提案される口移し。
それしかない。それしかないのだ。
照れている場合ではない。そんな状況ではない。
無一郎は死を悟り、静かに目を閉じている。
死なせない。貴方だけは。
奈那
奈那は痛みも忘れてすぐさま無一郎の元へ移動し、大きく空気を取り込み…
目を開けた無一郎は普段以上の虚ろな目でこちらを見つめている。
水槽越しに唇を重ね合わせるようにして息を吐き出した。
酸素を得た彼の意識が覚醒する。
──霞の呼吸 弐ノ型 八重霞──
刹那、何かが弾けるような大きな音と大量の水が奈那に降り注いだ。
そして、体温にしては異様に高い温度と、硬い筋肉の感触。
顔を上げる。すると、顔に見慣れない模様が現れ、霧が晴れたような優しい目を向ける無一郎がいた。
抱き締め…られている?
奈那
奈那
無一郎は言葉こそ無いものの腕の力を少し強めて返事をする。
かなり咳き込んでいる。当然だ、肺に水が入っているだろう。
それに、あの針のせいか少し痙攣している。
時透無一郎
奈那
先程奈那の脚を切りつけた金魚がすぐ横で腕を高く上げ、こちらに攻撃を仕掛けようとしている。
声を荒らげた奈那よりも素早く無一郎が斬る。
ドキドキとする胸を抑える。惚れ惚れとしている場合ではない。
小鉄
そう縋るように言う小鉄。
無一郎の眼には光が宿っている。表情も晴れ、以前までの虚ろなものではない。
読み取れるものは、明確な鬼への憎悪。
そして…芯を取り戻したかのような、真っ直ぐな瞳。
奈那は思わず見惚れてしまう。
時透無一郎
奈那
時透無一郎
瞬きひとつの間に奈那の側から姿を消す無一郎。既に小屋の入口付近に立っている。
奈那
小鉄
奈那は優しく微笑み、無一郎の元へと向かった。
無一郎を追いかけ、小屋の入口から中を覗き込む。
鬼。恐らく、金魚の鬼たちの本体。今まで戦った鬼とは比べ物にならない程の強さだと、本能が伝えている。
それでも戦わなければならない。一番軽傷である奈那が逃げてはいけない。
震える脚を強く抑え込む。
壺から身体を出し、本来口のある場所と額に目があり、目があるはずの場所に口がある…不気味な姿。
その頚からは血が流れている。
無一郎を睨んでいることから、彼が斬りつけたのだろう。いつの間に。
鬼は、奈那をじっくりと舐めるように見る。
玉壺
玉壺
玉壺
時透無一郎
時透無一郎
その言葉に、玉壺と名乗る上弦の伍と刻まれた鬼は嘲笑うように言い放つ。
玉壺
時透無一郎
奈那
時透無一郎
奈那
玉壺
──血鬼術 蛸壺地獄──
蛸足のようなものが壺から放たれる。
無一郎は咄嗟に斬ろうと刀を振るも、刃こぼれしていたそれは呆気なく折れてしまった。
鉄穴森
奈那
鉄穴森が無一郎に刀を渡した直後、三人まとめて血鬼術に絡め取られた。最悪の状況だろう。
肋骨から嫌な音がした。悲鳴をあげたくなるような鈍痛が走る。
肺を圧迫されて息がしにくい。呼吸が上手くできなくて、切りつけられた脚の痛みも増す。
焦る奈那と鉄穴森。それとは対照的に無一郎は涼しい顔をしている。
奈那
無一郎は奈那の言葉に軽く微笑むと、腕を振り上げ自力で蛸足を斬り刻み、全員の拘束を解いた。
時透無一郎
雰囲気が変わる。奈那も刀を構え直す。
時透無一郎
鉄穴森が息を飲んだ。 本人は謙遜しているが、鉄穴森の技術は確かだ。
奈那
なるべく、離れてください。そう鉄穴森に告げて無一郎の元へ駆け寄る。
無一郎が踏み込むと同時に奈那も息を整える。
──霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海──
──恋の呼吸 弐ノ型 懊悩巡る恋──
無一郎が蛸足を斬り、奈那が蛸足を斬りながら玉壺に突進し、頚を斬るように見せかけて上に飛び上がる。
反対方向から無一郎が頚を狙った。
合同任務や共に鍛錬をしたことはないものの、美しいほどに完璧な連携。
更に、無一郎は連携の中でも奈那が怪我をしないように注視していたのだ。奈那の捌き切れない攻撃を斬り落としながら技を繰り出していた。
時透無一郎
奈那
無一郎は小さく頷き、前を向く。
玉壺
奈那
時透無一郎
玉壺の頚から血が吹き出す。 上弦の鬼が斬られても気付くことができない。無一郎の攻撃は相当速く、鋭いようだ。
奈那
時透無一郎
玉壺
コメント
3件
恋愛が下手な2人の作品も好きですがこちらな作品も最高👍続きが気になる(๑´ロ`๑)~♪❤️
この作品も大好きだけどもう一つの作品の無一郎の壊れっぷりが好きすぎる=主さんは最強ってことですね