コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
千夏
送信ボタンを押した瞬間、スマホが冬馬に奪われた。
冬馬
冬馬
冷え切った声に、背筋が凍る。
冬馬は私のスマホの画面を見て すぐに表情を歪めた。
冬馬
冬馬
画面に表示された『送信済み』 の文字を指でなぞるようにして、冬馬は鼻で笑う。
冬馬
冬馬
冬馬
私は、何も言えなかった。
スマホを取り返そうと手を伸ばすと 冬馬はあっさりそれを後ろに引いてしまう。
冬馬
冬馬
やめて。
でも、言葉にならなかった。
冬馬
冬馬
冬馬
冬馬はスマホをポケットに突っ込んで 私を見下ろす。
冬馬
冬馬
冬馬
冬馬
私の顎を強引に持ち上げて 真っ直ぐ目を覗き込む。
冬馬
心臓が嫌な音を立てる。
違う。そんなの、違う。
私は——。
——ドンッ。
不意に、ドアが乱暴に開かれた。
真尋
冬馬が驚いたように顔を上げる。
そこに立っていたのは、息を切らせた真尋だった。
千夏
私は、その姿を見た瞬間 堰を切ったように涙が溢れた。
冬馬
冬馬が舌打ちしながら立ち上がる。
真尋
真尋
真尋は鋭い目で冬馬を睨みつけると まっすぐ私に手を伸ばした。
その手を掴もうとして——怖さで、指が震える。
私、本当に行けるの……?
冬馬
冬馬が真尋の腕を掴む。
冬馬
真尋
真尋が冬馬の手を振り払う。
真尋
冬馬
冬馬
千夏
震える声で、私は呟いた。
冬馬が驚いたように私を見る。
冬馬
冬馬
千夏
千夏
涙が止まらない。
でも、震えながらも、私は真尋の手を掴んだ。
冬馬
千夏
冬馬の顔が、一瞬だけ曇る。
そんな顔、しないで。
最後の最後まで、意地悪でいてよ。
冬馬
冬馬
冬馬はあっさりと手を離した。
でも、その目は私を逃がす気なんてないみたいに 深く沈んでいた。
冬馬
冬馬
最後に、低い声でそう言った。
私はもう何も言わず 真尋の手を握りしめたまま、その場を後にした。
——やっと、終われる。
真尋の手を握ったまま 私は冬馬の部屋を飛び出した。
夜の冷たい空気が、火照った体に刺さる。
息が苦しい。喉の奥が引きつって、涙が止まらない。
真尋
隣で真尋が心配そうに覗き込む。
千夏
千夏
震える声でそれだけ絞り出すと 真尋は「謝らないで」と短く言った。
歩きながら、ふとスマホがないことに気づく。
冬馬のポケットの中——。
でも、取りに戻る勇気なんて、ない。
千夏
千夏
小さく呟くと、真尋は「当たり前だ」と言って 私の手を引く力を少しだけ強めた。
真尋の部屋に着いた頃には 私はもう立っているのもやっとだった。
何もかも脱力して、膝が崩れそうになる。
真尋
真尋が部屋の奥へ行き タオルとペットボトルの水を持って戻ってくる。
真尋
ペットボトルを差し出され 私はゆっくりと口をつける。
冷たい水が喉を通っていく感覚が 異様にリアルだった。
真尋
真尋
千夏
千夏
声がかすれる。
真尋はしばらく私の様子を見ていたが ふっと小さく息を吐いた。
真尋
真尋の声が優しくて、でもどこか鋭かった。
千夏
千夏
本当に終われる?
そう自問すると、答えは曖昧だった。
千夏
そう思うと、また体が強張る。
真尋
真尋
そう言って、真尋が私の頭をぽんと叩いた。
真尋
その言葉に、今度こそ涙が溢れた。
千夏
千夏
私はそっと目を閉じた。
次の日の朝、私は知らない天井を見上げていた。
ああ、そうだ。真尋の部屋だ。
真尋
声のする方を見ると キッチンで真尋がコーヒーを淹れていた。
寝起きのぼんやりした頭で、昨夜のことを思い出す。
冬馬の部屋を出て 真尋の部屋に転がり込んで——気づいたら眠っていた。
真尋がマグカップを差し出す。
千夏
受け取って、小さく息を吐く。
今日から、冬馬なしの生活が始まる。
——これで、終わり。
そう言い聞かせた。
でも、現実はそんなに甘くなかった。
昼過ぎ、私は自分の家に戻った。
玄関を開けて いつもと変わらない部屋の空気を吸う。
携帯がないから 冬馬からの連絡が来ているかもわからない。
……このまま、静かに終われるかな。
そう思った、その瞬間。
——ドンドン!!
突然、玄関が乱暴に叩かれた。
冬馬
心臓が跳ね上がる。
冬馬——!?
冬馬
耳に馴染んだ、でもどこか低く響く声。
千夏
足がすくむ。
ここで開けたら、また戻ってしまう。
もう、あんなのは嫌だ。
なのに、体は勝手に ドアノブへと向かおうとする。
——違う!!
私は、終わらせるって決めた。
千夏
千夏
震える声でそう告げると ドアの向こうが一瞬静かになった。
このまま、何も言わずに帰って——
そんな願いは、あまりに淡いものだった。
冬馬
冬馬
冬馬の声が低く響く。
ドアノブが乱暴に回される音がして 私は息を呑んだ。
冬馬
その言葉に、心臓が強く脈打つ。
違う。
私はもう、終わりにするって決めた。
……でも、できるの?
このまま冬馬が去って 何もなかったように新しい日常を送る。
そんなこと、本当にできる?
冬馬
声が柔らかくなる。
冬馬
嘘だ。
そんなの、今まで何度も聞いた。
それでも私は、気づけば手を伸ばしていた。
ガチャ
ドアが開く。
目の前にいる冬馬は 少し驚いた顔をしたあと、ゆっくり笑った。
冬馬
その言葉が合図のように 冬馬は私の手首を掴んで部屋の中へと引き込んだ。
千夏
振り払えない。
ドアが閉まる音が、妙に大きく響く。
冬馬
冬馬
冬馬の指が私の顎を持ち上げる。
目を逸らそうとしたのに それを許さないように近づいてくる顔。
千夏
違うと言いかけたけど それが嘘なのは冬馬にもバレてるんだろう。
冬馬
優しく撫でるような口調。
そうやって、何度も私は戻されてきた。
冬馬
答えられない。
けれど冬馬は、それを肯定と捉えたみたいに 私の体を抱き寄せる。
冬馬
そう囁かれた瞬間、頭の中がぼやけていく。
——また、同じことを繰り返す。
でも、今は抗えない。
冬馬の手が、私の肌に触れる。
また、深く沈んでいく。