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京阪電車の出町柳駅近くには
鴨川デルタと呼ばれる三角州が存在する
サラサラと流れる浅い川を横断する石のオブジェ
その上を楽しげにぴょんぴょんと飛ぶ子供
昼間から宴に興じる大学生
そんな市民の憩いの場と化した空間で
スプレーを手に向かい合う半裸の男子高校生が2人
言うまでもなく
俺と翠だ
桃
冷ややかさを含んだ桃の声が
夏の空に溶けていく
夕方とはいえ照りつける直射日光は容赦がなく
京都市内は地獄の猛暑日を記録していた
俺は仰々しく声を作り
手を挙げて宣言する
紫
紫
紫
付近にいた大学生が
いいぞいいぞと囃し立ててくる
俺と翠は投げキッスで声援に応え
再び向かい合う
翠
翠
翠
翠
紫
紫
このスプレーは
髪の表面に色素を付着させるだけだ
お手軽な反面
安価な商品だとムラが出やすく扱いづらい
しかし
高校生のお財布事情では高価なスプレーに手を出せないのだ
紫
紫
紫
紫
紫
俺は桃から聴取した情報を
再度翠に伝えた
ドッペルゲンガーが桃として生きているのならば
生活リズムも同じだろう
翠
翠
俺は切腹をする武士のごとく正座になり
翠は介錯をする武士のごとく背後で構えた
ただならぬ緊張感が鴨川デルタを包み込む
道行く人々は
俺たちを訝しむような視線を浴びせる
桃
桃
紫
紫
桃
紫
紫
桃
桃
どうやらお気に召さないらしい
まあいいや
俺は片手を挙げ
翠に合図を出す
それを確認した翠が
俺の後頭部に勢いよくスプレーを吹きかけた
黒染めスプレーをムラなく仕上げる秘訣はただ一つ