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窓から差す光が肌を温めている

10月の残暑は相変わらず鬱陶しい

誰もいないこの場所で大きく息を 吸い込んだ

この空間に漂う静寂

それだけが自分を理解してくれるようで

心が少し軽くなる

でもそれがどうしようもなく

悲しかった

中村 憧埜

·····はぁ

青い春はずっと何かに隠されていて

手を伸ばしてもきっと届かない

そんなことは分かっている

分かっていた

教室に入るといつものようにそこには あいつがいる

高橋 紘時

おはよ

中村 憧埜

おはよ

教室の空気は少しだけ暖かく

柔らかな雰囲気が拡がっていた

高橋 紘時

くそ眠たいんだけど

中村 憧埜

それなおやすみ

高橋 紘時

寝るの早

また今日も何気ない一日が始まる

先生

HR始めるぞー

先生

特に連絡はないけど

先生

だんだん寒くなってくるから体調気を付けてな

先生

じゃあ1日頑張ろ

先生

終わり

気だるげな先生もいつも通りだ

高橋 紘時

一限から古典かよ

中村 憧埜

終わりだな

宮原 零

予習してきた?

中村 憧埜

してない

宮原 零

でしょうね

中村 憧埜

なにお前

高橋 紘時

なんか零髪切った?

宮原 零

切った

宮原 零

ボブにしようかと思ったけど

宮原 零

普通にチキった

高橋 紘時

へー

宮原 零

もっと興味持って

中村 憧埜

前の方が良かったな

宮原 零

うわ最低

宮原 零

嘘でも言っちゃだめなやつ

中村 憧埜

うそうそ

中村 憧埜

似合ってる

宮原 零

嘘でもダメだって言ってんじゃん

中村 憧埜

まあ気にすんな

宮原 零

何こいつ

中村 憧埜

朝から騒がしいな

宮原 零

憧埜もね

高橋 紘時

あ、チャイムなる

他愛ない話をしても心の奥の悲しみは 何故か消えなくて

とりあえず飲み込んでおいた

相変わらず苦しいけれど

それ以外どうしようも無いんだ

多分

西埼 春紀

やっほー

久しぶりに聞いた声がした

中村 憧埜

あ、春紀先輩

西埼 春紀

今日紘時は?

中村 憧埜

さぼりです

西埼 春紀

潔いな

高柴 澄

中村じゃん

中村 憧埜

久しぶりですね高柴くん

中村 憧埜

もう足大丈夫ですか

高柴 澄

うん大丈夫大したことないよ

高柴 澄

中村も体調大丈夫?

中村 憧埜

はい!めっちゃ元気です

高柴 澄

そっかよかった

千田 結空

おひさ

中村 憧埜

おひさ

千田 結空

もうそろそろシーズンラストだけど大丈夫そう?

中村 憧埜

大丈夫大丈夫

中村 憧埜

たかが1週間抜けてただけだし

千田 結空

まあそうならいいけど

高柴 澄

じゃあそろそろアップしようか

中村 憧埜

了解です

西埼 春紀

無理しないようにな

中村 憧埜

大丈夫です!

高校生になってもう半年以上経った

先輩も同級生もみんないい人ばかりで

自分には勿体ない程だった

長い一日の中で

この時間だけは倍速で進んでゆく

1歩1歩確実に

踏みしめる大地が今日は一段と

僕の存在を強く感じさせてくれる

清水 恵

今日の練習きつすぎた

中村 憧埜

恵らのパートっていつも鬼だよな

清水 恵

普通に死ぬかも

中村 憧埜

冬季が本番

清水 恵

それ言うなばか

中村 憧埜

お互い死なない程度に頑張ろ

清水 恵

死なない程度にな

いつも通りの帰り道

清水 恵

じゃーばいばい

いつもより早く沈む夕日に 少しの間見とれていた

中村 憧埜

またあした

2人は背を向けて互い違いに歩く

清水 恵

恵は静かに振り向いて再び歩き出した

疲労感が重く襲ってくる

時計の針が進む音だけが部屋中に響く

中村 憧埜

はぁ

いつになっても僕には諦められ ないことがある

普通

たったそれだけ

でも僕はそれを諦めざるを得ない

普通に生きていたい

たったそれだけが

僕には叶えられない

諦めた方が楽だとわかってはいる

でもそれじゃ僕はこの世界に居ない も同然で

今もせめぎ合う気づきたくもない感情

その感情が

自分の心を狂わせてしまう

中村 憧埜

…疲れた

高柴 澄

やっぱり最近様子おかしいよな

パンを口いっぱいに頬張りながら澄は 突然そんなことを口にした

西埼 春紀

え誰が?

高柴 澄

中村だよ

高柴 澄

なんて言うか、

高柴 澄

気づいたらうかない顔してるし

高柴 澄

ずっと考え事してるみたいだし

西埼 春紀

そうか?

高柴 澄

え春紀は思わない?

西埼 春紀

うんあんまり

西埼 春紀

あでもそれ紘時も言ってたな

高柴 澄

何かあったのかな

西埼 春紀

気になるなら聞いてみたら?

高柴 澄

俺に話してくれないでしょ

西埼 春紀

話すだろ

西埼 春紀

でもあんまり踏み入りすぎないようにな

高柴 澄

わかってる

高柴 澄

それだけは気をつけるよ

西埼 春紀

あ、あと

西埼 春紀

澄もあんまり気負いするなよ

西埼 春紀

憧埜にどんな悩みがあっても

西埼 春紀

それは憧埜自身の問題

西埼 春紀

澄の責任じゃないからな

そう言って席から立ち去っていった

高柴 澄

自分の悪い癖を見抜かれて少し 悔しくなった

そして段々と不安が差し迫っている

西埼 春紀

おつかれ

中村 憧埜

お疲れ様です

清水 恵

おつかれ

中村 憧埜

うんばいばい

疲労感がいつもより強く残る

今日はまともに走れなかった

高柴 澄

中村

中村 憧埜

はい

高柴 澄

今日一緒に帰ろ

中村 憧埜

全然いいですよ

未だにすぐれない体調が足の動きを鈍くしていた

中村 憧埜

高柴くんと帰るの久しぶりかも

高柴 澄

確かにそうだね

中村 憧埜

それにしても急でしたね

中村 憧埜

どうかしたんですか?

空気が少し揺らいだ

高柴 澄

普通に一緒に帰りたい

高柴 澄

ってのもあったけど

高柴 澄

最近気になっててさ

中村 憧埜

何がですか?

憧埜はきょとんとした顔で澄の言葉を 待った

高柴 澄

気のせいだったらごめん

高柴 澄

中村最近何かあった?

予想外の問いかけにしばらく沈黙 してしまった

高柴くんは少し不安そうな顔で

でも真っ直ぐな瞳で僕を見つめていた

中村 憧埜

そう見えますか

高柴 澄

…うん

高柴 澄

まあ違うなら良いんだけどさ

高柴 澄

無理だけはしないで欲しいから

中村 憧埜

心配かけてすみません

高柴 澄

全然いいよ

高柴 澄

俺こそ急に聞いてごめん

中村 憧埜

全然です

自分の声は少し弱くなっていた

葛藤だけがただ強く心に残る

嘘を吐いた所為なのか

何故か苦しくて

いたたまれなくなった

そして口からは言葉が零れた

中村 憧埜

高柴くん

高柴 澄

ん?

中村 憧埜

1つ聞いてもいいですか

高柴 澄

いいよ

高柴くんは戸惑いながらも優しい顔で僕を見ている

中村 憧埜

高柴くんにとって

中村 憧埜

普通って何ですか

高柴 澄

普通?

少し驚いた顔でそう言った

高柴 澄

普通か…

高柴 澄

何だろう

澄は少し考え込んでから答えた

高柴 澄

ご飯食べてお風呂入って寝るとか友達と話したり笑ったり

高柴 澄

でもそれって人それぞれ違ってると思うし

高柴 澄

…それぞれに自分なりの普通があるっていうか

高柴 澄

だから多分普通って

高柴 澄

ある意味自分らしさなんじゃないかな

中村 憧埜

その言葉に

涙が溢れそうで

言葉が出てこなかった

高柴 澄

どうした?

中村 憧埜

…何でもないです

中村 憧埜

ありがとうございます

高柴 澄

そっか

自分の勇気の無さも

曖昧さも

弱さも

全部情けなくて

消えてしまいたかった

夜が更けていく

僕たちの姿が次第に

夜に沈んでいく

頭の中にもやっとした感情が こびり付いている

中村が考えていることが全く分からない

なぜかあの時

二人の間に1つ線が引かれたようで

すぐ近くにいるのに

手が届きそうになかった

高柴 澄

はあ

西埼 春紀

憧埜どうだった

高柴 澄

全くわかんない

高柴 澄

でも一つだけ聞かれた

西埼 春紀

どんな?

高柴 澄

普通って何ですか

高柴 澄

って

西埼 春紀

んーよくわかんないな

西埼 春紀

でも澄が言ってた通り

西埼 春紀

なんか悩んでんだろうけど

高柴 澄

うん

西埼 春紀

まあ一旦様子見といた方がいいな

高柴 澄

だよなー

未だに不安は解けなかった

高橋 紘時

憧埜

いつもより少し控えめな声が 聞こえてきた

中村 憧埜

ん?

高橋 紘時

今日部活いく?

中村 憧埜

んー

中村 憧埜

多分行く

高橋 紘時

おっけ

中村 憧埜

で、本題は?

高橋 紘時

うわバレてた?

中村 憧埜

ばればれ

中村 憧埜

いつも関係ない話してから本題
入るからな

高橋 紘時

なんか恥ずい

中村 憧埜

で、どうした?

紘時は真っ直ぐと僕の目を見つめていた

高橋 紘時

最近ずっと様子おかしいけど

高橋 紘時

何かあった?

中村 憧埜

それ昨日も聞かれた

高橋 紘時

知ってる

中村 憧埜

そんなになんか変?

高橋 紘時

いつもと比べたらな

中村 憧埜

そっか

高橋 紘時

やっぱ俺にも言いたくない?

中村 憧埜

…うん

高橋 紘時

…わかった

高橋 紘時

じゃあいいや

高橋 紘時

また後でな

中村 憧埜

うん

心にはやっぱり苦さが残っている

今日は何となく憂鬱で

部活を休んで夜の道を歩いている

全く抜け出せない底なしの悲しさが

どうしようも無い空虚が心を覆う

高橋 紘時

あれ憧埜

高橋 紘時

部活にも来ないでどうした

中村 憧埜

今日は体調が悪かった

中村 憧埜

今は散歩してるだけ

高橋 紘時

もっと上手く嘘ついてくれ

中村 憧埜

嘘じゃない

何故か目を合わすことができない

高橋 紘時

本当に俺にまで話せないような事?

中村 憧埜

…うん

高橋 紘時

でも誰にも話さずにいても何も解決しないし苦しいだけだぞ

中村 憧埜

話した方が苦しくなるんだよ

中村 憧埜

紘時には絶対にわからない

中村 憧埜

わかった気になられても困るし

中村 憧埜

誰にも踏み込んでほしくないんだ

中村 憧埜

頼むからほっといてくれ

憧埜は紘時の横を走り去ろうとした

高橋 紘時

待てよ

紘時は憧埜の腕を強く掴んだ

中村 憧埜

離せ

紘時は力を緩めてはくれなかった

高橋 紘時

俺にはわかんないとか

高橋 紘時

わかった気になんなとか

高橋 紘時

何も話してくれないくせに

高橋 紘時

勝手に決めつけて俺の事わかった気になってんのは憧埜の方だろ

強ばった表情で憧埜を見つめた

高橋 紘時

俺はだいたいのことはわかってる

高橋 紘時

お前が秘密にしてるつもりでも

高橋 紘時

ちゃんと分かるよ

紘時は少し涙目になりながら強く 言葉を放つ

高橋 紘時

だからさ

高橋 紘時

俺の事信じてくれよ

中村 憧埜

憧埜は俯いて涙を零した

中村 憧埜

…だいたいってなんだよ

高橋 紘時

そりゃわからないこともあるけど

高橋 紘時

わかった気になんてならないから

中村 憧埜

…うるさい

高橋 紘時

いつまで泣いてんのw

紘時は少し呆れたように笑っている

高橋 紘時

じゃあな

憧埜の肩を優しく叩いて

あっという間に去っていった

中村 憧埜

…ありがと

聞こえるはずのない声がぽつんと夜に 落とされた

これは

僕が有りもしないこの世界の正解を

ひたすらに追いかける物語

第1話煩い

いつかのさよならを君に。

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