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キーン コーン カーン コーン
突然の鐘の音に思わず背筋をピンとする。
教壇には何者かが腰の後ろで腕組みをして立っていた。
何故ここにいるのかも、どうやってここに来たのかも、ここがどこなのかも分からない。
教室のちょうど真ん中あたりの席に座っている。
人は突然の出来事に対して瞬時に対応できない。
硬直しているという表現が正しいのだろうが、何かが起こるまでそのまま座っていることにした。
何者かが口を開いた。
???
???
???
ひどい顔をしていたらしい。
何者かは取り繕うようにチョークを手に取った。
カツカツカツと黒板を鳴らしている。
しばらく様子を見ようと考えているうちにどうやら書き終えたようだった。
「死にたいと思ったことはありますか?」
白い粉をかぶった服を叩くと再び腕を後ろで組んだ。
文字の羅列をじっと見る。
何度も読み返すが言葉は理解できても内容は頭に入ってこなかった。
それほど動揺し、この状況に恐怖すら感じる。
???
???
???
凶器になるようなものは見当たらない。
前も後ろも扉が開いていて風通しが良いくらいだ。
たとえ襲われても簡単に逃げることができそうだった。
本当に意見を聞きたいだけのようだ。
死にたいと思ったこと……記憶にある限り一度もない。
自殺願望や自傷行動も今まであったことがない。
口にすることはあっても本心ではないので「無い」という答えだろう。
???
???
若者言葉のような、軽く使ってしまう「死にたい」という言葉の裏にはどのような感情があるのか。
恐らく恥じらいや疲れ、最大限の喜びを感じたり、恐怖する場面を想像してしまった時に使っている。
多くは、失敗をして恥ずかしくてその場から消えてしまいたい時に「死にたい」の四文字で感情表現を済ませている。
あるいは過度な刺激を受けるとこれ以上何も感じたくないという思いが強くなり、その場で人生を終わらせても良いくらいだ、という例えだろう。
いずれにせよ本当に死のうとしているわけではない。
???
手で顔を覆いながら何者かは唸った。
肯定するような、それでも答えに納得いかない様子だった。
考え込みながら風に揺られるカーテンに触れる。
何者かに合わせて外を見やるとどうやらここは一階ではないらしい。
何者かは視線を落としてしばらく黙った。
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心のざわつきを遮るようにカラカラと窓の閉まる音がたつ。
何者かはガラスに掌を当て反射した瞳を見つめているようだった。
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???
呼吸が荒くなる。
視線は机の木目に落とされ猫背になっている。
一滴も汗をかいていないのに今にも落ちてきそうだ。
生きていることを確認するかのごとく息を吸う。
苦しい。
死を意識した時の緊張感とでも言えばいいのだろうか。
様子がおかしかったのだろう。
何者かは慌てて振り返り近寄ってきた。
???
???
???
催眠から解かれたようにこわばった筋肉が緩む。
胸に手を当て心臓の音を確認した。
……生きている。
???
???
???
???
???
何者かは再び黒板へと目を向ける。
「死にたいと思ったことはありますか?」