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扉を通った先は、巨石を並べた円形ステージが中央にある闘技場で、高い階段状の観客席が円形ステージをぐるりと囲んでいた。
ぼくが出たのは、円形ステージに通じる入場門だった。
円形ステージの周りにバラバラにいる100人くらいの子供達の中に、見知った顔があった。
ユウゴ
名前を呼ぶと、向こうもぼくに気づいて駆け寄ってきてくれた。
ユトリ
身長ほどもある大きなハンマーを片手で軽々と持ったままで。
ユトリ
ぼくの視線が気なったのか、ハンマーをぼくの前に突き出した。
ユトリ
ユウゴ
ユトリの手からハンマーを受け取った。
右手から右肩にかけてにズンッと下に引っ張られるような強い力を感じて、反射的に手を離した。
ぼくの右手を離れたハンマーは、地面にドンッと落ちると、半分くらいが地面に埋まった。
持ったままだったら、右肩が外れるか、腰骨が折れていたかもしれない。
ユトリ
ユトリが地面に埋まったハンマーをひょいと持ち上げた。
ユウゴ
ユトリ
ユウゴ
ユトリ
ユトリが思い出したように声を上げた。
ユトリ
ユウゴ
ガイド妖精には教えてもらえなかったけど、アルクも無事に再試をクリアしていたみたいだ。
ユトリ
ユトリに急かされて、案内されるままに走ってついていくと、人だかりができていた。
その人だかりの中から、聞き覚えのある声が2つ聞こえてきた。
シシロウ
アルク
人だかりをかき分けて中に入ると、アルクとシシロウがつかみ合って言い争っていた。
ユウゴ
ユウゴ
アルク
シシロウ
2人がぼくに気づいて一瞬力をゆるめた。
が、お互いにそのスキを見逃さずに、ふたたび力を込めた。
ユウゴ
アルク
シシロウ
ユトリ
ユトリ
ユトリが首を傾げる。
騒動に引かれて集まってきた他の子供達も、2人の言い分の意味がわからないために、困惑した表情を浮かべていた。
さっきアルクに病室で聞かされた話によると、魔法使いとは魔物に襲われて傷を負った人間だけがなれるものらしい。
魔物は魔法使いの魔法でしか倒せないとも言っていた。
魔物が人を襲わないと、魔法使いは生まれない。
魔法使いがいないと、人を襲う魔物は倒せない。
堂々巡りだ。
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
何体ものガイド妖精も騒ぎを聞きつけて飛んで来た。
シシロウはすぐに手をはなしたが、元々合格する気など無いアルクは三度つかみかかろうとした。
ユウゴ
ユトリ
ぼくとユトリが左右から腕をつかんで、力ずくでなんとか止めた。
ガイド妖精
ユウゴ
アルクは両手両足をジタバタさせて、ぼく達に
アルク
と連呼している。
ユトリ
ガイド妖精
ガイド妖精が本当に説明を始めた。
ガイド妖精
円形ステージの中央に黒い稲妻が落ち、小さな爆発が起こった。
たちのぼる黒い煙の中から、数頭の真っ黒な犬のような獣があらわれた。
ユトリ
獣の姿を見た瞬間、ユトリが息を呑み、アルクをおさえる腕の力が抜けた。
アルク
アルクの言葉を受けて、ぼくもアルクから手をはなした。
左肩の傷がうずいて、思わず右手で左肩をおさえた。
会場にいる他の子供達も、恐怖や怒りや悲しみ等の反応をしている。
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
アルク
シシロウ
今にも飛びかからん勢いのアルクを、シシロウが制する。
アルク
アルク
子供達に動揺が広がる。
ぼく以外の子もみんな、魔物に会っただけでなく、その時に襲われた記憶があるのだろう。
ユトリも息が荒くなり顔をおさえている。
シシロウ
シシロウ
この場において、1番冷静なのはシシロウだ。
頼もしくもあるが、第2試験での親しげな彼とは別人のように感じた。
シシロウ
シシロウがガイド妖精に礼をして頭を下げると、ガイド妖精から次の音声が流れた。
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
すべてを言い終わると、ガイド妖精は上空へと飛び上がった。
それまでじっとしていた魔物達が、一斉に走り出した。
大きさは体長1メートルくらいで、形は犬や狼に似ている。数は3~40頭くらいか。
???
???
???
???
???
襲い来る魔物に対して、子供達が円形ステージとは逆方向に逃げ出した。
しかし、観客席の壁にぶつかり、すぐに逃げ場を失った。
シシロウ
最初に動いたのはシシロウだった。
剣を握り直して、円形ステージに向かって歩いて行く。
シシロウ
シシロウの演説に、何人かの子供が
と感化されて円形ステージに上がっていった。
???
持っている魔法具《マギアツール》はみんな、剣、槍、斧等の武器型なので、正義感や英雄志向が強い子達なのだろう。
円形ステージの上で、シシロウを含む10人くらいの子達と魔物犬の戦いが始まった。
魔物犬が子供のひとりの腕に咬みついた。
???
鼓膜が破れそうなほどの悲鳴。
その悲鳴の大きさと牙のスキマから流れる血に、自分が魔物に襲われた時の記憶がフラッシュバックした。
ユトリ
ユトリは持っていたハンマーを落とし、顔をおさえて、その場にうずくまってしまった。
その時に一瞬だけ、ユトリの前髪のスキマから顔が見えた。
おでこから左目にかけて、ななめに傷痕があった。
魔物から受けた傷。
ぼくも左肩に傷があるけど、
顔を傷つけられた時の恐怖は、比べ物にならないだろう。
円形ステージの上では、シシロウ達と魔物犬の戦いが続く。
腕を咬まれた子供は戦意を喪失してその場にへたり込み、他の魔物に頭から咬みつかれて、消滅した。
その様子を見て、他の子達にも恐怖が伝わっていき、動きが止まった。
シシロウだけは剣を構えて、魔物犬をいなしている。
シシロウ
シシロウ
シシロウが、円形ステージの外で恐怖に怯えている子供達に向かって叫ぶ。
シシロウ
シシロウ
シシロウ
シシロウの言う通りだ。
今でも、あの時の魔法使いは命の恩人だと思っている。
再試をクリアして、最終試験に戻ってこれたのは、ぼくにも魔法使いになれる可能性があるからだ。
あの時の、名前も知らない、顔も覚えていない魔法使いと同じように、魔物に殺されるかもしれない子供を助けられるようになるためだ。
ユウゴ
今、円形ステージの上はシシロウひとりだけ。
魔物犬にとっては格好の的だ。
ぼくを奮い立たせてくれたシシロウを助けるためにも、行こう。
足を前に出した時、ぼくの両どなりにも前に歩みを進めた者がいた。
ユトリ
ユトリ。
声が震えてるし、ハンマーを今にも落としそうなほどに、手に力が入っていない。
ユトリ
ユウゴ
ユトリ
声は震えたままだけど、自分の言葉で自分を奮い立たせて、ハンマーを持つ手に力を込める。
アルク
アルク。
アルク
彼女の自信ありの顔は出会った時から変わらない。
合格したら、本当にやらかしてしまいそうだ。
アルクを止めるためにも、ぼくも合格しないとな。
ぼく達の行動に感化されたのか、壁際で震えていた他の子達も前に出て、円形ステージに向かって歩き始めた。
その数、約90人。
数だけなら、魔物犬の2~3倍。
人数差に気圧されたのか、魔物犬達が一歩だけ後ろに下がった。
シシロウ
先に戦っていたシシロウが余裕の笑みをぼく達に向ける。
シシロウの剣の刃が、炎に包まれる。
魔物犬の群れに向かって走っていき、炎の剣を振り下ろす。
切っ先が魔物犬の1頭に触れて傷をつけると、傷口から火が着いて、全身を炎で包んだ。
流れるような動作で、あっという間に全てが終わっていた。
炎に包まれた魔物犬が影になって消滅する。
ガイド妖精
ガイド妖精が1体降りてきて、扉に姿を変えた。
シシロウ
それだけ言うと、シシロウは扉とともに消えていった。
アルク
ユウゴ
シシロウって最初に見た時から、あんな感じの人だったしなぁ。
ユトリ
ユトリ
ユウゴ
ユウゴ
ぼく、魔法具《マギアツール》持ってないし、魔法も使えないじゃん。
ど、どうしよう。
なんか、雰囲気に乗っかってここまで来ちゃったけど、ここで1番役に立たないの自分じゃん。
よくよく考えたら、武器系の魔法具《マギアツール》を持っていた子供達は最初にやられちゃってるし。
ぼく達に感化されて着いて来た、他の子供達は、今どうしているんだろう?
周りを見ると、単独の子だけでなく、3~4人のチームで動いている子供達もいた。
第2試験で組んだチームだと思うけど、その中には魔法具《マギアツール》を持っていない子も混ざっている。
多分、再試で最終試験に来たから、魔法具《マギアツール》を渡されていない子だ。
アルク
目の前を魔物犬が1頭、横切って飛んでいった。
アルクが強風を起こして、吹き飛ばしたみたいだ。
ユトリ
ユトリが両手でハンマーを持って前に出た。
魔物犬に向かってハンマーを……
振り下ろす!
薙ぎ払う!
払い上げる!
アルク
ユウゴ
大きなハンマーをメチャクチャに振り回しているおかげで魔物犬も近づいてこないけど、攻撃もあたっていない。
と言うか、振り回しているコースと魔物犬が1メートル以上離れている。
前髪で隠れていて見えないけど、多分、目をつぶって力まかせに動かしている。
ユトリ
渾身の振り下ろしが、目の前の魔物犬の鼻先をかすめて地面に落ちた。
惜しい。あと一歩前に出ていればあたったのに。
ユトリ
ユトリが顔をあげると、目の前の魔物犬と目があった。
ユトリ
アルク
ユトリの攻撃の手が止まったスキをついて、魔物犬が飛び出した。
ユトリの足元の地面をけった魔物犬は、ぽよ~んと弾むように大きな孤を描いて、ユトリの頭を飛びこえていった。
ユトリ
ユトリの近くに行こうとしたら、地面がやわらかくなっていた。
まるでゴムかトランポリンのようになっている。
ユウゴ
アルク
ユトリ
アルク
ユトリ
ユトリはハンマーを反転させてから地面を叩いた。
すると、今度は弾まずに、ガキンと硬い音がかえってきた。
ユトリ
アルク
ユトリの魔法は、『やわらかい物をかたくする』と『かたい物をゴムのようにやわらかくする』の相互変化ができる能力だった。
攻撃よりは防御やサポート向きで、実にユトリらしい魔法だと思う。
アルク
ユトリ
アルクとユトリが、背中をあずけあって魔物犬に向かう。
ぼくは完全に足手まといだ。
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
チラホラと優勝する子供やチームも出てきた。
中には再試で来たので魔法を使えないけど、チームの仲間が魔物犬を倒したことで、一緒に合格となって扉を通っていく子もいた。
ぼくもアルクとユトリが魔物犬を倒してくれれば合格になるんだろうけど。
女の子2人に助けてもらっての合格って、なんかカッコ悪い。
アルク
アルク
ユウゴ
アルクの号令で、ぼく達3人は走り出した。
ぼく達の動きに反応して、魔物犬の群れが襲ってきた。
ユトリ
ユトリが左右の地面を交互に叩いていく。
やわらかい部分がまだらに出来ていっているはずだが、見た目には変わらない。
やわらかくなった部分を踏んだ魔物犬が転んだり、となりを走っている魔物犬とぶつかったり等はしているが、倒すまでには至っていない。
そこにアルクが強風を起こして、ころんだ魔物犬を高く吹き上げた。
高さは10メートル以上。
ユトリ
ユトリがハンマーを反転させて、かたくする面で地面を叩く。
何度も地面を叩くことで、音がガン、ガキン、ガギィンと重くなっていき、よりかたくなっていく。
風がやんで、吹き上げられた魔物犬が落ちてきた。
アルク
ガチガチにかためた地面に魔物犬が落ちれば、ペチャンコに潰れてしまうだろう。
想像するだけでもグロい倒し方だけど、今のぼく達の戦力でできる、数少ない戦術だ。
地上に残っていた魔物犬が飛び上がり、落ちてきた魔物犬が地面にぶつかる前に、喉笛に咬みついた。
咬まれた魔物犬は影になって消滅した。
ガイド妖精は無反応。
魔物犬が魔物犬を倒した場合は、ノーカウントらしい。
アルク
文句を言っても始まらない。
魔物犬を咬み殺した魔物犬が着地したと同時に、また飛び上がった。
やわらかくなった場所に着地して、跳ね飛ばされたんだ。
そのままアルクの方に飛んで来た。
無意識にぼくの体が動いていた。
アルクの正面に飛び出したぼくに、跳ねてきた魔物犬の牙が食い込んだ。
ユウゴ
アルク
ユトリ
魔物犬の長く鋭い牙が、左肩に食い込む。
ドクン。
自分の心臓の鼓動が聞こえた。
心臓の近くに強く咬みつかれた影響で、心臓に集まる血管が圧迫されて、血の流れが止められたせいか。
鼓動はさらに強くなり、左腕全体が小刻みに震えだし、もやもやした黒い煙があふれ出てきた。
ユウゴ
咬みついた魔物犬を振りほどこうと、力の限り左腕を振るう。
黒い煙に触れた魔物犬は、咬む力をゆるめて左肩から離れ、飛び降りた。
アルク
ユトリ
ユトリがハンマーで地面をたたき、ふたたび弾力をもたせる。
そこに着地した魔物犬は、地面が凹む動きに逆らわずに、伏せるような姿勢になって体を深く沈ませた。
アルク
魔物犬が凹んだ地面が戻るタイミングに合わせてジャンプし、ぼくに向かってきた。
ものすごいスピードで、避けるのは間に合わない。
ユウゴ
左手を握りしめて、向かって来る魔物犬に向かって突き出した。
何の下地もない、ただの左パンチだ。
左腕にまとわり付いていた黒い煙が、拳に集まっていく。
パンチがヒットすると同時に大爆発が起こって、魔物犬を吹き飛ばした。
左腕の黒い煙が消えて、心臓の鼓動も落ち着いてきた。
けど、それ以上に体力を消耗した。
ぼくはその場に正面から倒れた。
ぽよ~ん。
やわらかくなっていた地面が、マットレスのように優しく受け止めてくれた。
アルク
ユトリ
ガイド妖精が1体降りてきた。
ガイド妖精
ガイド妖精
アルク
ユトリ
ガイド妖精がゆっくりと、横たわっているぼくのところまで降りてきた。
本当に疲れすぎて、首をまげてガイド妖精の方を見るのも一苦労だ。
ガイド妖精
ユウゴ
手を触れようにも、手に力が入らない。
アルク
ユウゴ
アルク
アルクがぼくの左手を取って、ガイド妖精の上にのせた。
ガイド妖精
それを聞いて、やっと胸のつかえが取れた。
ユトリ
アルク
ユトリとアルクも、一緒に喜んでくれた。
けど、それに続くガイド妖精の音声に耳を疑った。
ガイド妖精
闇《ケイオス》?
魔法属性は火《イグニス》、水《アクア》、風《アエル》、地《テラ》の4つだって聞いていたけど。
ガイド妖精
疑問を聞く間もなく、ガイド妖精は扉へと変化した。
ユトリ
ユトリにとっても耳慣れない言葉だったので、アルクに質問している。
アルク
アルク
ユウゴ
立ち上がりたいけど、腕にも足にも、体のどこにも力が入らない。
アルク
アルク
ユトリ
アルクがぼくの左側に、ユトリが右側に入って、立ち上がらせてくれた。
ユウゴ
ありがとうと言いたかったけど、口も舌も思うように動かなかった。
正直、まぶたを開けているのもきついくらいに、体力が残っていない。
アルク
ユトリ
2人に言い返したかったけど、段々と意識が遠くなってきた。
視界が少しかすんできた。
アルク
ユトリ
その後、2人に支えられて扉を通ったと思うんだけど。
ここから先の記憶がない。