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何度も誓ったはずだった。
もう終わりにすると。
もう冬馬には触れないと。
だけど、気づけば私は彼の腕の中にいた。
冬馬
耳元で囁く声が、まるで呪いみたいに体に絡みつく。
抗う気力なんて、もう残っていなかった。
逃げるべきなのに。
真尋が手を差し伸べてくれたのに。
このままじゃ、私はまた壊れるのに——。
千夏
気づけば、涙がこぼれていた。
本当は、こんなのもう嫌だ。
けれど冬馬の手が私を縛りつけるように触れるたび 思考が曖昧になっていく。
冬馬
そう言いながらも、冬馬は手を止めない。
慰めるみたいに、でも決して逃がさないみたいに ゆっくりと私を支配していく。
冬馬
冬馬
違う。
違うのに、口に出せない。
こんなの、愛じゃないのに——。
頭の奥で、誰かの名前を呼びかけそうになった。
——真尋。
その瞬間、冬馬の唇が私の首筋を這う。 現実に引き戻される。
千夏
逃げなきゃ。
ここにいたら、もう戻れなくなる。
なのに、動けない。
私はただ、暗い夜に溺れていく。
——抜け出したいのに、抜け出せない。
終わらせる方法が、もう分からなかった。
桜の蕾が、少しずつ膨らみ始めていた。
街の空気は 卒業を控えた人々の期待と寂しさが 入り混じったような、少し特別なものに感じられる。
だけど、私の心はまだ冬のままだった。
真尋
名前を呼ばれて顔を上げると 真尋が静かに私を見つめていた。
夕暮れのカフェ、窓際の席。
オレンジ色の光が彼の横顔を照らし 優しい影を作っていた。
千夏
真尋
真尋は少し言いづらそうに目を伏せ それからまっすぐに私を見た。
真尋
千夏
言葉が、一瞬理解できなかった。
千夏
千夏
真尋
静かに告げられたその言葉が 胸の奥をじわりと締めつける。
千夏
寂しい。
でも、それを言ったらいけない気がして ぎゅっと拳を握った。
真尋
真尋が、一度ゆっくりと息を吐いた。
真尋
千夏
千夏
真尋
真尋の手が、そっと私の手に重なった。
真尋
真尋
千夏
千夏
千夏
気づいたら、言葉がこぼれていた。
千夏
真尋の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。
真尋
真尋
それでも、彼の声は穏やかだった。
真尋
苦笑するように、だけどどこか優しく微笑んで 真尋はそっと手を離した。
真尋
真尋
真尋
千夏
千夏
嘘だった。
私が選んだのは幸せじゃない。
それでも、この手を伸ばす勇気がなかった。
カフェのドアが開く。
春の冷たい風が吹き込んで、彼の背中が遠ざかる。
千夏
呼び止めたくせに、言葉が出てこなかった。
千夏
千夏
それだけが、どうしても伝えたくて。
出会った時から「ごめん」ばかりでごめんね。
こんな私を好きでいてくれてありがとう。
真尋は足を止めて、ふっと微笑んだ。
真尋
そう言って、彼は歩き出す。
幸せに……なってね
やがて桜が咲く頃 私の世界はまた、冬の色に染まる。
それでも私は 春の風に吹かれながら、そっと目を閉じた。
今だけは、彼のぬくもりを忘れないように。
真尋が去ったあと、私はそのまま街を彷徨っていた。
夕暮れの色が消え、夜の帳が静かに降りる。
気づけば、足は自然と冬馬の部屋へ向かっていた。
ノックするまでもなく、扉はすぐに開いた。
冬馬
冬馬
冬馬は薄く笑って、私を引き入れる。
暖房の効いた部屋の空気が 冷えた頬にじんわりと溶けていく。
千夏
嘘だった。
本当は、不安で、不安で、仕方なかった。
——この選択が正しいのか、ずっと考えていた。
だけど、冬馬の腕の中にいると そんなものどうでもよくなる。
冬馬
囁くように聞かれて、私は何も言えずに頷いた。
冬馬はクスッと笑うと、私の顎を持ち上げる。
冬馬
キスが落ちてくる。
強引で、優しくなんてない。
でも、それが心地よかった。
思考なんて、もういらなかった。
千夏
千夏
冬馬の首にしがみつくようにして、私は必死に縋る。
冬馬
適当に流すような声。
でも、その腕は私を離さなかった。
それで十分だった。
——私はもう、ここから抜け出せない。
真尋の言葉も優しさも、あの暖かい手も全部忘れる。
忘れなきゃいけない。
冬馬に溺れて、沈んで、どこまでも堕ちていく。
それが、私が選んだ道だから。
——このまま、沈むだけ。
———終———