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――夜の港。人気のないコンテナ街。

ひとつのコンテナの上に、 灯は腰かけていた

星明かりが水面に反射し

微かに“糸”のように揺れている

朱鷺 トキ

そろそろくるよ

朱鷺の声は、ほんの数メートル後方から

聞こえるが、その姿は見えない なぜなら

朱鷺は、“糸の繭”の中にいた

灯特製の“結界”――繭結界(コクーン)

これも灯の異能力「白い罠」の 一つの性質

その内部で、朱鷺は冷静にノートPCと通信機器を操作していた

朱鷺 トキ

敵、ひとり。中原中也。例の重力使い

灯 アカリ

部下だけでくると思ってた

灯 アカリ

結構手厚いねぇ

朱鷺の声は、繭の内から灯の耳元へ

一本の糸を通じて届いている

いわば、戦場の指揮官と刺客の秘密通信だ

そしてそのとき――

中原中也

……見つけたぜ、《蜘蛛の魔女》

‘‘狩る側’’のように

重たい足音とともに、 地面を靴音が打った

風を切るように、ひとりの男が姿を現す

中原中也

その体から、地面を歪ませるような圧が広がっていく

灯 アカリ

うわ〜、本人登場♪ 嬉し〜。

灯 アカリ

……で、どうする?

声が糸を通じて小さく届く

朱鷺 トキ

遊びすぎないで

朱鷺 トキ

相手は計りにきているだけ

灯 アカリ

はぁい

中也は帽子を軽く押さえ、構える

中原中也

異能使いの情報屋なんて

中原中也

潰す価値があるかどうか、試してやるよ

中也はしゃがみ込み地面を触る

その瞬間、地面が陥没した

灯が立っていた足場ごと 重力がねじ曲がり、破壊される

けれど、彼女の姿はすでに空中

灯 アカリ

スレッドワーク(糸移動)っと♪

障害物の間に張られた無数の糸を足場に

灯は空中を舞う

中也が追撃しようと足を踏み出すと

――その瞬間、空間が変わった

細い糸が数十本、空に網のように広がり、戦場をまるごと封鎖していた

中原中也

チッ、見えねェ罠か……!

灯の姿はすでに戦闘態勢

無数の糸を駆使し、空中を跳ね、斬り、縛り、建物ごと切り裂く

朱鷺は“何もない空間”に、静かに座っていた

灯の張った**極細の“糸の繭”**が、彼女を全方位から覆っている

異能も、すべて遮断する“隠れ処”

朱鷺はその中から、音声通信で灯に指示を送っていた

朱鷺 トキ

「右カウンター」

灯 アカリ

了解っ♡

灯 アカリ

……こっちの糸、5本追加っと!

爆風が起きる。 中也の重力が地面をめくり、 建物の外壁が崩れる

だが灯は笑っていた

灯 アカリ

おぉーー!

灯 アカリ

すごいねぇ

灯 アカリ

でも私は無傷だよ?

灯 アカリ

重なった糸が私を守ってくれるからね

空間のすべてに糸が張り巡らされている

立体機動で翻弄する灯

読みで操作する朱鷺

ふたりは、完全に“狩る側”だった

騒がしい魔性の女たち

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