東條 蛍
おい!ビッグニュースだぞ!

飯島 隼人
…どうしたんだよ、朝から

東條 蛍
呑気なこと言ってんじゃねえぞ!

東條 蛍
アリスさんが生徒会長になったんだよ!

飯島 隼人
アリス?

飯島 隼人
誰それ?

東條 蛍
知らねえの?

東條 蛍
「黒の貴公子」の1人で、初代女会長だぞ!

飯島 隼人
貴公子って、男のことじゃん…

東條 蛍
それは関係ないだろ!

飯島 隼人
で、その「黒の貴公子」とやらは

飯島 隼人
どんな人たちなの?

東條 蛍
メンバーは全員生徒会関係者

東條 蛍
吉田財閥の御曹司、吉田ルカ

東條 蛍
五十嵐重工の一人息子、五十嵐五月

東條 蛍
そして、唯一の女子でが学園の番人とも呼ばれてる

東條 蛍
斑鳩証券の令嬢、斑鳩アリス

東條 蛍
この3人で構成されてる

東條 蛍
そして、ポイントは服装とバッジ

東條 蛍
この学校は私服登校ができるから

東條 蛍
彼らはオリジナルの制服とバッジを常に身につけてる

東條 蛍
服の色は黒と金

東條 蛍
それに黒のバッジ

東條 蛍
全員ともブレザーとズボンで統一してる

飯島 隼人
へぇ…

東條 蛍
あいつらは学園内でもアイドル並みの人気者だぞ

東條 蛍
何しろ、ルックスも最高だからな

飯島 隼人
ふーん…

飯島 隼人
その中でもボスとかはいないの?

東條 蛍
実はな…

東條 蛍
それが斑鳩アリスなんだよ

飯島 隼人
!

東條 蛍
黒の貴公子の奴らは非常に仲がいいらしい

東條 蛍
常に3人で行動しているそうだ

東條 蛍
その中でもトップが、斑鳩アリス

東條 蛍
だいたいこんな感じだ

飯島 隼人
よく知ってるね

東條 蛍
お前が知らなすぎるんだよ…

東條 蛍
あ、黒の貴公子のお出ましだ

東條 蛍
行くぞ

飯島 隼人
えっ

女子軍団
きゃー!!

女子軍団
アリス様、ルカ様、それに五月様まで!

女子軍団
3人も一気に拝めるだなんて!

飯島 隼人
あいつら、背、高いな

東條 蛍
だろ?

飯島 隼人
しかもあれ、スーツじゃないの?

東條 蛍
本人たち曰く、制服なんだとよ

飯島 隼人
ふーん

東條 蛍
あ、こっちに来るぞ

斑鳩 アリス
痛っ!

東條 蛍
あっ!

飯島 隼人
(しまった!)

飯島 隼人
(よけようとしてつい…)

吉田 ルカ
アリス!

吉田 ルカ
大丈夫?

斑鳩 アリス
…ええ

吉田 ルカ
君も、大丈夫?

飯島 隼人
はい、俺は平気です

飯島 隼人
あの、怪我はありませんか?

斑鳩 アリス
…

飯島 隼人
…?

斑鳩 アリス
…

飯島 隼人
あ、なるほど

斑鳩 アリス
?

飯島 隼人
はい、これ

飯島 隼人
あなた、その様子だと、人見知りですよね?

東條 蛍
いや、人見知りと教科書って何の関係があるんだよ

飯島 隼人
まあ、落ち着かせるにはちょうどいいだろ

飯島 隼人
これで、少しは落ち着きますか?

斑鳩 アリス
…ありがとう

飯島 隼人
いえいえ

吉田 ルカ
君、アリスが人見知りってよく分かったね

飯島 隼人
だって、いつまでも俺と目を合わせてくれないから

飯島 隼人
もしかしたら、って思ったんです

五十嵐 五月
…鋭い観察力

五十嵐 五月
素晴らしい

飯島 隼人
ありがとうございます

五十嵐 五月
とりあえず、移動するぞ

五十嵐 五月
人だかりができてきてる

五十嵐 五月
ありがとな、2人とも

東條 蛍
いえ、俺は何も…

飯島 隼人
大したことしてないです

吉田 ルカ
アリスが「今度恩返しするから覚悟してね」だってよ

飯島 隼人
そうですか

飯島 隼人
楽しみに待ってますね

斑鳩 アリス
(コクリ)

五十嵐 五月
まったく、人見知りが抜けねえなお前は

斑鳩 アリス
悪かったよ

斑鳩 アリス
あたしが人見知りなんてこと

斑鳩 アリス
見破られるなんて思いもしなかったわ

吉田 ルカ
でもあの男の子

吉田 ルカ
対して動揺してなかったよね?

五十嵐 五月
確か、噂で聞いたんだが…

五十嵐 五月
「黒の貴公子に何の興味も持たない男がいる」

五十嵐 五月
みたいな話を聞いたことがある

斑鳩 アリス
それが、あの子ってこと?

五十嵐 五月
だろうな

斑鳩 アリス
…名前は?

五十嵐 五月
2年3組、飯島隼人

五十嵐 五月
いいとこの御曹司だな

斑鳩 アリス
あたしらと同じクラス、か

吉田 ルカ
ふふ、面白い子だなぁ

吉田 ルカ
アリスを見て動揺しないなんて

斑鳩 アリス
いちいち動揺されたらこっちまで悲しいわよ…

五十嵐 五月
まあ、お前美人だから

東條 蛍
どうだった?

東條 蛍
斑鳩アリスとのご対面は?

飯島 隼人
別に、普通

東條 蛍
なっ!?

飯島 隼人
いいとこのお嬢様って感じはした

飯島 隼人
この学校は金持ちが多いから

飯島 隼人
身なりが整ってることは大前提として

飯島 隼人
所作が洗練されてる

飯島 隼人
育ちが良いことはわかった

東條 蛍
…それだけ?

飯島 隼人
あとは…

飯島 隼人
ハーフのせいか、日本人離れした顔立ちだった

東條 蛍
ああ

東條 蛍
日本とイギリスのハーフだからな

飯島 隼人
ふーん

飯島 隼人
じゃ、以上

東條 蛍
淡々としてんな…

斑鳩 アリス
飯島隼人…

斑鳩 アリス
興味が湧いてきたわ

斑鳩 アリス
飯島隼人の情報、集まった?

五十嵐 五月
ああ

五十嵐 五月
どうやら大会社の社長息子だそうだ

五十嵐 五月
養子で引き取られたらしい

斑鳩 アリス
彼の本当の家族は?

五十嵐 五月
わからない

五十嵐 五月
生まれたときから、養子として引き取られるまでずっと雅ヶ丘孤児院にいたらしい

斑鳩 アリス
そうだったのね…

五十嵐 五月
成績優秀、頭脳明晰

五十嵐 五月
ルックスもいい

斑鳩 アリス
面白い男ね

五十嵐 五月
アリス、なぜこいつに興味を持った?

斑鳩 アリス
…なんだろうね

斑鳩 アリス
自然と惹かれた

五十嵐 五月
随分と曖昧な…

斑鳩 アリス
あの子に御礼をするって約束もしたし

斑鳩 アリス
今日、生徒会室にお招きするわよ

斑鳩 アリス
ご無礼のないようにね

吉田 ルカ
わかった

五十嵐 五月
了解

東條 蛍
おはよー

飯島 隼人
おはよう

東條 蛍
相変わらずだなぁ

飯島 隼人
何が?

東條 蛍
あの斑鳩アリスに動揺しなかったってことで

東條 蛍
学校中で噂になってやがる

飯島 隼人
いや、動揺するほどのものじゃないでしょ

東條 蛍
まあそうなんだが…

東條 蛍
大半は遠くから眺めてることしかないからな…

吉田 ルカ
やあ、ちょっといいかい?

飯島 隼人
何ですか?

女子軍団
えっ

女子軍団
ルカ様が飯島くんに話しかけてる!

女子軍団
いいメンツだわ!

東條 蛍
何なんだよあいつらは…

吉田 ルカ
…アリスが呼んでるよ

吉田 ルカ
会長室で待ってるって

飯島 隼人
…分かりました

飯島 隼人
失礼します

飯島 隼人
飯島隼人です

斑鳩 アリス
どうぞ

飯島 隼人
(おしゃれな会長室だな)

飯島 隼人
(イギリス仕立てだろうか?)

斑鳩 アリス
紅茶、飲めるかしら?

飯島 隼人
はい、大丈夫です

斑鳩 アリス
よかったわ

斑鳩 アリス
どうぞ

飯島 隼人
ありがとうございます

彼女が入れた紅茶は、ほんのり甘くて、深い香りがする
飯島 隼人
アールグレイ、ですね

斑鳩 アリス
!

斑鳩 アリス
味でわかるのね

斑鳩 アリス
嬉しいわ

飯島 隼人
これくらい当然ですよ

飯島 隼人
俺も、紅茶全く飲まないわけじゃないので

斑鳩 アリス
そう

飯島 隼人
あの、ところで

飯島 隼人
俺に何か用があるんですよね?

斑鳩 アリス
ええ

斑鳩 アリス
そのことなんだけど

斑鳩 アリス
驚かないで聞いてちょうだい

飯島 隼人
はい…?

斑鳩 アリス
あなたには

斑鳩 アリス
「黒の貴公子」のメンバーに入ってもらいたいの

飯島 隼人
!

飯島 隼人
なぜ俺なんですか?

斑鳩 アリス
本来、黒の貴公子のメンバーは

斑鳩 アリス
生徒会関係者から選抜しなければならないけれど

斑鳩 アリス
この学園を存続するにあたっては

斑鳩 アリス
生徒会長が一般生徒を任命することができるのよ

斑鳩 アリス
私はこの先、大学卒業までこの学園を引っ張っていかなければならないわ

斑鳩 アリス
そのためには、あなたの力が必要と判断した

斑鳩 アリス
あなたの観察眼と洞察力

斑鳩 アリス
我が校の生徒会には必要と判断したわ

斑鳩 アリス
この学園を引っ張っていくために

斑鳩 アリス
力を貸してくれないかしら?

飯島 隼人
…分かりました

斑鳩 アリス
ありがとう

斑鳩 アリス
感謝するわ

吉田 ルカ
協力してくれてありがとう

飯島 隼人
いえ

吉田 ルカ
あ、ちなみに

吉田 ルカ
アリスのお礼、今回はすごいから

吉田 ルカ
期待してていいと思うよ

飯島 隼人
はぁ…?

五十嵐 五月
まさか、本当にアリスがお前を歓迎するとはな

飯島 隼人
…どういう意味ですか?

五十嵐 五月
アリスがお前に

五十嵐 五月
俺らと同じ特権を与えるってよ

飯島 隼人
特権?

五十嵐 五月
俺らにはさまざまな特権が与えられる

五十嵐 五月
まず1つ

五十嵐 五月
俺らには特別授業を受ける権利がある

五十嵐 五月
俺らは、常に高い知識と教養を持っておかなければならない

五十嵐 五月
そのために、他の生徒とは桁が違う授業を受けることができる

飯島 隼人
なるほど…

飯島 隼人
(悪くないな)

五十嵐 五月
2つ目

五十嵐 五月
俺らには1人ずつ部屋が用意されてる

五十嵐 五月
菓子、飲み物、良質な設備は全て完備だ

五十嵐 五月
ここまで登りつめてきた俺らだけの特権らしい

飯島 隼人
…それが

飯島 隼人
斑鳩さんのお礼っていうやつですか?

五十嵐 五月
ああ

五十嵐 五月
不満か?

飯島 隼人
いいえ

飯島 隼人
ありがたいことです

飯島 隼人
俺でよければ

飯島 隼人
是非

五十嵐 五月
…そうか

斑鳩 アリス
本当に?

斑鳩 アリス
ありがとう

斑鳩 アリス
本当に嬉しいわ

飯島 隼人
(…この人)

飯島 隼人
(しゃべったら、普通の女子だな)

吉田 ルカ
それじゃあこれ

吉田 ルカ
君の制服とバッジね

飯島 隼人
ありがとうございます

吉田 ルカ
サイズ合ってるといいな

吉田 ルカ
着てみてよ

飯島 隼人
分かりました

吉田 ルカ
アリス、どうだ?

斑鳩 アリス
着終わったかしら?

斑鳩 アリス
!

飯島 隼人
どうしたんですか?

斑鳩 アリス
いや、その…

飯島 隼人
どこか変なところでもあります?

斑鳩 アリス
いいえ、ないけれど…

飯島 隼人
じゃあ、この制服に規則とかありますか?

斑鳩 アリス
基本ないわよ?

飯島 隼人
じゃあ

飯島 隼人
シャツの第一だけ開けさせてください

飯島 隼人
ネクタイも、少し緩めたいので

斑鳩 アリス
えっ

吉田 ルカ
アリス、顔赤いけど大丈夫?

斑鳩 アリス
ええ、平気よ…

飯島 隼人
ただいま

東條 蛍
お帰り

東條 蛍
っ!

東條 蛍
お前、その服…

飯島 隼人
俺、今日から黒の貴公子に入ることになった

東條 蛍
それが、アリス様のお礼ってやつか?

飯島 隼人
みたいだね

飯島 隼人
なかなか悪くない感じだったから入ったけど

飯島 隼人
実際、どうなるか楽しみだな

女子軍団
えっ

女子軍団
飯島くんが、黒の貴公子のメンバーになってる!

女子軍団
今日から隼人様ね!

東條 蛍
うん、いい感じだな

飯島 隼人
斑鳩さん

斑鳩 アリス
待って

斑鳩 アリス
どうして私に敬語とか、さんとかつけるの?

飯島 隼人
…無意識につけてました

斑鳩 アリス
まったくもう

斑鳩 アリス
そんなのいらないわよ

斑鳩 アリス
あたし、そういうの苦手だから、ね?

飯島 隼人
そっか

飯島 隼人
分かったよ、アリス

斑鳩 アリス
それでいいわ

吉田 ルカ
五月

五十嵐 五月
何だ?

吉田 ルカ
アリス、隼人くんが来てから変わったよね

五十嵐 五月
ああ、前より明るくなったな

吉田 ルカ
不思議だね、あの子

吉田 ルカ
興味が出てくるよ

女子軍団
きゃー!!綺麗なシュート!

女子軍団
アリス様、隼人様、素敵です!

東條 蛍
何だあのフォームは?

飯島 隼人
わかんない

飯島 隼人
なんか、体が勝手に…

東條 蛍
意味わかんねえよ汗

斑鳩 アリス
隼人、楽しい試合だったわ

飯島 隼人
ああ、俺も楽しかった

女子軍団
あぁ、2人が尊いわ…

放課後、俺たち4人は生徒会の仕事をし、紅茶や菓子を口にしながら話していた
斑鳩 アリス
校内の様子は?

吉田 ルカ
いつも通り、問題なし、だよ

五十嵐 五月
他の生徒会役員の間にも、トラブルは起こっていないようだ

飯島 隼人
部活間のいざこざもなし

飯島 隼人
問題なし、だね

斑鳩 アリス
良かったわ

斑鳩 アリス
これでも正直、心配で仕方ないのよ

斑鳩 アリス
まさか私が指名されるだなんて

斑鳩 アリス
思いもしなかったんだもの

飯島 隼人
えっ

吉田 ルカ
生徒会長は、全生徒会員の中から学年問わず教師の投票によって決められる

吉田 ルカ
アリスの場合も同じなんだよ

五十嵐 五月
だが、生徒会長は、大変だ

五十嵐 五月
下手したら、精神病を患うくらい、重くて重要な役職なんだ

飯島 隼人
…

斑鳩 アリス
やだ、そんなこと言わないでちょうだい

斑鳩 アリス
隼人、顔が険しくなってるから

五十嵐 五月
あぁ、悪いな

飯島 隼人
(最近、調子が狂う…)

飯島 隼人
(黒の貴公子のメンバーになってからだ)

飯島 隼人
(原因は、一体何なんだ?)

男子A
よお、新人

飯島 隼人
…どちら様?

男子B
まあ、俺らは斑鳩アリスのファンって覚えて貰えばいいや

男子B
…ついてきてもらうぞ

飯島 隼人
…分かりました

飯島 隼人
ふーん

飯島 隼人
上級生だったんですね

男子A
…どこまでも生意気な…

男子B
そういう口聞いてると

男子B
痛い目見るぜ?小僧?

飯島 隼人
好きにすればいいじゃないですか

男子A
この野郎…!

男子A
だいたいなんでお前なんかが…

男子A
何で斑鳩に…

男子A
生徒会役員でもないくせに…!

飯島 隼人
あなたたちは役員、って事ですね?

男子B
…ああ

男子B
お前よりも長く斑鳩と交流を重ねて

男子B
ここまで登りつめたってのに…

男子B
お前まさか

男子B
枕営業でもしてるんじゃないのか?

飯島 隼人
…ついこの前まで黒の貴公子の存在すら知らなかった俺がそんなことしませんよ

男子A
じゃあ何でお前はそのメンバーの一員になったんだよ!?

飯島 隼人
あなたたちに話す義理なんてないし

飯島 隼人
帰っていいですか?

飯島 隼人
こんなくだらない話聞くために俺きたんじゃないんで

飯島 隼人
それに俺暇人じゃないし

男子A
逃がすかっ!

男子A
こうなったらお前なんか

男子A
病院行きだっ!!

男子B
ちっ

男子B
そうきたなら

男子B
面白い

飯島 隼人
(はぁ、めんどくさい…)

飯島 隼人
(早く始末しよう…)

斑鳩 アリス
…何してんのよ

飯島 隼人
アリス…

男子A
あ、アリス様…

男子B
斑鳩、アリス…

吉田 ルカ
こんなところでこそこそやってるなんて

吉田 ルカ
先輩としていただけない行為ですね

男子A
吉田…!

五十嵐 五月
アリスの命令により

五十嵐 五月
お前らを処罰する

飯島 隼人
待ってよ処罰なんて

飯島 隼人
俺なんか元々ただの生徒で

飯島 隼人
だから大したことないよ

飯島 隼人
恨みを買われることなんて想定してた

五十嵐 五月
そう言うな

五十嵐 五月
実はアリス、これでもすげー怒ってんだ

飯島 隼人
…俺なんかのために怒ってくれてるの?

斑鳩 アリス
(コクリ)

斑鳩 アリス
俺なんか…なんて言ってはダメよ

斑鳩 アリス
あなたは黒の貴公子の一員

斑鳩 アリス
凛とした振る舞いを心がけなさい

飯島 隼人
…うん

吉田 ルカ
怪我はない?

吉田 ルカ
何もされてない?

飯島 隼人
大丈夫だよ

飯島 隼人
俺は何もされてない

吉田 ルカ
良かった

五十嵐 五月
もしお前が怪我をしてたら

五十嵐 五月
アリスはもっと怒っただろうな

飯島 隼人
えっ

飯島 隼人
今怒ってるの?

五十嵐 五月
ああ

五十嵐 五月
あの生徒会役員2人に怒鳴り散らしてるぜ

五十嵐 五月
ここから聞いてみろよ

飯島 隼人
うん…

斑鳩 アリス
何ぶつくさ言ってんのよーっ!

男子A
…すいません

斑鳩 アリス
すいませんじゃなくて

斑鳩 アリス
すみませんでしょうが!

斑鳩 アリス
日本語もわからないわけ!?

男子B
…

斑鳩 アリス
あんたもなんか言いなさいよ!

斑鳩 アリス
口あるんでしょ!

飯島 隼人
…こっわ

五十嵐 五月
アリスは普通あんなに怒らないぞ

五十嵐 五月
よっぽどお前が大切なんだろうな

飯島 隼人
俺が、大切?

吉田 ルカ
そうだよ

吉田 ルカ
君が入ってきてから

吉田 ルカ
アリス、機嫌が良くてね

吉田 ルカ
おかげでアリスの激おこプンプン丸な一面も見られたよ笑

飯島 隼人
それっていいことじゃないんじゃ…

吉田 ルカ
そう?僕らにとってはいい事だと思うなあ

五十嵐 五月
…ああ

五十嵐 五月
ちょっと、悔しいがな

吉田 ルカ
…そうだね

飯島 隼人
?

斑鳩 アリス
ふぅ…

男子A
ごめんなさい…

男子B
…もうしません

斑鳩 アリス
ああもう!

斑鳩 アリス
顔も見たくないわ!

斑鳩 アリス
早く行ってちょうだい

男子A
…はい

男子B
…

吉田 ルカ
随分長い間叱ってたね

斑鳩 アリス
ルカ!

五十嵐 五月
まあ、無理もないだろ

五十嵐 五月
「大切」なんだからな?

斑鳩 アリス
うう…

飯島 隼人
…?

飯島 隼人
(話が読めない…)

斑鳩 アリス
と、とにかく

斑鳩 アリス
あの2人の処分は決めたわ

吉田 ルカ
へぇ

吉田 ルカ
どうするの?

斑鳩 アリス
生徒会追放よ

飯島 隼人
えっ

飯島 隼人
あれだけで?

斑鳩 アリス
生徒会の風紀を乱すものは

斑鳩 アリス
徹底的に排除する

斑鳩 アリス
そうでもしなければ

斑鳩 アリス
生徒会の存続どころか

斑鳩 アリス
会長なんか務まらないわ

吉田 ルカ
アリスはそういう所は

吉田 ルカ
キッパリと決めるからなぁ

五十嵐 五月
会長には向いてるだろうよ

飯島 隼人
そうかもね

飯島 隼人
ところで、あの2人は…

吉田 ルカ
ああ、いってなかったね

吉田 ルカ
あの二人は3年生の生徒会役員で

吉田 ルカ
書記を務めてるんだ

五十嵐 五月
まあ、書記と言っても

五十嵐 五月
ほとんど仕事ねえから

五十嵐 五月
だいたい生徒会入りたての奴らが務めてる

飯島 隼人
なるほど

五十嵐 五月
まあ、お前が恨まれるのもわかる

五十嵐 五月
お前は、一日で黒の貴公子のメンバーになったんだからな

飯島 隼人
それはアリスの待遇があっての事で…

斑鳩 アリス
あたしの待遇がなくたって

斑鳩 アリス
生徒役会員じゃなくても

斑鳩 アリス
選ばれてたでしょうね

飯島 隼人
俺って色々不思議なんだな

五十嵐 五月
自分で言うなよ

老人店員
いらっしゃい

老人店員
おや、あなたはもしや

老人店員
雅ヶ丘学園の方ですかな?

飯島 隼人
はい

飯島 隼人
ご存知なのですか?

老人店員
少しだけ存じております

老人店員
ここに毎日のように足を運んでくださる方がいるもので

飯島 隼人
そうなのですか

飯島 隼人
どのような方ですか?

老人店員
女性です

老人店員
ヨーロッパ系と日本人のハーフなのではと感じております

老人店員
日本語も流暢で、とても親しみやすい方ですね

飯島 隼人
そうですか

老人店員
ああ、そうだ

老人店員
常連様の手帳に名前があるはずです

老人店員
あ、ありました

老人店員
名前は…

老人店員
斑鳩アリス様ですね

飯島 隼人
!

飯島 隼人
(アリスが毎日ここに来てるってことか…!)

飯島 隼人
彼女は我が校の生徒会長です

飯島 隼人
いつもお世話になっております

老人店員
そうですか

老人店員
高校2年にして会長になられたとは

老人店員
立派に成長されましたな

飯島 隼人
あの

飯島 隼人
アリスとはどれくらい長い付き合いなんですか?

老人店員
そうですねえ

老人店員
もう、7,8年になりますかねえ

飯島 隼人
そんなに長い付き合いなのですね

老人店員
ええ

老人店員
アリス様のお父様も

老人店員
アリス様が産まれる前から、よくここに来てくださいました

老人店員
アリス様が生まれたあとも、アリス様を連れて度々来てくださいました

老人店員
最近お父様はお仕事が忙しいようで、なかなかお会いしませんが

老人店員
アリス様は毎日ここに来てくださるので

老人店員
毎日、元気をもらっています

飯島 隼人
それは何よりですね

老人店員
おっと、話が長くなりました

老人店員
何か、ご質問がありましたら

老人店員
なんなりと

飯島 隼人
では、アリスに贈りたいレコードが欲しいのですが

飯島 隼人
おすすめはありますか?

老人店員
おお、それはそれは

老人店員
ございますよ

老人店員
お持ちしますので

老人店員
暫くお待ちください

老人店員
お待たせ致しました

老人店員
こちらになります

飯島 隼人
Alice In Wonderland…

飯島 隼人
不思議の国のアリス、ですか…?

老人店員
はい

老人店員
こちらは店頭には出していないものでして

老人店員
非売品となっておりますが

老人店員
アリス様に贈るためなのなら

老人店員
喜んで差し上げましょう

飯島 隼人
ちょっと待ってください!

飯島 隼人
非売品なのなら

飯島 隼人
あなたにとって大切なものなのではないのですか?

老人店員
そうなのですが

老人店員
やはりこの歳になると

老人店員
そろそろ手放さなければ

老人店員
と思いまして

飯島 隼人
え?

老人店員
私は、半年前に余命宣告を受けました

老人店員
そして、そろそろ半年を迎えるんです

飯島 隼人
そんな!

飯島 隼人
だからといって死ぬわけじゃ…!

老人店員
いいんですよ

老人店員
私は、2年前にガンを患いました

老人店員
アリス様は「自分に治療費の負担をさせてくれ」と申し出てくださいました

老人店員
ですが、お断りしました

飯島 隼人
何故…?

老人店員
私ももうすぐで80です

老人店員
それに治療は好きではありません

老人店員
自然に死にたいんです

老人店員
この店は息子2人が継いでくれますし

老人店員
もう何も心配はいらないのです

老人店員
だから最後に

老人店員
私からアリス様にこれを、贈りたいのです

老人店員
どうか、アリス様にお渡しいただけないでしょうか?

飯島 隼人
っ…

飯島 隼人
分かりました

老人店員
ありがとうございます

老人店員
聞いてみますか?

飯島 隼人
良いのですか?

老人店員
ええ

老人店員
是非とも、聞いていただきたいのです

飯島 隼人
では、お願いします

かけ始めと同時に聞こえてきたのは、ピアノの美しい旋律だった
老人店員
このレコードは「ビル・エヴァンス・トリオ」という3人組のグループの録音になります

飯島 隼人
ビル・エヴァンスはたしか

飯島 隼人
アメリカ人のピアニストでしたよね?

老人店員
おっしゃる通りです

老人店員
彼の音、まるで湖のようなう美しい音色でしょう?

老人店員
これが彼の演奏の特徴です

飯島 隼人
なるほど

飯島 隼人
当時の音響で

飯島 隼人
こんなに素晴らしい音色を残せるとは…

老人店員
でしょう?

老人店員
このレコードは、ビル・エヴァンスが始めて作ったたった一枚のレコードになります

飯島 隼人
たった1枚?

老人店員
ええ

老人店員
翌年、これをもとにコピーレコードが発売されましたが

老人店員
本当の音色を聞けるのは

老人店員
間違いなくこれ1枚でしょう

飯島 隼人
そんな代物を…

老人店員
これは私がまだ22歳だった時に

老人店員
ビル本人から頂いたものなのです

飯島 隼人
本人から…!

老人店員
初対面で、拙い英語しか話せなかった私に

老人店員
ビルは笑顔で接してくれました

老人店員
そしてビルは

老人店員
「今の君にはこの曲がぴったりだ」

老人店員
と言って、このレコードを渡してくれたのです

老人店員
実際に聞いてみたら

老人店員
この曲は当時の私にとてもあっていると感じました

老人店員
そして、はじめてアリス様と対面した時に

老人店員
「この方にこのレコードを授けよう」

老人店員
と思ったのです

老人店員
そしてその願いが

老人店員
ようやく叶うのです

老人店員
私は今、喜びでいっぱいなのです

飯島 隼人
そうですか

飯島 隼人
この三拍子も

飯島 隼人
元気に飛び跳ねているみたいで

飯島 隼人
まるでアリスらしい

飯島 隼人
俺にとってアリスはまだ不思議な存在です

飯島 隼人
だから、この曲がアリスに合うということ

飯島 隼人
わかる気がします

老人店員
そう言っていただけると嬉しいです

飯島 隼人
じゃあこのレコードは

飯島 隼人
明日、アリスに渡します

老人店員
よろしくお願い致します

飯島 隼人
後、僕にオススメのレコードを全て教えてください

飯島 隼人
それ全部、いただいて行きます

老人店員
喜んで…!

俺は例のレコードを持ってドアの前に立ち尽くしていた
五十嵐 五月
何突っ立ってんだよ?

飯島 隼人
!?

吉田 ルカ
まあまあ、そうキツく言わなくても

吉田 ルカ
どれどれ

吉田 ルカ
…ふーん

吉田 ルカ
君はアリスに贈り物がある

吉田 ルカ
そして、アリスのことを好きでもある

飯島 隼人
…は?

五十嵐 五月
何言ってんだよお前…!

吉田 ルカ
いや、思ったこと言っただけだよ

吉田 ルカ
もしかして隼人

吉田 ルカ
自分がアリスのこと好きってこと

吉田 ルカ
自覚してないの?

飯島 隼人
え?

飯島 隼人
俺がアリスを好き?

飯島 隼人
いやいやいや

五十嵐 五月
…

五十嵐 五月
本当に、分かってねえんだな

飯島 隼人
え?

五十嵐 五月
お前が黒の貴公子に入ってから

五十嵐 五月
お前とアリスは大きく変わった

五十嵐 五月
アリスは俺たちといる時よりも喜怒哀楽がはっきりし始めて

五十嵐 五月
アリスの知らない一面を目の当たりにした

五十嵐 五月
そしてお前はそんなアリスを見て

五十嵐 五月
女に興味がなかった自分が女を好きになったことに戸惑いを隠せなかった

五十嵐 五月
バレバレなんだよ

飯島 隼人
くっ…!

アリスが好きだということに薄々気づくことになってしまった
飯島 隼人
アリスには…

飯島 隼人
アリスだけには言わないでくれ!

飯島 隼人
俺は、アリスに嫌われたくないんだ…!

吉田 ルカ
…じゃあその不安

吉田 ルカ
一切なくなる言葉があるよ

飯島 隼人
一切なくなる…?

吉田 ルカ
うん

吉田 ルカ
本当は教えたくなかったんだけど…

吉田 ルカ
2人が両思いなら仕方ないね…

飯島 隼人
は?

飯島 隼人
両思い?

吉田 ルカ
そうだよ

吉田 ルカ
まあ、アリスからそんな表情は一切出ないけどね

五十嵐 五月
そうだな

五十嵐 五月
アリスはお前と同じクラスになった今年4月から

五十嵐 五月
お前について色々調べてた

飯島 隼人
え

飯島 隼人
怖っ

五十嵐 五月
あくまでも

五十嵐 五月
公共の福祉に反しない程度だがな

五十嵐 五月
例をあげれば

五十嵐 五月
趣味、特技、部活などなど

五十嵐 五月
学校生活についてばかりを調べてた

五十嵐 五月
調べてたと言うよりかは

五十嵐 五月
観察してた、という方が正しいな

飯島 隼人
いつの間にそんなことを…

吉田 ルカ
驚くだろうね

吉田 ルカ
そんな素振り見せないから、アリスは

飯島 隼人
ああ…

飯島 隼人
そうだよね

五十嵐 五月
もうひとつ言っといてやる

五十嵐 五月
アリスにはグイグイいけ

五十嵐 五月
じゃねえと

五十嵐 五月
飽きられっかもな…?

飯島 隼人
なんだとお前っ…!

吉田 ルカ
こら、誤解生む言い方しないで

吉田 ルカ
まあ確かに、アリスは積極的な人が好きだよ

吉田 ルカ
でもそれは初対面の人の時だけ

吉田 ルカ
君みたいな子が、1番アリスにとっては落ち着くんじゃないかな

吉田 ルカ
アリス、可愛い顔した子がタイプだからね

飯島 隼人
俺って可愛いのか…

五十嵐 五月
おら、さっさと行け

五十嵐 五月
じゃねえと会長室に突っ込むぞ

飯島 隼人
い、行ってきます…

飯島 隼人
…アリス

斑鳩 アリス
どうしたの?ノックもせずに入ってきて…

斑鳩 アリス
きゃっ!?

斑鳩 アリス
どうしたの隼人!

飯島 隼人
…そのうち分かるよ

斑鳩 アリス
分かるって言われても…

斑鳩 アリス
押し倒して何がわかるっていうの…むぐっ

飯島 隼人
へぇ、いちご食べてたんだ

飯島 隼人
俺ももーらお

斑鳩 アリス
えっ

飯島 隼人
ん、美味い

斑鳩 アリス
そんな…

飯島 隼人
アリスも欲しいの?

斑鳩 アリス
(コクリ)

飯島 隼人
じゃ、あげる

斑鳩 アリス
むうっ!?

俺は1口かじったいちごをアリスに口移しで食べさせる
飯島 隼人
やば

飯島 隼人
アリスの顔いちごみたいに真っ赤

斑鳩 アリス
…うるさいわね

飯島 隼人
そういう顔してるから俺に襲われるんでしょ

斑鳩 アリス
ふっ、言うじゃない

飯島 隼人
そういう強がりな顔も最高にそそる

斑鳩 アリス
(まさか隼人にやられるだなんて…)

斑鳩 アリス
(拒めない…)

飯島 隼人
これ、要らないよな?

斑鳩 アリス
ネクタイ…!

斑鳩 アリス
返して!

飯島 隼人
嫌だよ

飯島 隼人
ここで終わらせたら勿体ないじゃない

飯島 隼人
君は、どこまでやって欲しい?

斑鳩 アリス
ん…?

斑鳩 アリス
どこまでって言われても…

斑鳩 アリス
困る…

飯島 隼人
…

飯島 隼人
そうだよね

飯島 隼人
俺なんかじゃダメだよね

斑鳩 アリス
え?

飯島 隼人
頼む…今だけは…

飯島 隼人
今だけは…このまま…

飯島 隼人
んっ…

斑鳩 アリス
ふうっ…

斑鳩 アリス
(長いまつ毛…)

斑鳩 アリス
(それにふわふわの茶髪…)

斑鳩 アリス
(何だか、可愛いと言うよりも)

斑鳩 アリス
(愛しい)

斑鳩 アリス
(私、このままやられていいのかしら?)

斑鳩 アリス
(いや、それは、私のプライドが許さないわね)

斑鳩 アリス
(それにしても、何があったのかしら)

斑鳩 アリス
(体に力が入ってて、慣れてないこと、丸わかりだわ)

斑鳩 アリス
(でも今はその勇気に敬意を払いましょうか)

飯島 隼人
なんで…

飯島 隼人
なんで逃げないんだよ…!

斑鳩 アリス
…

飯島 隼人
まさか、俺が本気じゃないとでも思ってる…?

斑鳩 アリス
え?

斑鳩 アリス
本気って、何?

飯島 隼人
とぼけないでよ!

斑鳩 アリス
ええっ?

飯島 隼人
そろそろ本気で抵抗しないと…

飯島 隼人
このまま…

飯島 隼人
君のことめちゃくちゃにして…!

飯島 隼人
(いけない)

飯島 隼人
(抑えないといけないのに)

飯島 隼人
(どんどん想いがあふれてくる)

斑鳩 アリス
…

斑鳩 アリス
本気で抵抗、ね…

斑鳩 アリス
あいにく私には抵抗する理由がないわ

飯島 隼人
…は?

斑鳩 アリス
何を面食らっているの

斑鳩 アリス
隼人、私は

斑鳩 アリス
あなたを愛しているわ

飯島 隼人
え?

斑鳩 アリス
というわけで

斑鳩 アリス
なれていない君のために

斑鳩 アリス
私がリードしてあげるわ

飯島 隼人
ちょ、やめてよ

飯島 隼人
かっこ悪いじゃんか

斑鳩 アリス
今更、かっこ悪いだなんて

斑鳩 アリス
そんなこと言ってる場合?

飯島 隼人
うっ…

斑鳩 アリス
まあ、あなたのこの様子なら

斑鳩 アリス
両思いで間違いなしだろうから

斑鳩 アリス
このまま次のステップに進みましょう

飯島 隼人
は?

飯島 隼人
次のステップ?

斑鳩 アリス
ええ

斑鳩 アリス
あなたがやろうとしていたじゃない

飯島 隼人
!

飯島 隼人
俺がリードするって決めてんのに…!

斑鳩 アリス
残念

斑鳩 アリス
好きな相手が自分の側にいて

斑鳩 アリス
何もしない人なんていない

斑鳩 アリス
愛してるわ、隼人

飯島 隼人
っ…!?

斑鳩 アリス
あなたにはまだ早いわ

斑鳩 アリス
今は私に委ねてちょうだい

飯島 隼人
分かったよ
