みりん
みりん
みりん
異世界の街は、思ったよりも腹が減る場所だ。 異世界に転生したあと、目の前に広がる活気ある街並みに 感動するよりも先に、お腹の音に悩まされていた。
筒川夜乃
通りに立ち並ぶ屋台からは、香ばしい肉の匂いと スパイスの香りが立ち込めていた。
串焼き、焼きパン、紫色のスープ… 何か『謎』だが、とにかく全部美味しそう。
だが財布は空っぽ。 というか、財布すらない。
筒川夜乃
仕方なくフラフラ歩いていると、 人だかりが出来ている広場にたどり着いた。
そこには一枚板の大きな掲示板。 「冒険者ギルド」 と書かれており、求人や依頼が張り出されていた。
筒川夜乃
ワクワクしながら目を通すが______。
「Dランク魔物の討伐」「崖の下の素材拾い」「呪いの洞窟の掃除」 など、命の危険を感じる案件ばかり。
筒川夜乃
諦めかけたその時、掲示板のすみっこに貼られた 一枚の小さな紙が目に入る。
《見習い皿洗い募集 即日OK 住み込み応相談》
筒川夜乃
周りの人の冷えた視線が夜乃に集まるがそんなものは気にしない。 夜乃は、その紙に書かれた地図を頼りに、 薄暗い裏通りの奥へと向かった。
ついた場所は、くすんだ看板がぶら下がる小さな食堂。 《クルリ食堂》 と書かれていた。
扉は「ギィ」と不気味な音を立て、外観はボロボロ。 だが中からは、驚くほどいい匂いが漂っていた。
筒川夜乃
恐る恐る扉を開けると、 カウンターの奥からひょこっと顔を出したのは 小柄なエルフの老婆。 白髪をキュッとまとめ、 いかにも“クセ強そう”な雰囲気を全身から放っている。
老婆
筒川夜乃
老婆
カイル
筒川夜乃
ツッコミつつも、 夜乃はそのまま厨房に引きずられるように案内された。
厨房の奥に案内された夜乃は、まず光景に固まった。
筒川夜乃
そう言いたくなるほどの、荒れ果てたキッチン。
調理台は油と汁とパンくずのカオス。 床には焦げた鍋、皿、フォーク。 皿の山は、流しの横に「積み上がってる」というより 「崩壊しかけてる」という状態だった。
筒川夜乃
クルリ
筒川夜乃
夜乃のツッコミが虚しくこだまする中、 クルリは淡々と皿洗いセットを用意する。
とはいえ、そこにJ●Yやキュ●ュットは存在しない。
クルリ
筒川夜乃
スポンジ代わりに渡されたものは、生きていた。
クルリ
筒川夜乃
スライムは皿にぷるん、と飛び乗り、 勝手に回転しながら泡を立てる。
夜乃が慌てて水を流すと、 さらにキュッキュと音を立てて仕上げを始めた。
筒川夜乃
洗い終わった皿は、 水精霊が宿る『水蛇口』からでる水でゆすぐ。 手をかざすと、小さな精霊が ピチャっと音を立てて水を出してくれる。
筒川夜乃
が、その癒しも長くは続かない。
皿は次から次へと追加される。 しかもなぜか、時々血のついた骨付きナイフや、魔法陣が彫られた鍋の蓋とか、魔物のものっぽい食器も混ざってくる。
筒川夜乃
異世界バイト、想像以上に肉体労働。 気づけば前髪は汗でべっとり、腕は泡まみれ、 スライムは頬に張り付いて離れない。
筒川夜乃
クルリはそれを見てケタケタ笑いながら、唐揚げを揚げていた。
クルリ
筒川夜乃
だが、時間が経つにつれて夜乃の手の動きも少しずつ慣れてくる。 スライムの動き方に合わせて持ち方を変え、 水精霊の気分に合わせて水量を調整し、 血のついた皿には手を合わせてから洗う。
筒川夜乃
それは、「皿洗いが楽しい」のではない。 自分の手で異世界の中に関わっているという、確かな実感だった。 夜乃は汗だくになりながら、とうとう最後の一枚を洗い終えた。
その瞬間、厨房の奥から漂ってきたのは、 とんでもなくいい匂いだった。
クルリ
渡されたのは、深い赤褐色のスープと、 少し焼き色のついた黒パン。 スプーンで一口すくって口に運んだ瞬間、夜乃は目を見開いた。
筒川夜乃
味覚が震えた。 肉はとろけ、野菜は甘く、スパイスはじんわり身体を温める。
筒川夜乃
クルリはニンマリ笑いながら、唐揚げを皿に盛っている。
クルリ
夜乃は、皿洗いでボロボロになった手を見つめながら、 心の底から思った。
筒川夜乃
新しい冒険の始まりは、想像以上にヌルヌルしていて 泡立っていた───。
みりん
みりん
みりん
筒川夜乃
コメント
2件
コメントありがとうございます!!
わあああ!!!なんか背景つくと雰囲気出るね…