卯月さんは俺と出会う前、猫を飼っていた。
オレンジっぽい茶色のトラ柄のオス猫で、そのまま名前も「トラ」と名付けて可愛がっていたらしい。
しかしその愛猫トラは昨年、俺と卯月さんが出会った日に卯月さんの家から外に飛び出してしまい、それ以来ゆくえが分からなくなっていた。
家猫として育てられた猫が、人間の保護なく野生で生きていられる可能性は薄い。
1年もの間見つからず、近所でも見かけなかったのなら、悲しいけれど何処かで最後を迎えてしまったのかも知れない。 俺も卯月さんもそう考えていた。
けれど、そのトラが。 なんと帰って来たのだ。
卯月キョウスケ
卯月さんの寵愛(ちょうあい)を受けるオス猫、トラ。 卯月さんに抱っこされれば大人しいもんで、存分に頬ずりされ、顔やマズルにめちゃくちゃにキスされている。
虎谷ジュン
トラ
虎谷ジュン
お前はいらんとばかりに、トラは俺が優しく伸ばした手に爪を立てて払いのけた。
虎谷ジュン
卯月さんにはゴロゴロのど鳴らすくせに、俺には明らかな敵意向けてくんだよなぁ…。俺には分かるぞ。
虎谷ジュン
虎谷ジュン
卯月キョウスケ
卯月キョウスケ
トラ
卯月キョウスケ
何が「ニャーン♪」だ。 猫かぶんじゃねぇ。(本当に猫だけど)
卯月キョウスケ
卯月キョウスケ
卯月キョウスケ
虎谷ジュン
トラはこの1年、どうやらこの近所にある古めの喫茶店に居候をしていたらしい。
野良猫としてサバイバルすることもなく、喫茶店に勝手に居座って、店主に気に入られ可愛がられていたのだとか。
俺たちがこれまで訪れた事の無かったその喫茶にたまたま立ち寄った先日、店の奥から看板猫として出て来たのをきっかけに発覚した。
卯月キョウスケ
卯月さんがそっと撫でるのはトラの首輪。赤のレザーに「TORA」と刻印してあるそれを、喫茶店の店主も外さないでいてくれたみたいだ。
刻印してあるからにはそれが名前なんだろうと、喫茶店でもやはりトラと呼ばれていた。
卯月キョウスケ
卯月キョウスケ
虎谷ジュン
卯月さんには悪いけど……、あのまま喫茶店に預けちまっても良かったんじゃ?と思わないこともない。
この家に舞い戻ってからというもの、トラは隙あらば俺と卯月さんの間にするりと入り込み、心なしかドヤ顔で俺を見る。(ような気がする)
なんとも憎らしい、 小さなライバル(?)と化していた。
卯月キョウスケ
虎谷ジュン
極め付けはこれだ。 卯月さんはよくこの猫が俺に似ていると言う。まぁ俺も広義の意味でトラ(虎)ですし?虎谷ですし?
ただ、「俺に似てる」と言いながらその猫を撫でたりキスしまくったり、ベタベタに可愛がる様子を見せられていると、なんか……
なんだか、妙にムズムズするというか「えっ、じゃあそのベタベタに可愛がるの俺でも良くねぇ?」という変な感情が湧いてしまう。
虎谷ジュン眉ひそめ
卯月キョウスケ
卯月キョウスケ
卯月キョウスケ
虎谷ジュン
その猫は逃げたんだぜ、 卯月さんのピンチに。
虎谷ジュン
卯月キョウスケ
ちょいちょい、と卯月さんが俺を手招きする。 トラに遠ざけられ、卯月さんの半径60cmほどから締め出されていた俺が再びにじり寄ると、
卯月キョウスケ
卯月さんの優しい声と共に、軽く頭を撫でられる感触が降ってくる。
片手に猫を抱き、もう反対側の手で俺の頭を撫でる卯月さん。
よしよし、と撫でる手つきは動物を可愛がるそれに似てて、「俺とトラ、扱いが同じじゃ…?」と頭をよぎりもするが、卯月さんに撫でられるのは心地が良い。
虎谷ジュン
冗談めかして言えば、 卯月さんがクスクスと笑う。
卯月キョウスケ
虎谷ジュン
卯月キョウスケ
虎谷ジュン
虎谷ジュン
卯月キョウスケ
会社の同僚から連絡が入ったらしく、まどろみのような空気感が一瞬で終わる。
卯月キョウスケ
卯月キョウスケ
虎谷ジュン
仕事に呼ばれれば卯月さんはすぐに立ち上がって、ノートPCを持って仕事部屋に消えていく。
「ちょっと」と言いつつ、webミーティングが始まれば、何だかんだしばらく部屋からは出てこないだろう。
トラと一緒にリビングに取り残された俺は、何とも言えない物足りなさをかすかに感じながら、 卯月さんの猫と、この部屋を見渡して、俺が初めてこの部屋に入った時の事を思い出していた。
虎谷ジュン
虎谷ジュン
コメント
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今2話読んできたのですが…やっぱり言葉選びが凄いですね…!!✨アイコンの表情が変わってるところもこだわりが感じます!!続きも楽しみにしています🎶ブックマークもつけます!