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お兄さんたちの日常

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お兄さんたちの日常

2 - 卯月さんの猫┊ POV:ジュン

♥

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2022年08月07日

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卯月さんは俺と出会う前、猫を飼っていた。

オレンジっぽい茶色のトラ柄のオス猫で、そのまま名前も「トラ」と名付けて可愛がっていたらしい。

しかしその愛猫トラは昨年、俺と卯月さんが出会った日に卯月さんの家から外に飛び出してしまい、それ以来ゆくえが分からなくなっていた。

家猫として育てられた猫が、人間の保護なく野生で生きていられる可能性は薄い。

1年もの間見つからず、近所でも見かけなかったのなら、悲しいけれど何処かで最後を迎えてしまったのかも知れない。 俺も卯月さんもそう考えていた。

けれど、そのトラが。 なんと帰って来たのだ。

卯月キョウスケ

ん〜〜トラぁ〜、ふふふ。
相変わらず可愛いなぁ
お前は

卯月さんの寵愛(ちょうあい)を受けるオス猫、トラ。 卯月さんに抱っこされれば大人しいもんで、存分に頬ずりされ、顔やマズルにめちゃくちゃにキスされている。

虎谷ジュン

トラ〜〜、俺も撫でさせて
くれるか〜?

トラ

ニャッ!!!

虎谷ジュン

ってぇ…!

お前はいらんとばかりに、トラは俺が優しく伸ばした手に爪を立てて払いのけた。

虎谷ジュン

(コイツ……
ぜんっぜん可愛くねぇ…。)

卯月さんにはゴロゴロのど鳴らすくせに、俺には明らかな敵意向けてくんだよなぁ…。俺には分かるぞ。

虎谷ジュン

あのさーー、卯月さん

虎谷ジュン

コイツ俺のこと
嫌い過ぎじゃね?
なんで?

卯月キョウスケ

んん?そうかなぁ…?

卯月キョウスケ

トラ?ジュンとも
仲良くできるよね?

トラ

ニャー〜ン♪

卯月キョウスケ

いい返事だね、
いいこいいこ

何が「ニャーン♪」だ。 猫かぶんじゃねぇ。(本当に猫だけど)

卯月キョウスケ

でもさ、
ホントにこんな事って
あるんだね

卯月キョウスケ

まさか、あんなに
近くにある喫茶店で

卯月キョウスケ

ずっと面倒見て
貰ってたなんて…。

虎谷ジュン

灯台下暗しだよなー

トラはこの1年、どうやらこの近所にある古めの喫茶店に居候をしていたらしい。

野良猫としてサバイバルすることもなく、喫茶店に勝手に居座って、店主に気に入られ可愛がられていたのだとか。

俺たちがこれまで訪れた事の無かったその喫茶にたまたま立ち寄った先日、店の奥から看板猫として出て来たのをきっかけに発覚した。

卯月キョウスケ

これ、外されてなくて
良かったなぁ…

卯月さんがそっと撫でるのはトラの首輪。赤のレザーに「TORA」と刻印してあるそれを、喫茶店の店主も外さないでいてくれたみたいだ。

刻印してあるからにはそれが名前なんだろうと、喫茶店でもやはりトラと呼ばれていた。

卯月キョウスケ

1年もお世話に
なってたんだから

卯月キョウスケ

今度改めてお店に
お礼をしなきゃね

虎谷ジュン

そーだなぁ…

卯月さんには悪いけど……、あのまま喫茶店に預けちまっても良かったんじゃ?と思わないこともない。

この家に舞い戻ってからというもの、トラは隙あらば俺と卯月さんの間にするりと入り込み、心なしかドヤ顔で俺を見る。(ような気がする)

なんとも憎らしい、 小さなライバル(?)と化していた。

卯月キョウスケ

んー。トラってさぁ、
やっぱりジュンに
似てるよね

虎谷ジュン

(また言ってる…)

極め付けはこれだ。 卯月さんはよくこの猫が俺に似ていると言う。まぁ俺も広義の意味でトラ(虎)ですし?虎谷ですし?

ただ、「俺に似てる」と言いながらその猫を撫でたりキスしまくったり、ベタベタに可愛がる様子を見せられていると、なんか……

なんだか、妙にムズムズするというか「えっ、じゃあそのベタベタに可愛がるの俺でも良くねぇ?」という変な感情が湧いてしまう。

虎谷ジュン眉ひそめ

卯月さんそれ
初めて会った時も
言ってただろ

卯月キョウスケ

ふふ…。あの時は
気が動転してたから

卯月キョウスケ

本当にトラが
人間にでもなって

卯月キョウスケ

助けに来てくれたのかと
思ったよ

虎谷ジュン

どんなファンタジーだよ

その猫は逃げたんだぜ、 卯月さんのピンチに。

虎谷ジュン

卯月さんを助けたのは
俺です〜〜

卯月キョウスケ

はいはい、分かってるよ。
感謝してる

ちょいちょい、と卯月さんが俺を手招きする。 トラに遠ざけられ、卯月さんの半径60cmほどから締め出されていた俺が再びにじり寄ると、

卯月キョウスケ

感謝してるよ、ジュン。
ありがとうね

卯月さんの優しい声と共に、軽く頭を撫でられる感触が降ってくる。

片手に猫を抱き、もう反対側の手で俺の頭を撫でる卯月さん。

よしよし、と撫でる手つきは動物を可愛がるそれに似てて、「俺とトラ、扱いが同じじゃ…?」と頭をよぎりもするが、卯月さんに撫でられるのは心地が良い。

虎谷ジュン

俺も卯月さんの
猫になろうかなー。

養われてぇーー

冗談めかして言えば、 卯月さんがクスクスと笑う。

卯月キョウスケ

ふふっ。今既に、
ちょっとそうじゃない?

虎谷ジュン

そーかな

卯月キョウスケ

そうだよ

虎谷ジュン

もっと可愛がってくれても
良いんだぜ

虎谷ジュン

トラより俺にしとこ

卯月キョウスケ

大きな猫だなぁ…

会社の同僚から連絡が入ったらしく、まどろみのような空気感が一瞬で終わる。

卯月キョウスケ

あ。
ちょっと呼ばれちゃった

卯月キョウスケ

休憩はここまでだね。
行って来なきゃ

虎谷ジュン

おー

仕事に呼ばれれば卯月さんはすぐに立ち上がって、ノートPCを持って仕事部屋に消えていく。

「ちょっと」と言いつつ、webミーティングが始まれば、何だかんだしばらく部屋からは出てこないだろう。

トラと一緒にリビングに取り残された俺は、何とも言えない物足りなさをかすかに感じながら、 卯月さんの猫と、この部屋を見渡して、俺が初めてこの部屋に入った時の事を思い出していた。

虎谷ジュン

……。

虎谷ジュン

(あれから1年かぁ…)

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