時間まで付き合ってもらっちゃってごめんねー

真由美

一回衣装も全部本番通りにして確認したくて

亜梨花

いいのよ

亜梨花

私は真由美のサポート役なんだから

亜梨花

じゃ、忘れ物ない？

真由美

うん

本番当日

部員A

結構人入ってるね

部員B

地元の子供とかきてるみたい

真由美

亜梨花は？

部員B

さっき先生と話した後どっか行ったよ

部員A

そうだ、衣装ここに置いてあるからね

部員A

上から王冠、ドレス…

真由美

あれ？

真由美

ネックレスは？

部員A

え…あれ？

部員A

さっき真由美から渡された中になかったよ？

真由美

えっ…ウソッ

真由美

どうしよう、あれ物語の中でも大切なアイテムで――

真由美

そうだ！

真由美

亜梨花～！

亜梨花

なに？

真由美

ネックレス知らない？

真由美

見当たらないの

亜梨花

え？！

亜梨花

私は知らないけど

亜梨花

昨日最後に練習した旧校舎の図書館で使ってなかった？

真由美

！

真由美

使った！

真由美

探してくる！

亜梨花

私もこれから行くわ

部員A

真由美、ネックレスあった？

真由美

あたしちょっと探してくる！

部員A

え？どこにあるかわかってるの？

旧校舎図書館

真由美

ハァ…

真由美

急がなきゃ…

真由美

確かに最後に使ったのは昨日、ここでだから…

真由美

きっとあるはず…

キィ…

真由美

誰か来た…？

真由美

亜梨花ー？

真由美

探しに来てくれたの？

亜梨花

…

真由美

？

真由美

亜梨…

ドンッ

真由美

え？

――グラッ

真由美

キャァァァッ

ガターンッ

ドサッ

ドサドサドサドサッ

真由美

う…ケホッ

真由美

なんで棚が急に…

真由美

いたっ…全身が痛い…

真由美

誰か…

亜梨花

あらあら

真由美

亜梨花！

真由美

良かった！

真由美

今棚が倒れてきて、挟まれて動けないの！

真由美

助けて！

亜梨花

なんで？

真由美

――え？

亜梨花

なんでせっかく下敷きにしたのに助けなきゃいけないの？

真由美

え…なに

真由美

今、棚倒したのって…

亜梨花

私だけど？

真由美

！！

真由美

亜梨花…あんた

亜梨花

そんなに睨まないでよ

真由美

っいいから

真由美

とにかく棚どけてよ！

真由美

早くしないと舞台が…

亜梨花

どっちにしろ無理じゃない？

真由美

え？

亜梨花

そもそもなんとか棚の下から抜け出せたとして

亜梨花

そこからドレスに着替えて舞台に間に合うの？

亜梨花

間に合ったとして、その本の角で傷だらけの手足で舞台に立つの？

亜梨花

その顔で？

真由美

顔、って…

亜梨花

衝撃で感覚がないのかしら

亜梨花

おでこがパックリ割れて、あなた今顔血まみれよ？

真由美

ひっ

真由美

い、いやっ

亜梨花

私はこれから、ヒロインがいなくなってパニックになってる舞台袖に行ってこう言うつもり

亜梨花

「先生、私にやらせてください

亜梨花

この1ヶ月真由美のサポートをしてきたのは私です

亜梨花

セリフも、立ち回りも全て完璧に頭に入っています

亜梨花

私なら、完璧にエリザを演じ切ることができます！」

亜梨花

ってね

真由美

亜梨花…！！

亜梨花

ちなみにあなたが探してたネックレスはここね

真由美

絶対させない…そんなこと

真由美

ヒロインはあたしよ！

亜梨花

先生が言ってたこと忘れたの？

亜梨花

今日この旧校舎は立ち入り禁止

亜梨花

あなたがどんだけ叫んでも、人は来ないわ

亜梨花

それに…

チャリン…

真由美

なに、その鍵

亜梨花

さっき先生に言ったのよ

亜梨花

子供が旧校舎の周りで遊んでた

亜梨花

図書室に入りでもしたら棚が危ないから、施錠してきます

亜梨花

って

真由美

じゃぁ、それ…

亜梨花

そ

亜梨花

ここの鍵

亜梨花

あぁ！そろそろいかないと舞台に間に合わない！

亜梨花

このあたりで失礼するわね

真由美

待って！

真由美

待ちなさいよ！

亜梨花

じゃぁね

亜梨花

元ヒロインさん

真由美

待っ――

バタンッ

ガチャ

亜梨花

だから言ったじゃない

亜梨花

私は準ヒロインなんかに備える必要ない――って

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