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絶対に、 あの井戸を覗いてはいけない。
親友の雄太から聞いたのは、 うちの小学校にある、 使われていない井戸に関する噂だった。
玲
雄太
暑い夏の日差しの中、 私は雄太と共に花壇を手入れし始めた。
玲
雄太
雄太は手についた土を払い、 大きく伸びをする。
玲
雄太
私はもどかしくなり、 雄太を問い詰める。
玲
雄太
私たち六年生は一か月に一度、 あの辺の草むしりを当番制でやっている。
あの井戸のそばには、 立ち入り禁止の看板が立っていたはずだ。
玲
雄太
たった数分、 二人で草むしりをするだけだというのに。
玲
雄太
雄太の話のとおりなら、 一人は確実に井戸に近づいている。
玲
雄太
行方不明になっていた自覚が、 本人にはないようだ。
玲
雄太
逆に覗いただけで行方不明なんて、 私には理解できない。
玲
雄太
きっとみんなが口裏を合わせて、 井戸に近づかないように怖がらせているんだ。
玲
雄太
お化けなんているはずない。
見えなければいないのと同じこと。
玲
雄太
スコップをバケツに入れ、 最後にジョウロで花壇に水をやる。
雄太は噂のことが気がかりなのか、 全然手を動かそうとしない。
玲
雄太
玲
雄太
雄太の表情は暗いままだったが、 この噂は杞憂だったって、 いずれ気づくはずだ。
次の日、 教室で男子たちが話しているのを、 私は横目で見ていた。
男子1
雄太
男子1
雄太は私とよく一緒にいるから、 何かと勘違いされやすい。
雄太
男子1
雄太の顔が、 青ざめている気がする。
私は我慢できず、 会話に口を挟んだ。
玲
男子1
玲
雄太は気まずそうな顔をしている。
雄太
男子1
雄太
そうだ、 信じていないなら、 一緒に行って確かめればいい。
玲
男子1
雄太
こうして私たちは、 井戸を確認しに行くことになった。
放課後、 他男子二人を合わせ、 私たちは四人で井戸へと向かった。
雄太
雄太はまじまじと井戸を見ている。
もちろん、 井戸は蓋が閉まったままだ。
男子1
男子二人が蓋を開けようとするが、 重たくてびくともしない。
男子1
私はおかしいことに気づいた。
二人がかりでも開かない蓋があるのに、 どうやって井戸を覗いたのだろうか。
男子1
玲
雄太は何も言わず、 その場に立ち尽くしている。
男子二人は私たちを置いて、 先に帰ってしまった。
玲
雄太
噂はやっぱりでたらめだった。
玲
雄太
私たちも井戸を離れ、 一言も喋ることなく、 校舎に戻ってきた。
玲
歩きながら、 後ろにいるはずの雄太に話しかけたが、 返事がこない。
玲
確実に一緒に戻ってきたはずだった。
しかし、 後ろを振り向いた時には、 雄太の姿はなかった。
玲
私は駆け足で来た道を引き返す。
玲
井戸の前に、 雄太が立っていた。
そして、 開かなかったはずの蓋が、 開いている。
玲
雄太
そこにはいつも通りの、 雄太がいる。
玲
雄太
雄太がそんなことを言うはずがない。
玲
雄太
私はおかしいと思いながらも、 雄太と一緒に帰ることにした。
あの日から特に変わったことはなく、 当番の日がやってきた。
井戸の近くを通ると、 あの日の雄太の言動を思い出す。
『井戸の水は綺麗だった』
どうも私は、 あの井戸が気になって仕方がなかった。
玲
雄太
雄太が私に指定したのは、 よりによって井戸の近くだった。
玲
雄太
前だったら絶対に言わないだろう言葉を、 雄太は平気な顔で私に言い放った。
玲
雄太
しばらくはおとなしく草むしりをしていたが、 どうしても井戸を覗きたくて、 私は自分でも気づかないうちに、 井戸へと近づいていた。
玲
誰が開けたのだろうか。
大人が不用心に開けるとは、 思えなかった。
玲
井戸は私の身長で言うと、 胸の高さぐらいある。
覗くことは容易ではないが、 少し背を伸ばせば、 出来なくはない。
玲
そこには雄太の言う通り、 透き通った綺麗な水が溜まっていた。
誰かに見られているような気がして、 一旦後ろを振り返ったが、 誰もいない。
そもそも、 気配は後ろからではなく、 真正面から感じる。
玲
水面には私が写っている。
透き通っているのに、 はっきりと写っているのだ。
私は何かに誘われるように、 その水に触れてしまった。
「待っていたよ」
水に写った私がにやりと笑う。
その瞬間私は誰かに腕を掴まれ、 水中に引きずり込まれた。
気が付くと、 そこはどこか薄暗い、 知らない場所だった。
玲
上を見上げると、 遠くに空が見える。
そして、 誰かが覗いている。
玲
私が私を覗いている。
耳を澄ますと、 雄太のこもった声が聞こえてきた。
「玲、草むしり終わったか?」
「うん。戻ろうか」
違う、 あれは私ではない。
玲
???
誰かが私に話しかけている。
姿は見えない。
玲
???
外から見えた水は、 あんなに綺麗だったのに、 ここはまるで真逆だ。
玲
???
噂の真実は、 こういう事だったんだ。
興味に惹かれて、 綺麗なものに惑わされ、 そうして私は、 もう真の暗闇から抜け出せない。