少しの灯りのみが照らす先
そこには、球が地面を突く音が聞こえた。
その音は、司の胸を締め付けた。
それはある出来事がきっかけだった。
友達A
司!今日の体育、バスケだって!
司
バスケ?俺やった事ないんだよね
友達B
バスケやったことないの!?
友達A
楽しーのにな!
司
母さんが、ダメって言うんだ
司
突き指したらピアノ弾けなくなっちゃうから
友達A
そうだよな〜
友達A
でも、体育だし内申に響くかもよ?
司
たしかに…授業だしね
友達B
大丈夫だよ!バレないだろ
授業中
生徒C
いくよー!
生徒D
あ!
他のペアがキャッチをミスしてしまい、そのボールは勢いを失わないまま飛んでいった。
しかしそのボールは司を目掛けて一直線だった。
生徒D
あぶない!
その言葉が司の耳に入った時にはもう遅かった。
司の後頭部に勢いよく当ってしまった。
しかも、昨晩ピアノの練習で寝不足な司にとって、それは大きな衝撃だった。
司
____っ……
遠のいていく意識の中で友人の心配そうな掛け声だけが朧気に響いていた。
数時間後
視界に入ったのは、白い天井だった。
保健室の先生
あ、起きた?
司
は、はい…
保健室の先生
無理して起きなくて大丈夫だよ
保健室の先生
今、お母さんがお迎えに来てくれるみたいだからちょっと待っててね
司
お母さんが……?
その時保健室に電話が鳴り響いた。
保健室の先生
__はい、わかりました。
保健室の先生
司くん、お母さんいらっしゃったみたい
保健室の先生
立てる?
司
だ、いじょうぶ…です
保健室の先生
うん、ちゃんと病院で診てもらってね
司
…わかりました。
母
……
司
……
母
司、球技はしないように言ったはずよ
司
……ごめんなさい
母
突き指したらどうするの
母
もうピアノ弾けなくなることだってあるの
母
そうしたら、司はどうするの?
司
……
母
自分がすべきこととしなくてもいいことの区別くらいちゃんとして
司
はい…
母
学校にも、お母さんから電話しておくわ
司
え…っ
母
またこんなことがあったらどうするの?
母
頭だったから良かったけど、指だったらピアニストなんかになれないわ
司
でも
母
司はピアニストになりたくないの?
司
……
司
(俺は……もうそんな夢とっくに)
母
なりたいから、たくさん頑張ってきたのよね?
司
……うん
母
だったらもう危ないことはしないって約束して
司
わかった
友達A
司、今日の体育も見学?
司
あはは…ごめんね、ちょっと…
友達B
まあ、無理すんなよ!
司
ありがとう…
みんなが楽しそうに授業を受ける中、1人だけがつまらなそうにその風景を眺めていた。
司
……もう帰ろう
司
ここにいたら、嫌なことばかり思い出してしまう
「帰りたくない」
その言葉だけが灯りの届かない闇に溶け込んでいった。