死神
(何やってるんだろう、僕──)
死神が一番似つかわしくない場所に来ている
死神
ほんと、どうかしているよな
王子
(……なんで、隣にいるのが)
王子
(あいつじゃないんだ)
大司教が誓いの言葉を問いかける
王子
王子
──俺は
ちょうど、そのとき──
ぎぃぃ
両開き扉が鈍い音を立てながら、ゆっくりと開き人影が中へ入ってきた
黒いローブに身を包んでいる
王子
……!
参列者
……だ、誰だ?
参列者
……見張りはどうした?
ざわ……ざわ……
闖入者に周囲は騒然となった
ただひとりを除いて──
死神
死神
ご無礼を──
死神
僕──いえ、私のような卑しいものが
死神
参るべきではないことは、重々承知しております
死神
本来、顕現さえおこがましいことも──
フードを脱ぎ、美貌があらわになる
あまりの美しさに参列者たちは息を飲んだ
死神
──しばしのご辛抱を
身廊を中ほどまで進む
新婦は不安げに新郎を見つめるが……
王子
……だ
死神
ん?
その場で足を止める
王子
どういうつもりだ!?
王子
なぜ、フードを脱ぐ?
死神
死神
いや、だって──
死神
脱がないと失礼でしょ?
口を尖らせ、大股で歩いてくる
ぎゅっ
死神
……!!
王子
──俺以外の目に、触れさせたくない…………
死神
……はぁ、困った子だね
死神
死神
この間、“僕に関わっちゃダメ“って
死神
──言ったばかりだけどさ
死神
本当に僕でいいの?
王子
アンタ以外、誰がいる?
死神
……代償、高くつくよ?
王子
一緒にいられるなら、怖くなんかない
死神
──敵わないな
腕を回し、優しく抱きしめ返した
死神
僕を怖がらず、キレイと言った人間は──
死神
きみが初めてだ
チュ
唇を重ね合わせた
死神
…………
すぐに唇を離す
王子
死神
──逃げるよ
王子
……!
腕を掴み、ふたりは教会を飛び出した
参列者たちは呆然と見送る
そして、じょじょに騒ぎ始めた──
ぎゃははは!
教会に乗り込んだ挙句、花婿を連れ出すなんて
今までのお前なら、まずあり得ない無鉄砲さだな
死神
……笑いすぎ
王子
…………
こんなに笑ったの久しぶりだわ♪
死神
死神
……国中騒ぎになってる?
なってるぞ
なんせ、一国の王子をかどわかしたんだからな〜
死神
……どうしよう
頭を抱える
まあ、起きたことは仕方ない
王子
王子
いつまでコイツと喋ってるんだ?
不機嫌な表情を隠そうとせず、睨みつける
死神
──あとで構ってあげるから
あ、そうだ
忘れないうちに伝えておくぞ
死神
なに?
臨時休暇な
死神
死神
え? 臨時休暇?
最近、働きづめだったじゃん?
それに──
死神
それに?
こんな騒ぎになっちまったら
お前、仕事しづらいだろ?
死神
…………
しばらくはゆっくりしとけ
死神
(あー言われたけれど──)
死神
(どう過ごせばいいんだ?)
死神
……はぁ
王子
王子
幸せが逃げるぞ?
後ろから抱きつく
死神
急に抱きつかないで
死神
びっくりするから
チュ
頬にキスをした
死神
……!!
王子
やっと、ふたりっきりになれたんだ
死神
え、あ……ちょっと待て
王子
待たない
顎をくいっと持ち上げ、顔を向けさせる
王子
王子
──愛してる
キスを交わした







