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休憩スペースで神経衰弱をしているエミ、一馬、ヨシキ、ナナ

一馬

おっしゃ、今回も僕の勝ちー!

ヨシキ

ちぇーっ、一馬強すぎんだろ。

エミ

記憶力いいんだね!

ナナ

頭良さそうだもんね、銀行員って。

ヨシキ

おいおい、俺も銀行員だっつーの!

ヨシキ

はぁー、悔しいからパンでも食べよう。

ヨシキ、売店の袋からスナックパンを出してかじりつく。

一馬

おいおい……うまそうじゃねぇか。

ナナ

いいねぇ、食欲あって。見てて気持ちがいいよ。

ヨシキ

スナックパン最高だよ。うまいし安いし腹も満たされる。

エミ

(……スナックパン)

エミ、脳裏に記憶が蘇る。

ボサボサの髪、汚い服をきてスナックパンを食べている子供。

母親はメイクをして夜の街に消えていく。

ゴミが散乱した汚い部屋に取り残される子供。

エミ

うっ……

エミ、口元を押さえてその場を去る。

一馬

エミちゃん!?

エミ、病室の洗面台に顔をうずめている。

エミ

ゲホッゲホッ

部屋をノックする音。

一馬

エミちゃん?大丈夫?

エミ

あ、うん、大丈夫。

一馬

入ってもいい?

エミ

うん。

エミ、口元を洗う。

一馬

ごめんね、来るか迷ったけど心配で。

一馬

もしかして何か思い出した?

エミ

……うん。家族のこと。

一馬

そうなんだ。話してくれる?

エミ

私、母子家庭だったの。物心ついた時にはもう母親しかいなくて、父親のことは何も知らない。

一馬

うん。

エミ

母親と二人で木造の古いアパートに住んでた。

エミ

母親は働いていなかった。お昼からお酒ばかり飲んで、家事は私にやらせてた。

エミ

お金がなくて、お風呂は週1だったし、洋服の洗濯も制限されてた。

一馬

……

エミ

ご飯はいつもカップ麺とか……スナックパン。

一馬

そうか、だから……

エミ

少しでもこれが欲しいとか言うと叩かれるの。だからいつも黙ってた。

エミ

でもね、母親はいつも綺麗な服着て綺麗にメイクして夜出ていくの。
今思えば、男にでも会って貢いでもらってたのかな。

一馬

もしかして、前言ってた恐怖って、お母さんのこと?

エミ

……そうなのかな。

エミ

でも社会人になってからは、連絡とってなかったと思う。

エミ

だから捜索願いも出てないんだ。

エミ

誰も私のことなんて、探してない。必要とされてない。

一馬、エミを抱きしめる

エミ

一馬

そんなことないよ。まだ思い出してないことの方が多いんだから。エミちゃんを探してる人はきっといる。

一馬

万一、誰も探していなかったとしても、僕にはエミちゃんが必要だから。

エミ

……うん。

エミ

でも、必要なのって私だけ?

一馬

え?

エミ

……ナナさん。

エミ

すごく仲良さそうに見えたから。

一馬

あー、ナナちゃん。もちろん、彼女も必要な人だよ。

一馬

でもそれは、友達として。それ以上の感情は無いよ。

エミ

そっか。そうなんだ。

一馬

もしかして妬いてくれてた?

エミ

……ちょっとね?

一馬

なんか、嬉しい。

見つめ合うエミと一馬。

ノックの音。看護師が入ってくる

看護師

エミさーん。検査の時間です。

エミ、一馬、パッと離れる。

エミ

すみません、体調悪くて。
違う日に変更できますか?

看護師

あら、どうされました?

エミ

吐き気があって……

看護師

そうですか。確かに顔色が悪いですね。吐き気止めのお薬出しましょう。

エミ

……いえ、大丈夫です。少し横になります。

看護師

検査の件は医師に伝えておきます。また体調が悪くなったら、すぐナースコールしてください。

エミ

わかりました。

看護師

内田さん、エミさんは体調が悪いので長居は禁物ですよ。

一馬

すみません、わかりました。

看護師、出ていく。

エミ

ねえ、一つ聞いて欲しいことがあるの。

一馬

何?

エミ

あのね。色々考えてだんだけど……私のクレジットカードとか、キャッシュカードとかスマホとか、身分がわかるものがごっそり無いのおかしいと思わない?

一馬

うん、まぁ、ね。

エミ

もしかして病院が意図的に隠してるのかなって。

一馬

え?病院が?

エミ

うん。

一馬

でも、なんで?病院が隠す理由が見当たらないよ。

エミ

一つの仮説として聞いてね。

エミ

私、病院に利用されてるんじゃないかなって。

一馬

利用?

エミ

うん、記憶を失った私が運ばれてきて、これは使えると思われた。
家族もわからない、自分のこともわからない都合のいい存在。

エミ

記憶が戻って身元がわかるまでの間、何かの実験に使われてるのかなって。

一馬

実験?治験みたいなもの?

エミ

そう。病院に出された薬飲んでるけど一向に良くならないの。
もしかしてあの薬が何か違法な新薬で私で試されてる、とか。

一馬

そんなこと、するかなぁ。

エミ

わからないけど、それくらいしか思い浮かばなくて。なにかと検査されるけど、異常がありませんでした。しか言われないし、体は健康なはずなのに退院の日も言ってこない。

一馬

たしかにそれは、怪しいかも。

一馬

病院ってすぐ退院させたがるからね。

エミ

でしょう。なにかある気がして怖いの。

エミ

病院の薬、飲むのやめてみようかな。

一馬

それで病院側の反応を見るってこと?

エミ

うん。

エミ

ちょっと怖いけど……

一馬

ちょっとどころじゃなくてすごく怖いよ。エミちゃん、いろいろ頑張りすぎだから、心配だよ。

エミ

何かあったら頼ってもいい?

一馬

もちろん。エミちゃんの助けになることならなんでもするよ。

エミ

ありがとう。

一馬

……じゃあ、僕は戻るから、ゆっくり休んで。

エミ

わかった

一馬、エミ、ハグする。

一馬

じゃあね。

一馬、出ていく。

エミ

(きっと、一馬くんも私と同じ気持ち)

エミ

(早くこの病院から出て一緒になりたい)

エミ

(これからもずっと、一緒にいたい)

……数日後 病室をノックする音

看護師

エミさーん、検査の時間です。

看護師

……ってあれ。いない。

机の上の薬の袋を見つけ、中身を確認する。

看護師

やだ……飲んでない!

看護師、バタバタと病室を出ていく。

エミ、休憩スペースでコーヒーを飲んでぼんやりしている。

ヨシキ

おっ、エミちゃん!

エミ

あ、ヨシキくん。

ヨシキ

一馬に聞いた?俺たち退院することになってさ。

エミ

えっ

ヨシキ

いやぁー、長かったわぁ。でもエミちゃんという病院のプリンセスにも会えたし、そこはよかったかな!

エミ

……退院

ヨシキ

でも一馬寂しがるなぁ。エミちゃんのこといつも気にしてたし。

エミ

退院?……退院……

ヨシキ

エミちゃん?

エミ

……そんなのだめっ!

ヨシキ

え?

エミ、走り出す。

ヨシキ

……

エミ、一馬の、病室に駆け込む。

一馬

わぁっ!……ってエミちゃんか!

エミ

ねえっ、退院するってほんと!?

一馬

ヨシキから聞いたんだ。そう、今日の午後退院するよ。言うの遅くなってごめ……

エミ

そんなのだめっ

エミ、一馬に抱きつく。

一馬

エミちゃん?

エミ

私、病院に殺されるかもしれないんだよ!?助けてくれるって言ったじゃない!

一馬

エミちゃん、落ち着いて。

エミ

ねぇ、私を置いていかないで!

一馬

大丈夫だよ。退院はするけどお見舞いにはちゃんと来るから。

エミ

でも毎日一緒にいられるわけじゃないでしょ?

一馬

それは、そうだけど……

エミ

病院に何かされたら私……

一馬

ごめんね。毎日一緒にいてあげられたら良かったんだけど。
仕事もしなきゃいけないし……

エミ

一馬くんは私のことどう思ってる?

エミ

運命だといいなって言ってくれたよね?

一馬

……

エミ

私は一馬くんに会えたのは運命だと思ってるし、これからもずっと一緒にいたいの。

エミ

退院はお祝いしなきゃいけないってわかってる。わかってるんだけど、こんなに人を好きになったのが初めてで、気持ちがぐちゃぐちゃで……

一馬

そっか。ありがとう。

一馬、ナースコールを押す

看護師の声

どうされましたー?

一馬

エミさんが来てます。お迎えをお願いします。

エミ

……どうして

一馬

好きになった人に裏切られるってどんな気持ち?

エミ

え?

一馬

裏切られる気持ちを味わうのも初めてなんでしょ。

エミ

何、言ってるの?

医師と複数の看護師が病室に駆け込む

医師

エミさん、行きましょう。

医師、エミの腕を掴む。

エミ

離してっ!!

エミ、抵抗するも、看護師たちに無理やりタンカーに乗せられ、身動きが取れないよう固定される。

エミ

一馬くんっ!!

エミ

助けてっっ!

一馬

……運命なんて無い。全ては必然だよ。

一馬、冷たい視線でエミを見下ろす。

エミ

お願いっ、ねぇ!!一馬くん!!

エミ、タンカーに乗せられ部屋を出ていく。

廊下にエミの叫び声が響いた。

病棟のシンデレラ

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