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好きな人に触れられない関係が、 数ヶ月続いた。 お互い距離がありつつも、 二人でいるだけで、その小さな距離が無くなったかのように穏やかに過ごしていた。

それでももう、この関係に終止符を打つ時は近いのかもしれない。 時間を増す事に、どんどん蘇枋の体調が悪くなっている様に感じる。 俺と居る時だけ陶器の様に白く綺麗な顔は、青くなり、どこかしんどそうだ。

最初は顔に出さないよう頑張って居たようだが、最近はそんなポーカーフェイスも出来ないほど苦しいらしい。

このままではきっと、蘇枋はどんどん弱っていってしまう。

俺は、初めて愛した人を、はじめてあいしてくれたひとを、殺したくない。 俺が原因で死んで欲しくない。

蘇枋に話があると、 少しづつ、クラスメイトや、蘇枋の物が増えてきたボロアパートに呼び出した。

こんな関係もう終わりにしようと、 そう告げるためだけに。

2人してかしこまる様に、小さな部屋で、座布団も広げず星座をして座り込んだ。その距離は、やはり離れていて、 寂しさを感じるには充分な距離だ。

蘇枋

桜君。急に呼び出してどうかしたの?

桜君と2人きりなんて久々だなぁ。と、少し嬉しそうに蘇枋は微笑んでみせた。 だがその顔色は、いいとは言えない。 蘇枋の体調の為にも、 早く要件だけ伝えて家へ返してしまおう。

少し開いた口が震えて、言葉がすぐに出てこない。それでも俺は、平然とした態度を保っていた。心配を書けないためにも

なぁ蘇枋。

蘇枋

ねぇ桜君、高校卒業したら何しようか。

俺の言葉を塞ぐ様に、蘇枋が言葉を重ねてくる。察しの良い蘇枋には、俺が何を言おうとしているのかが分かっている様だった。それを聞きたくないと、必死に言葉を紡いでいる様にも見える。

先程少し震えた唇から、バレてしまったのだろうか。 そう考えた俺を他所に、蘇枋は俺との未来に付いて話していた。

蘇枋

大人になったら一緒に住もうよ。

蘇枋、

蘇枋

それとも、苗字を一緒にする?

蘇枋。

蘇枋

いやだ。聞きたくない

喋り続ける蘇枋の名を呼ぶ。決して大きいボリュームではなく、静かに。 やっとの事で観念したのか、蘇枋は語り出すのを辞めた。 少しの間を開けて、子供の様な口調で、何も聞きたくないと、駄々をこねた。

自分の気持ちを整える様に、すぅっと大きく息を吸い込んだ。 その様子を見る蘇芳色の瞳は、とても不安そうで、今にも泣き出してしまいそうだった。

わかれよう。

自分の物だとは思えないほど、 静かで、冷静な音が出た。 小さな部屋は、しんと静まり返っている。

その言葉を等々聞いてしまった蘇枋は、顔を少し俯けた。 赤みがかった滑らかな髪が、さらりと蘇芳色の目を隠し、表情は読み取れない。 落ちてきた髪を、掬ってやりたいと思ったが、今俺が触れてしまえば、蘇枋の体調は更に悪くなるだろう。それに、何もかも台無しになってしまう。

自分の気持ちをすっと奥底に押しとどめ、俺はじっと蘇枋が言葉を放つのを待った。

蘇枋

別れない。

上げた顔が迷子の子の様だ。 口調もどこか子供っぽくなっている。 蘇枋隼飛だって15歳の人間だ年齢並みに子供っぽい仕草くらいする。 その仕草を知っているのは、俺だけだったのにな。

きっとこのまま別れれば、蘇枋は幸せになれる。俺なんかといるよりも、ずっと…… 蘇枋がこの先俺以外の誰かと笑いあっているのを想像して、ほんの少し寂しい気持ちになった。

お前、あの時と比べて更に体調が悪くなってきてんだろ

蘇枋

……バレてたんだ、

隠せない程しんどいんだろ

蘇芳色の隻眼が少し泳いだ。きっと図星なのだろう。 今の状況は、まるで罪人とでも会話しているかの様だった。それほどまでに、蘇枋はしおらしく反応している。

俺はきっと、このままじゃお前を殺す。

蘇枋

俺は、君にな、殺されたっていいよ。

俺が良くない。

いつもよく回るはずの舌は、珍しく回っていない様子だった。何を言っても何を返しても、蘇枋は言葉を詰まらせている。それほどまでに、この状況は蘇枋にとって最悪な物なのだろう。 別れると言っているはずの桜まで、何か悪い事をしている気がしてならない。

きっと俺は、お前を地獄に落とす。

だから俺なんかと離れて幸せに…

蘇枋

桜君が居ない未来なんて、幸せなんて、俺はいらない。桜君がもし、俺を地獄に落とすって言うんなら、俺は喜んで地獄に落ちるよ。

桜が全てを言い切る前に、蘇枋が桜に飛びついて告白とも取れる愛を囁いてきた。

俺と居ると苦しいくせに。 近ずくだけで、俺の匂いを嗅ぐだけで、吐き気がする癖に。 それでも蘇枋は桜を抱いて離さない。 久しぶりに感じた温もりが、 近くで聞こえてくる蘇枋の声が、 全てが嬉しくて、安心できて、それでいて苦しい。

2色で色の違う桜の双眸からは、 暖かな涙が薄く膜を張り、 ゆらゆらゆれている。 今すぐにでも、ダムが決壊したかの様に泣き出してしまいそうだ。

離れろよ…、

蘇枋

いやだ。

離れろなんて言っては見るが、 蘇枋は絶対に離さないと、 抱きしめる力をさらに強めた。 苦しいくらいにぎゅうぎゅうと抱きしめられているのに、 やはり嬉しい。 そう感じてしまうのだから、 桜から無理やり蘇枋を引き離す事など出来やしなかった。

だらんと垂れた桜の手は、行く先を探す様に、迷いながらも蘇枋の背に手を置いた。 なんだかんだ言って、桜も蘇枋に滅法弱い。

我慢していたはずの瞳からは、 暖かい涙が、桜の頬を濡らしていく。 今まで、全く泣いて来なかった桜は、 下手くそな鳴き声を出した。 それは声を我慢する様で、それでも少し溢れてしまって、

それに気づいた蘇枋が優しく桜の背を撫でた。優しく、優しく。 壊れ物でも扱う様に。

蘇枋

桜君、俺は君と一緒にいたい。

桜が泣き止む頃、蘇枋は桜に引き剥がされ、初めの様に一定の距離を保って座っていた。 抱きついたせいなのか、 その顔色は最初より悪い。 それでも表情は幸福に満たされていて、桜の恋愛センサーがビビッと反応した。

泣き顔を蘇枋に見られて恥ずかしいやら、蘇枋から出される恋愛オーラのおかげで、桜の頬は赤く染まっていた。 これだけ泣いて、蘇枋に抱きついても、桜の意思は一切変わらない。

俺は…離れ……たい。

先程抱き合ったせいで、固かった筈の意思は、揺らいでしまい、言葉をスルスルと発することが出来なかった。

蘇枋

ほんとうに?

……

蘇芳色の瞳が、先程とは打って代わりこちらを力強く見ている。 その瞳は、桜の気持ちなど何もかも見透かしていそうで、 桜は、等々、下手くそな嘘をつくのを辞めた。 立場が逆転し、今度は桜が、罪を白状させられている罪人の様になった。

一緒にいたい…

俺だって、お前と…ずっと。

蘇枋

うん、俺もだよ。

二人して、困った様に笑いあった。 こうして思いが通じても、今の現状を変える事など、何一つ出来やしないのだから。

なぁ、蘇枋。

蘇枋

なぁに桜くん。

思ったよりも、蘇枋から返ってきた言葉は甘い。本当に桜が、愛おしいという顔で。

このままお前は、俺といれば死ぬ

蘇枋

…そうだね。

じゃあ俺も、お前と一緒に死にたい。

蘇枋は、少し言葉を詰まらせた様だった。それでも、その顔は桜に向かって優しく微笑んでいる。 桜だけに、桜のためだけに向けてくれる蘇枋の甘い顔。 この顔が、もう独り占め出来ないと思うと、桜は少し残念に思った。 そんな桜の考え込ん等気にしないかの様に、蘇枋は桜の右手をとり、 そっとその甲に触れるだけのキスをした。

蘇枋

仰せのままに。

あまりにらしくなさすぎて、 思わず、ふはっと吹き出して笑ってしまった。 そんな桜の顔をみて、蘇枋もまた 優しく笑みをこぼした。

いつかまた、2人1緒にいられるのなら。

そんな無い未来の事を考え込ん、 桜は蘇枋に気づかれぬ様、胸の奥深くへと隠した。

『 』一緒に痛い。

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