午前七時二十八分。空はまだ曇天を引きずっていて、春のはずなのに肌寒い風が吹きつける。
世一はベッドの中で目を開けていた。
起きてから三時間が経っていたが、身体は鉛のように重く、喉は何かに締めつけられているような感覚が続いていた。
世一
掠れた声で言うと、隣のキッチンから聞き慣れた足音が返ってくる
カチャリ
マグカップの音と、冷蔵庫の扉が閉まる音。だが返事はない
世一
そう言って起き上がろうとした世一の腕を、誠志郎の手が掴んだ
誠志郎
穏やかな声。けど、それが嘘だと世一は分かっていた。誠志郎はいつだって「お前のため」に動く。
学校に行きたがってるのは世一自身じゃなく、きっと誠志郎だった。世一が壊れた今、誠志郎まで壊れかけていた。
世一
誠志郎
その言葉は、心地良い毒だった。
その日の学校
誠志郎が登校すると、教室の空気が歪んでいた
玲王が前日の出来事を根に持っているのは明らかで、机に拳を叩きつけた音がまだ残響のように耳に残っている。
豹馬
声をかけてきたのは豹馬。いつも話しかけないでスマホを見ているやつ。
誠志郎
廊下に呼び出され、豹馬は一瞬だけ真面目な顔になった
豹馬
誠志郎
誠志郎は額に手を当てて、眉をしかめた。言葉を選びかけて、やめた。
誠志郎
豹馬
その頃、家では
世一は窓を見て、曇り空をぼんやり見つめていた。
あの事件以来、玲王の影がどこにいてもつきまとう。玄関のチャイムが鳴るたびに心臓が跳ね、誰かの足音がすれば息が詰まった。
世一
自分でもわからない。いや、わかりたくないのかもしれない。
凪が玲王に会ってた——それだけで全身が崩れてしまう自分の脆さに。
夕方
カーテンを閉め、布団に潜った世一の耳に、玄関の音が届く
誠志郎
誠志郎の声。温かくて、怖い。優しくて、苦しい。
世一
立ち上がろうとするも、身体が言うことをきかない。扉が開く音。そして誠志郎が静かに近づいてきて、世一の額に手を当てる。
誠志郎
世一
誠志郎
世一がゆっくりと顔を上げる。誠志郎の瞳が近くて、真っ直ぐすぎて、逃げ場がない。
誠志郎
その“あれ”が何を意味するか、二人にはもう言葉なんていらなかった。
夜
凪の部屋で二人は新しいノートを開いていた
表紙には、赤ペンでこう書かれている
《二人だけのルール》
世一がペンを握る。誠志郎がそれを見守る。最初に書いた一行目は、こうだった。
「兄は弟を疑わない」
次に誠志郎が書く。二行目。
「弟は兄を絶対に裏切らない」
その赤い文字が増えるごとに、部屋の空気が少しずつ閉ざされていく。
翌朝——
学校の門をくぐる誠志郎。いつもと同じ無表情。けれど、玲王はすぐに近寄ってきた。
玲王
誠志郎
玲王
誠志郎の拳が震えた。だが、殴ることはしなかった。ただ一言
誠志郎
next300♡and2comment
コメント
2件
なぜこのような神作がかけるのでしょうかぁぁぁ? 大好きですほんと