史記
“俺も喉乾いたし、買いに行くか”
いつもは見ているだけ。 でも、何故か今日は足が動いた。
動いたからといって、俺がアイツに何かしてやれる事は無い。
所詮俺は陰キャ。 クラスで浮いた存在だ。
友達なんていないし、いらない。
人と関わる時間なんて、無駄でしかない。
そんな事を考えながら自販機へ向かうと、呑気にどのジュースを買うか悩んでいるアイツがいた。
急いでいる様子もない。
愁斗
あ!ごめんね!
すぐ選ぶから!
すぐ選ぶから!
俺が後ろにいるのに気づいて、やっと慌て出す。
制限時間があるのに、呑気な奴だ。
愁斗
史記君はオレンジとリンゴ、どっちが好き?
突然の問いに、瞬時に答えが浮かばなかった。
.....俺の名前知ってたんだ。
史記
.....別に、どっちも好きだけど。
そう言うと一瞬困った顔をして、
愁斗
そうだよね.....急にごめんね!
また、ヘラヘラと笑うんだ。
史記
そんな事より、急がなくていいの?5分以内に戻らなきゃ君の奢りになるんだろ?
愁斗
あー、うん、そうなんだけどね...
急いだって5分以内に戻るのなんて無理だし...
そもそも間に合わない方が面白いでしょ?
急いだって5分以内に戻るのなんて無理だし...
そもそも間に合わない方が面白いでしょ?
あー、それは君の癖なんだね。
何かを誤魔化す時に出ちゃうんだ。
その笑顔は。
何も面白くない。 笑うなよ。 ヘラヘラしてんじゃねーよ。 なんで、俺はこんなにイライラしてしまうのだろうか。
その答えは分かっている。
同じなんだ.....
過去の自分と。
史記
なんでもいいけど、早くしてくれない?
昼休み、終わっちゃう。
昼休み、終わっちゃう。
愁斗
あ、ごめんごめん....
自販機から最後の1本を取り出して、5本のジュースを抱えて
愁斗
待たせて、ごめんね。
また笑う君の目は悲しげだった。
史記
ちょっ....待っ.....
途端に引き止めてしまった。 驚いた様子で振り返る君から1本のペットボトルが地面へ落ち、俺の足元へ転がってきた。
史記
あっ...ごめん。
愁斗
いや、こっちこそごめんね!
地面に落ちたジュースを拾い、渡す。
史記
炭酸.....大丈夫?
愁斗
あー!俺のじゃないし大丈夫!
愁斗
なんなら、もっと振っちゃえ!
そう言って、既に炭酸でパンパンになったペットボトルを上下に振りかざす。
愁斗
アイツらには内緒だよ!
イタズラに笑って去っていく後ろ姿を見ながら、不覚にも口角が上がってしまった。