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鮭盛り合わせ

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鮭盛り合わせ

20 - 妖

♥

1,010

2023年08月05日

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Nakamu

あ…

と呼び止めるよりも早く、彼は背を向け走り出した。

2ヶ月前に隣のクラスへ転校してきたシャークん。

たったの1週間で後輩や先輩にまで噂が届く程の有名人で、彼に関わろうとする人は少ない。

先生に反抗して早退したり、告白してきた女の子を泣かせたり、突然隣に居た人を殴ろうとしたり、陰では歴戦王なんて呼び名まで付けられていたり。

隣の教室へ訪れる事は滅多に無いから実際の彼を見た事は無かったが、悪い話ばかり聞く。

そんな彼が下校中にばったり会った俺を見て逃げ出すなんて、気にならないはずがない。

見失う前に慌てて追いかけた。

Nakamu

はぁ…はぁ…

彼は田畑を越え、草木を掻き分け、山の中へ入って行く。

案外足が早く油断すれば簡単に置いていかれそうだ。

一体何処へ向かっているのだろう。

こんな山に一体何が。

Nakamu

うわっ!

あと少しで手が届く、と思った瞬間。

何かが視界を遮った。

いや、俺とシャークんの間に男が立っていた。

思わず足を止め見つめる。

頭に狐のような猫のようなお面を着けた梅の柄が入った着物の男。

あれ、今何処から現れた?

Broooock

君、シャークんに何の用?気安く近づかないでくれるかなぁ?

敵意剥き出しな男は人にしては尖った歯を見せ威嚇してくる。

その後ろでシャークんが息を切らしながらこちらの様子を窺っていた。

ふと学校で聞いた噂を思い出す。

もしかして暴力を振るわれるのか。

それとも金か。

どうするべきだ、俺は。

逃げるか、いや駄目だ。

体力はあまり残っていない。

ならお金を、いやそれも違う。

そもそも何故俺は男に睨まれているのか、その理由は明白だ。

Nakamu

ご、ごめんなさい…君って学校では有名人だから、どんな人なのか気になって…

嘘はついていない。

見ず知らずの男に追いかけられたら怒るのは当然だ。

だから素直に謝るのが正解、だと信じたい。

Broooock

シャークんを取って食うつもりだったんじゃないの?

男が一層低い声を出すものだから思わず肩が跳ね一歩後退る。

何なんだよ。

俺は同性愛者でもなければ人を食べるような化け物でもない。

普通の、健全な男子高校生だ。

どうしたら分かってもらえるのだろう。

こんなことなら真っ直ぐ家に帰ればよかった。

ふと今までずっと黙っていたシャークんが男の袖を引く。

シャークん

Broooock落ち着け、この人は関係無いみたい

Broooockと呼ばれた男はシャークんの顔を見てからまた俺を睨む。

関係無いというのはどういう意味だろうか。

十分当事者だと思うのだけど。

改めてシャークんを見る。

声を聞いても思ったが、噂される程危険な人物には思えない。

Broooockという男の方が恐ろしく感じる。

Broooock

お前、見えてないの?

そして先程から会話が意味不明だ。

俺が後を追っていたことを怒っていたのではないのか。

Nakamu

見えるって何が…?

Broooock

シャークん、この人本当に見えてないみたい。どうする?

シャークん

どうって…このままにはしておけないでしょ

俺を置いて話がどんどん進んでいく。

もしかして俺、今危険な状況だったりするのかな。

やっぱり暴力を振るわれたりして。

ぞわりと背筋に悪寒が走る。

殺される、と思った時にはもう走り出していた。

何が何だか分からないが逃げなくては。

待てと男の声が聞こえたが従うはずがない。

とはいえ本日2度目の全力ダッシュ。

当然バテバテの体で逃げ切れるはずも無く、捕まり地面に転がされた。

Broooock

逃げないでよ面倒臭いなぁ、君の為でもあるんだよ?

Nakamu

ごめんなさいごめんなさい!命だけは許して!

Broooock

何言ってるの?シャークん、この人変

シャークん

仕方ないよ、早く終わらせてやって

Broooock

はーい

ひんやりとした手が額に当てられる。

もうダメだと死を覚悟したが、強い風が吹いたかと思えば手は直ぐに離れていって、拍子抜けするほどあっさりと解放された。

呆然とする俺にシャークんが眉を下げ手を差し出す。

シャークん

驚かせて悪かったな、もう終わったから大丈夫

大丈夫?何が?

取り敢えず差し出された手を掴むと暖かくて、こんな状況で感じるのはおかしいのだけれど少し安心した。

引っ張られ立ち上がるとシャークんがもう一度ごめんと謝る。

シャークん

お前…えっと、名前は?

Nakamu

え…あ、Nakamu……

シャークん

Nakamu。俺の事は知ってるんだっけ?

こくりと頷くと人懐こい顔で笑った。

やっぱり噂とは違う。

俺が知っているシャークんはこんな風に笑わない。

シャークん

こっちの…不機嫌なのはBroooock。俺の式神…えっと、用心棒みたいな感じ

Nakamu

シキガミ?

Broooock

僕とシャークんは結婚してるんだよ!

シャークん

結婚じゃなくて契約な

Nakamu

ちょっと待って、式神って言った?

Nakamu

式神ってあの、陰陽師が使役するとかいうやつ?

シャークん

よく知ってるな

とても現実的ではない話を本で読むのは好きだけど、実際に人から聞くのは始めてだ。

もしかして揶揄われている?

シャークん

俺は普通の人には見えないものが見えるんだ。大抵怖がられるから秘密にしているんだけど、Nakamuは巻き込んじゃったしBroooockのことも知られちゃったから話すよ

彼曰く、世間一般的に妖怪と呼ばれる者が見えるのだとか。

そんなもの人が創り上げた空想に過ぎないと思っていたが、彼が嘘を言っているようには見えない。

しかし信じろと言うのも無理な話だ。

シャークん

怖がらせるつもりは無いんだけど、凄く大きな妖がNakamuに着いて回っていて、それで俺を追いかけて来るからてっきり食べさせようとしてるのかと思って

Nakamu

ん…ん?…大きな…アヤカシ…?

ゆっくりと後ろを振り返る。

しかし当然の事ながら見えるのは草木だけ。

Broooock

僕が追い払ったからもう居ないよ

Broooockが得意気な顔をする。

あれ、彼の言葉を信じるのであれば、式神も人間ではないのだから俺には見えないはずでは。

無意識のうちに見詰めていたらしく、心情を読み取ったのかBroooockが口を開いた。

Broooock

僕は高貴な妖だから、人間に化けることだって出来るんだよ

つまり本来はまた違った姿をしていると。

段々頭が痛くなってきた。

何処までが本当で何処までが嘘なのか。

シャークん

それでさっきの妖、一時的に追い払いはしたんだけどきっとまた戻ってくると思うんだよ

Broooock

好かれちゃったみたいだねぇ

Nakamu

でも俺には見えないんだし関係ないんじゃ…

Broooock

もしアイツが悪い妖だったら食われるかもよぉ?

Nakamu

く、食われる…?

シャークん

こらBroooock怖がらせんな!

そっぽを向くBroooockにシャークんがため息を吐く。

今の今までその存在すらも知らなかったのだし、放っておいても問題無いのではとも思うが。

そこまで考えて自分が妖という存在を認めていることに気がつく。

それが何だか癪に障った。

Nakamu

じゃあ、証拠を見せて

シャークん

証拠?

Nakamu

俺には2人が言う妖ってものが見えない、だから本当に妖が存在しているって証拠見せてよ

シャークんとBroooockが顔を見合わせる。

困らせたい訳では無いがこれくらいは許してもらわないと。

シャークん

ならスマイルの所へ行こうか

Nakamu

スマイル?

Broooock

えぇー!アイツの所行くのぉ?

シャークん

さっきの妖の事もあるしどの道行かないといけないから

シャークん

Nakamu、ついてきて

そう言って大した説明もされずシャークんは何処かへ足を向けた。

Broooockも嫌々ではあるがそれについて行く。

聞きたいことは山ほどあるが取り敢えずは従うしかない。

不安と好奇心の入り交じった感情を持ったまま彼らの後を追った。

辿り着いた先は何度か訪れた事のある神社だった。

夏になると簡易ながら祭りに使われる場所だ。

シャークんは社の横を通り裏へ回る。

シャークん

スマイルー!

こんな所まで来たのは初めてだ。

社の後ろ、更に奥へ進んだ先に弓道場があるなんて知らなかった。

袴を履いた男がちらりと此方を見て的に向き直る。

スマイル

少し待って、あと3本

真っ直ぐ伸ばされた美しい姿勢で弓を引く。

放たれた矢は的の中心へと吸い込まれて行った。

シャークん

毎日50本射るのが日課なんだ

Nakamu

50本も?

Broooock

これでも減った方、前は100本だった

Nakamu

待って何でそんな事知ってるの?

Nakamu

転校して来たのって2ヶ月前だよね?

シャークん

そうだけど、その前にも何度か来たことあるんだよ

パシッと最後の矢が的に当たり、スマイルが弓を下ろして俺を見た。

スマイル

君は?

Nakamu

あ、Nakamuです…

シャークん

妖に好かれちゃったみたいで

スマイル

なんだ、てっきりBroooockを祓う気になったのかと思った

Broooock

シャークんの頼みだから食べないでいてやってるんだよ?スマイル

スマイル

食えるもんなら食ってみろよ、射殺してやる

Broooock

あはっ!僕に勝てるとでも思ってるの?愚かだなぁ!

シャークん

こいつら仲悪いんだよ

Nakamu

みたいだね

啀み合う2人に呆れた目を向けシャークんが道場へ上がる。

シャークん

Nakamuに妖を見せてやりたいんだけど

スマイル

お前見えないの?

Nakamu

見えないし妖なんてものが居ること自体さっき知ったばかりで…

スマイル

よく信じたね

シャークん

いや、信じさせる為に来た

スマイル

なるほど

スマイルが弓を置き、代わりに筆と動物を閉じこめるケージを持ってきた。

中は空だ。

スマイル

手を出して

Nakamu

何するの?

スマイル

お前に妖を見せる

左手を取られ掌に筆が走る。

筆には墨も何も付いてはいないはずなのに掌には何か模様が浮かび上がった。

スマイルが何かを呟く。

スマイル

コイツ見える?

Nakamu

た…ぬき…?

気がつけば空だったはずのケージの中に狸のような何かが居た。

ケージをガジガジと噛んでいる。

きりやん

出してよ!ねぇって!

Nakamu

喋った!

スマイル

妖だよ

Nakamu

え?

シャークん

そいつどうしたの?

スマイル

社に忍び込んでいた所を今朝捕まえた

きりやん

何も盗ってないんだからいいじゃん!

Broooock

君スマイルなんかに捕まるなんてアホだねぇ

きりやん

ねぇ初対面で失礼じゃない!?

俺が困惑している間にも3人と1匹はどんどん話を進めていく。

これは確かに、認めざるを得ないのかも。

シャークん

君、名前は?

きりやん

きりやん

シャークん

きりやん、何で社に入ったりなんかしたんだ?

きりやん

いやちょっと…お腹空いてて…

スマイル

祭壇の酒を盗む気だったんだろ?

きりやん

だってあんな上等な酒飲まずに飾っているだなんて勿体無いじゃん!

スマイル

あれは神様へのお供え物なんだよ

口を尖らせるきりやんを咎めるスマイル。

可愛らしい画ではあるがやはり異様だ。

シャークん

Nakamu大丈夫か?

Nakamu

うん…ただちょっと……混乱していて

シャークん

だろうな、でも妖は存在している

Nakamu

それは分かった

シャークん

で、さっき追い払った妖がまた現れるかもしれない

Broooock

あんな妖僕なら簡単に倒せるけど、君はひとたまりも無いだろうね

Nakamu

見ることも触れることも出来ない人間に対して危害を加えるなんてことできるの?

Broooock

人間界では自然災害や事故で片付けられるだろうけど、中には人を呪うような奴だって居るんだよ

背筋に嫌な汗が伝う。

原因不明の事故というのは何度かニュースで見たことがある。

全てがそうという訳では無いだろうが、中には妖が関係しているものも有るのかもしれない。

シャークん

あんま怖がらせるようなこと言うな

シャークん

まだ悪意があるって決まったわけじゃ無いんだから

Nakamu

で、でももし悪意を持ってたら…?

スマイル

俺が祓ってやるよ

シャークん

スマイルは妖祓いを生業としているんだ

Nakamu

そっか、良かった

シャークん

でも家には帰りたいだろ?

シャークん

明日も学校あるし

Nakamu

Broooockは?さっきみたいに助けてくれないの?

Broooock

何で僕が君のことを守らないといけないのさ

Broooock

シャークん以外はどーでもいいんだよねぇ

Nakamu

そんな…

妖というものをそれ程知っているわけではないけれど薄情ではないか。

いや、そもそも妖と人間の関係性もよく分からない。

シャークん

そこで考えがある

シャークん

きりやん

きりやん

んぇ?

シャークん

お前、Nakamuの用心棒になってくれない?

きりやん

はぁ?

Nakamu

え?

スマイル

何言ってんだシャークん

まさかの発言に全員がシャークんに目をやる。

口元は緩いが顔は真剣だ。

きりやん

俺関係無いんだけど

シャークん

その檻から出たくないのか?

きりやん

そりゃ…出たいけどさ

シャークん

手伝ってくれるならお酒もあげるよ

きりやん

酒!?

スマイル

おい待てシャークん!

スマイル

そんな奴を信用していいのか?

Broooock

そーだよ、そんな下等な妖何の役にも立たないって

きりやん

誰が下等だ!

シャークん

そう、弱そうなふりしてるけどお前上級妖だよな

きりやん

えっ…

Nakamu

上級?

シャークん

妖は下級、中級、上級に分かれているんだ

Broooock

僕は上級だよー

きりやん

何でわかったの…?

シャークん

スマイルの神社に入れるのは上級くらいだから

スマイル

妖避けの結界が張られていたのに気づかなかったのか?

きりやん

知らなかった…

Broooock

スマイルのお粗末な結界じゃしょうがないよ

スマイル

今すぐお前を弾き出してやろうか

シャークん

2人ともやめろって

シャークん

それできりやん、どうする?

きりやん

……

きりやん

いい酒を用意してよね

シャークんがケージの扉を開くときりやんは俺の足元までやって来て匂いを嗅いだ。

きりやん

Nakamuだっけ?確かに妙な妖の匂いがするね

Nakamu

妙って?

きりやん

染み付いてるっていうか、昨日や今日ついた匂いでは無いよ

Broooock

そんなに長く妖に付き纏われている人をシャークんが見逃すはずない

スマイル

何らかの理由で学校内には入れないのかも

Nakamu

じゃあ学校は安全ってこと?

シャークん

確信はできないけど可能性はあるかも

シャークん

でも1人で居るのは危険だから休み時間はなるべく俺と一緒に過ごそう

Nakamu

わかった

話を終えた頃にはすっかり暗くなっていて今日は解散することとなった。

きりやんは約束通り俺に着いて来てくれたけど、正直あまり強そうには見えない。

それでも居ないよりかは安心はできるけれど。

シャークんと待ち合わせをして2人で登校する。

忘れていたけれど彼は有名人。

隣を歩く俺に視線が集まらないはずが無かった。

シャークんと別れ自分の席に座る俺を遠巻きに見詰めるクラスメイト。

彼はいつもこんな視線を浴びていたのだろうか。

いや、きっともっと辛い思いをしていたに違いない。

今なら、妖の存在を知った今なら彼の行動にも納得がいく。

あの噂は全て妖が関係しているのだろう。

きんとき

Nakamu!

俺を避けるクラスメイトの中から1人だけ俺の元へ駆け寄って来る人物がいた。

一番の親友であるきんときだ。

Nakamu

おはよう

きんとき

おはようじゃないよ!

きんとき

あれって噂のシャークんだよね?

きんとき

何でNakamuが一緒に登校してんの?

何も知らないきんときは当然ながら驚いた表情をして俺に詰め寄る。

Nakamu

いや…実は昨日話す機会があってね、それで…

きんとき

話すって?アイツ危険って噂じゃん!大丈夫なの?

Nakamu

全然大丈夫、てか普通にいい人だったよ

きんとき

え?

Nakamu

昨日俺がその…困ってる所を助けてくれたんだ

きんとき

ほんとに?

俺が頷くと心配そうな顔を浮かべながらも一先ず納得してくれた。

きんとき

あれ?Nakamuその手はどうしたの?

Nakamu

手?

安堵したのも束の間、きんときに左手を掴まれ掌を上にさせられる。

そこには昨日スマイルに書かれたものが残っていた。

きんとき

何これ、魔法陣みたいな…

Nakamu

あ!あーこれは…その…弟が!弟に落書きされちゃって!

きんとき

あ、なるほどね

きんとき

相変わらず仲が良いねぇ

咄嗟に嘘をつき誤魔化すときんときは笑った。

でも手はまだ離してもらえない。

きんとき

何の絵なんだろう、目みたいな

Nakamu

何かの漫画とかじゃない?

きんとき

落とさないの?

Nakamu

時間なくて…油性で落ちないんだよ

きんとき

ふーん

気を抜いたらボロが出そうでヒヤヒヤする。

漸く離されたと思ったら教室に先生が入ってきて、随分と時間が経っていたことに気が付いた。

きんときが席に戻り安堵の息を吐く。

きりやん

今の誰?

Nakamu

友達のきんとき……ってきりやん!?学校終わるまで外に居るんじゃなかったの?

いつの間にか机の上にはきりやんが座っていた。

授業の邪魔にもなるし緊急時以外はBroooockと外で過ごすことになっていたはずなのに。

きりやん

それよりNakamuの友達からも同じ妖の匂いがする

Nakamu

きんときはほぼ毎日一緒に居るからね

きりやん

教えてやらないの?

Nakamu

妖のこと?言えるわけないよ、俺がおかしくなったと思われちゃう

きりやん

人間はよく分からないねぇ

それだけ言い残すときりやんはすぐ隣の窓から外に出て行ってしまった。

一体何をしに来たのやら。

此方から言わせてもらえば妖の方がよく分からない。

結局授業もあまり集中出来ず時間だけが流れ、気づけば昼休みに入っていた。

きんとき

Nakamuお昼食べよー

Nakamu

あ、ごめん!今日シャークんと食べる約束してて…

きんとき

本当にいつの間にそんな仲良くなったの?

Nakamu

いやーちょっと話が合うみたいで

きんとき

きんとき

じゃあ俺もシャークんと食べよっかなー

Nakamu

え!?

きんとき

Nakamuがお世話になってるみたいだし

きんとき

駄目?

Nakamu

駄目というか…シャークんに聞いてみないと…

きんとき

じゃあ聞きに行こう

俺が止める間もなく教室を出て行こうとするきんときを慌てて追いかける。

彼は時々大胆な行動に出る事があるから少し危なっかしい。

きんとき

シャークんさん居ますかー?

隣のクラスへ顔を出し恥ずかし気も無く大声でシャークんを呼ぶきんときにクラスの全員が注目する。

シャークんも驚いた顔をしていた。

シャークん

えっと…?

きんとき

今日Nakamuとお昼食べるって聞いたけど本当?

シャークんがきんときの後ろに居た俺に目を向け頷く。

きんとき

俺も一緒にいいかな?

シャークん

え?

Nakamu

あ、ご、ごめんねシャークん!コイツ俺の友達のきんとき、いつも俺と食べてるから混ざりたいんだって!

シャークん

Nakamuの友達?

きんとき

よろしくー

シャークんは困惑していたけれど少し考える素振りをしてから控え目に笑った。

シャークん

いいよ、じゃあ3人で食べよう

まさか了承するとは思わず弁当を取りに行くシャークんを呆然と見詰めていたら、自分達も弁当を取ってこようと腕を引かれた。

良い場所があるとシャークんの案内で空き教室へ入る。

授業でも使われていない教室だ。

きんとき

いつも此処で食べてるの?

シャークん

誰も来ないから居心地が良いんだ

きんとき

あれ、もしかしてお邪魔だった?

シャークん

そんな事ないよ、俺友達居ないから嬉しい

2人は案外仲良さそうに話しながら弁当を広げる。

きんとき

何突っ立ってんの?Nakamuも早く座りなよ

Nakamu

あ、うん!

シャークん

2人は仲良いんだな

きんとき

中学から一緒だからね

シャークん

いいな、ちょっと羨ましい

きんとき

シャークんって噂で聞いてた感じと全然違うよね

シャークん

そう?

きんとき

もっと怖い奴なのかと思ってた

Nakamu

おいきんとき!

シャークん

いいよいいよ、噂の事は知ってるから

きんとき

何であんな噂が立ったの?

シャークん

うん…何でだろうな

妖のせい、だなんて言えない。

シャークんは何処か寂しげに笑いご飯を口に運んだ。

きんとき

それで2人は何で仲良くなったわけ?

Nakamu

朝も言ったけどシャークんに助けてもらって

きんとき

だから何を助けてもらったの?

Nakamu

それは…

シャークん

Nakamuが怖そうな先輩とぶつかっちゃったんだよ

きんとき

え!?大丈夫?恨まれてたりしない?

シャークん

俺が話しかけたらどっか行った、多分噂の事を知ってたんだろうな

Nakamu

いや本当に助かったよ

きんとき

Nakamuは抜けてる所あるから

きんとき

ね、やらかし上手のNakamuさん?

Nakamu

うっさい!

シャークん

何それ?

きんとき

コイツ何かとよくやらかすんだよ

きんとき

何も無い所で転んで物を壊したり、よそ見して物を倒したり

Nakamu

俺昔から運無いんだよね

シャークん

……

シャークん

それって本当に運が無いだけなのかな…

きんとき

ん?何か言った?

シャークん

あ、いや…

シャークん

災難だなって

きんとき

でしょ!だから目を離してらんないんだよ

Nakamu

これでも少しは良くなったけどね

きんとき

それは俺が助けてやってるからでしょ

Nakamu

そんな覚えは無い!

きんとき

嘘つけー!

ご飯を食べ終え雑談をしてあっという間に昼の休憩時間は終わりを迎えた。

シャークんは何か考えている様子だったけれど、結局聞けないまま教室へ戻り午後の授業を受ける。

あと少しで全ての授業が終了する、という時に

ふと窓から外を見た。

グラウンドに何か居る。

岩のように大きく、長い毛のようなもので覆われた黒い化け物が。

そういえばシャークんが凄く大きな妖が俺に着いて回っていると言っていたっけ。

ぶわりと嫌な汗が背中を伝う。

俺を探しに学校へ来たのだろうか。

だとしたら早く逃げなければ。

いや、その前にシャークんに連絡だ。

手元を机で隠しシャークんにメッセージを送る。

幸いなことに直ぐ返事が帰ってきた。

先生に気分が悪いと嘘をつき教室を出る。

シャークん

Nakamu

Nakamu

シャークん!どうしよう!

シャークん

落ち着け、スマイルの所まで走るぞ

同じく教室を出てきたシャークんと合流し校門へ向かう。

シャークん

Broooock、きりやん居るか?

Broooock

勿論居るよシャークん!

きりやん

何か変な奴居たんだけどアレがそうなの?

シャークん

スマイルの所まで連れて行くから手伝って

Broooock

はーい

その場に似合わない間延びした返事をするとボンッという音と共にBroooockは煙に包まれ、

次に姿を現した時には真っ白い毛に赤い模様が入った巨大な猫となっていた。

Broooock

2人とも乗ってー

Nakamu

えっ!?

シャークん

これがBroooockの本当の姿なんだよ

説明もそこそこに手を引かれBroooockの背に乗せられる。

きりやん

置いてかないで!

Broooock

君は自分の足で来なよ

きりやん

いいじゃん乗せてよ!

Broooockに飛び乗ろうとするきりやんの後ろから、あの大きな妖が此方へ向かってきているのが見えて、きりやんに手を伸ばしそのまま胸に抱く。

Broooock

じゃあ行くよー

大きな妖が追いかけて来ていることを確認し俺たちはスマイルの居る神社へ向かった。

昨日と同じ道を通り神社に到着するとスマイルが弓矢を持って立っていた。

スマイル

社の裏に妖封じの陣がある

シャークん

Broooock

Broooock

そっち行けばいいんだねぇ

スマイル

ただ詠唱を唱える間動きを止めないといけない

きりやん

無理だよアイツ結構足速いし!

Broooock

きりやん足止めしてよ

きりやん

俺戦闘向きじゃないの!

スマイル

俺が奴を弱らせる

スマイルが矢を放つと後ろを追いかけて来ていた妖に刺さった。

しかし動きは止まらない。

Broooock

人間如きの矢じゃ役に立たないって、僕がやる!

Broooockの背から降ろされ戦闘に参加する彼とは真逆に走り出し社の裏へ回る。

スマイルの言う通り地面には丸い陣が描かれていた。

シャークん

ここだ

Nakamu

でもどうするの?

シャークん

スマイルとBroooockに任せるしかない

きりやん

念の為結界を張るよ

シャークん

お前そんな事できたの?

きりやん

戦闘向きじゃないって言ったでしょ

きりやんを中心に黄色い線に囲まれたかと思えば、まるでガラスの箱の様なものに閉じ込められた。

これが妖術というものか。

きりやん

それにしても、本当にアイツで間違いないの?

Nakamu

何で?

きりやん

何か、Nakamuについていた匂いとちょっと違うんだよね

シャークん

どういう事だ?

きりやん

俺にも分からないよ

きりやんが眉を寄せ唸った時、土埃を上げて何かが此方へと向かって来た。

大きな妖だ。

掴みかかるBroooockを引き摺り、何本も矢が刺さった巨体が向かって来る。

きりやん

ヤバいヤバい!

Broooock

シャークん!こいつタフすぎ!

スマイル

お前ら逃げろ!

シャークん

まずいな…きりやん、この結界耐えられそう?

きりやん

分かんないけど自信ない!

Nakamu

どうしよう!

絶体絶命。

と思ったその時

妖の上に何かが降ってきた。

ドスンと大きな音を立てて妖が地面に打ち付けられる。

次第に土煙が晴れ現れた人影に俺は目を見開き息を飲んだ。

Nakamu

きん…とき?

そこに居たのは俺のよく知る顔だった。

しかしその身は白と紺の着物に包まれ、額からは角の様なものが生えている。

大きな妖に叩き付けた金棒を肩に担ぎ俺を見た。

きんとき

やっぱり見えてるんだ

Nakamu

ちょっと…待って……え?

きんとき

話は後にしよう、先ずはコイツを片付けないと

Broooock

後から来といて偉そうだなぁ誰なの?

きんとき

そんなつもりは無かったんだけど…Nakamuの友達だよ

Broooock

妖が見えない人に妖の友達がいるっておかしくない?

シャークん

Broooock、集中しろ

きりやん

あんなに強く叩き付けられたんだしもう動かないんじゃ?

Broooock

気を失ってるけど死んではないよ

スマイル

どうにかして陣に入れないと

きんとき

俺がやる

きんときは妖を掴むとBroooockでも止められなかったあの巨体をズルズルと引き摺り陣へ運んだ。

スマイルが詠唱を始める。

すると陣が光出し妖を包み込んだ。

きりやん

君の友達力持ちだね

Nakamu

あの妖はどうなるの?

シャークん

封印される

きりやん

封印されるのってどんな感じなんだろ

Broooock

僕はずーっと寝てたなぁ

きりやん

された事あるの?

Broooock

あるよ、シャーくんに出してもらったけどね

スマイルが詠唱を終え妖に向けて御札の貼られた矢を放つと、妖の姿は消え矢尻だけがその場に残った。

それをスマイルが拾い上げる。

スマイル

終わった

きりやん

その中にあのデカいのが居るの?

シャークん

スマイルが使う矢は特殊なんだよ

Nakamu

きんとき

きんとき

うん、ちゃんと説明する

Broooock

僕疲れちゃった

スマイル

妖のくせに体力ねぇな

Broooock

弓引くだけの君と違って僕は沢山動いたからねぇ

きりやん

またやってるよ

シャークん

取り敢えず中入ろう

俺たちは弓道場へ入れてもらい漸く足を伸ばすことができた。

座ってみると思っていたより疲れていることに気付かされる。

きんとき

大丈夫?

Nakamu

疲れた…でも平気

きんとき

怪我が無くてよかった

俺の隣に座ったきんときは罰の悪そうな顔を浮かべ溜息を吐いた。

きんとき

ごめん

Nakamu

何で人間のフリして学校に通ってんの?

きんとき

それは……Nakamuを守るため

Nakamu

俺を?

思ってもみなかった返答に困惑する。

彼とは中学からの親友だがこんなに真剣な声を聞いたのは初めてだ。

きんとき

昔ね、ある男の人に助けて貰ったことがあるんだ

きんとき

鬼は嫌われやすくてね、酷い怪我を負わされて弱っていた俺を助けてくれた恩人だよ

切なげに角に触れ目を伏せる。

きんとき

その時はお礼を言う余裕が無くて、回復した後は名前も知らないその人をずっと探し続けた

きんとき

漸く見つけた時にはもう遅かったよ、俺たち妖と違って人間の時間は早すぎる

Nakamu

それで、何で俺を?

きんとき

その人には孫が居たんだ

きんとき

名前はNakamu

きんときが真っ直ぐ俺を見る。

きんとき

俺はNakamuをずっとそばで見ていた

きんとき

それで気づいたんだよ

Nakamu

何に…?

きんとき

Nakamuは不運なんかじゃない

きんとき

妖に好かれやすいんだ

きんとき

良い妖にも悪い妖にもね

Nakamu

じ…じゃあ…俺がよくやらかしてたのって…

きんとき

妖の仕業だよ

きんとき

幸い俺は力が強かったから、守るために人間に化けて中学に入ったんだ

きんとき

俺を助けてくれた君のお爺さんへの恩返しにね

開いた口が塞がらない。

でも妙にすんなり事実を受け入れることが出来た。

だって祖父はよく人助けをする人だったから。

きりやん

なるほどね、それできんときの匂いが染み付いてたんだ

きんとき

勝手に話に入って来ないでくれない?

きりやん

いいじゃん用心棒同士仲良くしよ

きんとき

何もしてなかった癖に

きりやん

結界張ってたじゃん!見てなかったの?

Nakamu

きんとき

きんとき

うん…

Nakamu

ありがとう

きんとき

え……怒ってないの?

Nakamu

怒るはずないじゃん

Nakamu

俺らズッ友だろ?

きんとき

きんとき

うん!

張り詰めていたきんときの顔が綻び2人で笑い合う。

きっと祖父も喜んでいるはずだ。

スマイル

取り込み中悪いんだけどNakamuちょっといいか?

Nakamu

何?

スマイル

お前は本来妖を見ることができない

スマイル

今後どうしたい?

Nakamu

どうって?

シャークん

このまま妖と関り続けるつもりならもっと強力な術を使わないと、いつまでも掌を隠したまま過ごすわけにもいかないでしょ?

きんとき

駄目だよ!Nakamuは妖のことなんて知らなくていい!

きんとき

記憶を消す術だってあるんだろ?

スマイル

あるにはあるけど…

Nakamu

俺忘れるつもりないよ

きんとき

Nakamu…

Nakamu

爺ちゃんはきんときを助けた

Nakamu

つまり妖が見えてたってことでしょ?

Nakamu

もし今記憶を消したとしても遅かれ早かれまた妖と関わることになると思う

Nakamu

それに俺は妖に好かれてるみたいだしね

きんとき

……わかったよ

きんとき

どうせ聞かないのは目に見えていたし

スマイル

じゃあ術をかけ直す

スマイル

見えずらい所に印を押すから何処にするか決めて

Nakamu

ここ!

俺は長い前髪を掻き上げずっと隠れていた右目を出した。

きりやん

そんな所でいいの?

Nakamu

ここなら見えないし何かカッコイイじゃん!

Broooock

変なのぉー

きんとき

Nakamu考え直した方が…

Nakamu

いいの!ここがいい!

シャークん

変な所で子供っぽいな

スマイル

じゃあそこに押すよ

スマイルは右目に人差し指と中指をかざすと何かを唱えた。

それと同時に左手にあった模様が消えていく。

スマイル

はい、終わり

きりやん

俺のこと見える?

Nakamu

うん、見えてるよ!

六芒星が描かれた右目を前髪で隠し笑う。

シャークん

Nakamu、改めてこれから宜しくな

Broooock

シャークんの友達なら食べないでいてあげるよ

スマイル

何かあったら神社に来い

きりやん

学生ってお酒買えないんでしょ?特別にお菓子で手を打ってあげる

きんとき

これからも友達な?

Nakamu

うん!

Nakamu

皆よろしく!

END

ーアフタートークー

Nakamu

妖怪パロきちゃー!

Broooock

Nakamu嬉しそうw

きりやん

でもNakamuは妖怪じゃないんだよねw

Nakamu

全然人間でもいい!

スマイル

今回の配役決まるの早かったな

シャークん

珍しくNakamuメインだし

きんとき

Broooockはニャンコな先生がモデルなんでしょ?

Broooock

姿は全然違うけどそのポジションだねぇ

Nakamu

ニャンコな先生が大きくなった時の猫バージョンね!

きりやん

いいなぁ俺も大きくなりたかった

スマイル

きりやんは普通のたぬきサイズ

きりやん

たぬきじゃ無い!

きんとき

黄色くてもっふもふな生き物

シャークん

毛量が凄いんだよ

Nakamu

抱き心地は最高w

Broooock

枕に丁度良さそうだねー

きりやん

良くない!

シャークん

で、きんときは鬼

きんとき

角は2本だよ

きりやん

お前強すぎるの狡いって!

Broooock

ねー

きんとき

パワー!

Nakamu

実際きんときはパワーだけの妖なんよw

シャークん

Broooockはバランス型だよな

Broooock

僕だって力は強い方なんだけどなぁ

スマイル

きりやんは妖術特化って感じか

きりやん

そうそう!作中では結界を張ってたけど変化とかも得意だよ

きんとき

やってる事ほぼ狐じゃんw

Nakamu

化かすのが得意なんだよね

きりやん

だから俺は戦闘向きじゃないんだよ

シャークん

スマイルはこの中で唯一戦える人間だよな

スマイル

妖祓いを生業とする家に産まれて神主でもあるって設定

Nakamu

設定言うな!

Broooock

最初道場で凄い練習してたよねー

スマイル

あれにもちゃんと意味はあるんですよ

シャークん

実は全員何かしら暗い過去が有ったり無かったりする

きりやん

いやどっちだよ!

きんとき

Broooockもね、封印されてたみたいだし

Broooock

まぁ色々あったんですよねぇ

Nakamu

あえて情報は出さない!

シャークん

書くの面倒くさいだけだろ

Nakamu

そんなことない!

Broooock

僕眠くなってきちゃったー

きりやん

俺もお腹空いた

きんとき

スマイル締めて!

スマイル

俺ェ?

スマイル

はいじゃあ終わりー!
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