翌朝
山野英真
目の下にくっきりとしたクマの浮かんだ顔をぴしゃりと叩き、うなだれる
考えたところでどうしようもないことだと分かってはいても
自分に憑いているらしい閻魔王と、その影響を考えずにはいられなかった
山野英真
山野英真
山野英真
そう言いつつも、また昨日、久留間が言った言葉が頭の中で反芻される
――閻魔王は元々のインド神話じゃ、人間として生まれたんだ
――死んでから神になった、人間なんだよ
――それが仏教に取り込まれて、閻魔って仏になった
音声と乖離して、スローモーションで再生されるような脳内映像
それをぼんやりと、まるで眼球の裏側で眺めるような感覚の最中に
山野英真
突如、激しい頭痛が英真を襲った
重々しい服に文句を言いながら袖を通す記憶
泣き叫んで懇願する誰かに、優しく手を差し伸べる記憶
複数人から呆れ混じりに叱責される記憶
山野英真
久留間の回想と同時になだれ込んでくる、覚えのない記憶
せめて整理させてほしいとあえぐ英真の意思など度外視したように
それでも、謎の記憶の奔流も、そして久留間の回想も止まらない
――閻魔王は人を罪に相応しい場所に振り分ける神様だ
――鏡や死者の肩に乗ってる神、杖なんかを使って死者の罪を見通すんだけど
――冥府のシステムは時代によって移り変わるらしい
――今は閻魔王自身に、それを見る力があるのかもね?
――それを……理由は分からないけど、山ちゃんが付与されてる
やまない頭痛に、藁にすがるようにお守りを握りしめる
閻魔王は厳密に言えば、英真に憑いているのとは違うらしいと聞いた
だからこそ理由や詳細を聞くこともできないのだと
しかし冥界の王ならば、せめて説明責任くらい果たしてほしいと切に思う
山野英真
山野英真
治まり始めた頭痛に深く息を吐き、ぐったりと窓に頭を預ける
今日もまたなにか起こるのではないかと諦めにも似た不安を見ないフリで
英真は一人、規則正しい電車の揺れの中で目を閉じた
鬼王篁
山野英真
突然引き止められ、正気に返る
眼前には荷物用ロッカーがあり、危うく正面衝突するところだったらしい
山野英真
山野英真
鬼王篁
鬼王篁
山野英真
山野英真
鬼王篁
山野英真
山野英真
鬼王篁
鬼王篁
鬼王篁
鬼王篁
山野英真
鬼王篁
取り付く島もない言い様に、仕方なく教室を出て中央棟へと向かう
10分休憩のためか、廊下はどこも騒がしい
理科棟を通って中央棟に行けば少しはマシになるかとも思っていたが
購買部を利用する生徒が多いためか、わいわいとはしゃいだ声が溢れていた
他人とぶつからないよう、できるだけ壁際を選んで階段を降りる
山野英真
山野英真
山野英真
できることならこのまま友人になりたいと思いかけ
閻魔王が憑いているから出来上がった関係なのだと、昨日の悩みが湧き上がる
山野英真
山野英真
途端、背中を押された感覚と、体が傾く感覚に襲われる
壁側に手すりはない
とっさになにかを掴もうと伸ばされた手は、呆気なく空を切った
考えごとをしていた弊害か、とっさに受け身を取ることもできず
山野英真
ただ、漠然とそう理解した
その視界の端で、黒い髪が階段を駆け上がっていくのを見る
瞬間
久留間悟
頭がニットに触れる感覚と、頭上から潰れたヒキガエルのような声が聞こえた
山野英真
山野英真
久留間悟
久留間悟
久留間悟
英真の全体重をなんとか受け止めた引き攣り笑いに
事態を飲み込めないまま曖昧にうなずく
そんな英真の内心を汲んだ様子で、久留間は階段上を指さした
久留間悟
見れば、大人しそうな女子生徒の行く手を遮る形で渋谷が立っている
愛想笑いが苦手なのかぎこちない笑顔を貼り付けたまま話すその姿は
校内でなければ不審者として通報されかねない状況だった
久留間悟
久留間悟
その時、血相を変えて階段を駆け下りてくる人影が見えた
日焼けした肌が、目に見えて青ざめながら向かってくる
それを見て久留間が何事か声をかけながら手を振ったとき
英真は、意識を手放していた
久留間悟
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
スマートフォンを確認した久留間の言葉に振り返りもせず
渋谷は静かな口調で、まっすぐに前を見据える
青い顔でまじもの研究会の椅子に座っているのは
先ほど階段から英真を突き落とした女子生徒だった
もはや隠すこともできないほどガタガタと震えているその足もとを見かね
久留間はあっけらかんと笑いながら紅茶を差し出す
久留間悟
久留間悟
久留間悟
渋谷大
渋谷大
女子生徒の体がはっきりと跳ね、唇が白くなるまで噛み締める
その仕草こそが肯定だと目配せし、久留間もまた席についた
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
その言葉に、女子生徒は弾かれたように渋谷たちを見た
なぜ知っているのかという驚愕と、知られているという絶望
しかしその二つがない交ぜになってやがて一つに落ち着いた頃
女子生徒は、観念したように肩を落とした
女子生徒
女子生徒
久留間悟
久留間悟
久留間悟
女子生徒
女子生徒
女子生徒
女子生徒
――その頃、英真が見ていたのは血なまぐさい光景だった
山野英真
腰まわりだけを隠す布だけを身につけた人々が、無我夢中で殺し合っている
腕が飛ぼうが耳がちぎれようが、痛みに絶叫しながらやめようともしない
そんなただなかに放り込まれた格好で、英真は呆然と立ち尽くしていた
山野英真
山野英真
???
???
山野英真
背後から聞こえた声に、振り向く
そこには重々しい道服を着込んだ男が立っていた
王帽から垂れた飾りがシャラシャラと音を立て、その表情を隠しているが
覗き見えるその口元は、申し訳なさそうに引き結ばれている
???
???
???
互いに引き寄せられるように、各自が一歩、距離を詰める
そこでようやく垣間見えたその顔に、英真は息をのんだ
山野英真
???
???
???
???
悲しそうではあるものの、あくまで微笑みながら白い両手を広げる
阿鼻叫喚が響き渡る暗い場所で、笑顔を見せる謎の人物
いっそ夢なら早く覚めてくれればいいのにと願いながら
英真はただ、今こそ頭痛が起きてほしいと暗い空を仰いだ
コメント
9件
ヒキガエル笑 久留間さん、体力ないのにしっかりと英真くんを受け止めるの格好いいです☺️ 閻魔さまやお願いボックス、そして英真くんの記憶… 全てが繋がるときが楽しみです…!!
通知に裏切られました なんともう金曜日です 通知に裏切ら(ry) 冥府...ってことはもしかして最後に出てきた人物って閻魔様です!? そして次の私というのは...? もしかして閻魔様の方に何かのっぴきならない理由があって、次の閻魔という職(?)ポジション(?)を誰かに継いでもらわなきゃいけないとか...? そして英真君は帰れるのか(目覚めるのか)... 続きが楽しみです!
最初っから読み進めてようやっとここまで追いつきました😇😇 続き楽しみにしてますー!!