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1件

凄く面白かったです!!続きがとても楽しみです!!頑張って下さい!!
昼が近づく頃
日差しは更に強くなり
アスファルトの照り返しが目に刺さる
商店街の一角に
子ども向けスペースが設けられた
小さな机
色ペン
短冊
折り紙
スタッフの声が響く
子供たちが一斉に集まり始める
夜々
夜々
夜々が言う
○○
透華は既に小さな女の子に話しかけている
矢野
矢野
矢野
夜々もしゃがみこんで
男の子の目線に合わせる
夜々
夜々
夜々
夜々
自然
迷いがない
子供たちはすぐに懐く
笑い声の中心に2人がいる
○○は少し離れた所でその様子を見ていた
短冊の束を抱えたまま
○○
小さく呟く
透華は子供に囲まれている
夜々は弟でも相手してるかのような
手馴れた動き
まるで最初からそこに属していたみたいに
○○の足は
その輪の中に踏み込めない
嫌いなわけじゃない
むしろ
小さな手や笑顔は
可愛いと思う
でも
どう話せばいいのか
どんな声を出せばいいのか
どの距離で立てばいいのか
分からない
子供が一人
○○の前に来る
短冊を持っている
見上げてくる
○○は固まる
○○
声が上手く出ない
○○
ぎこちない
子供は少し首を傾げ
そのまま透華の方に走って行った
○○は、短冊を持ったまま立ち尽くす
胸の奥が、少しだけチクッとする
遠くで笑い声
夜々
祭りの音
風に揺れる飾り
○○は1歩下がり
日陰に移動した
騒がしいはずの空間の中で
自分だけ外側にいるみたいだった
そのとき
夜々
夜々が振り返る
○○
○○
透華が笑う
矢野
○○
夜々
夜々が言う
夜々
透華が続ける
矢野
矢野
○○は目を丸くした
○○
○○
夜々
二人はまた子どもたちの輪へ戻っていく
○○はその場に立ち
子供たちの動きを目で追った
走る子
笑う子
短冊を握りしめる小さな手
風に揺れる色とりどりの願い
胸の奥のざわつきは消えない
でも
ここにいる理由を
少しだけ貰えた気がした
昼の熱気から少し離れ
○○は自販機の前でぬるくなった
スポーツドリンクを飲んだ
遠くで子供たちの笑い声
短冊が風に揺れる音
○○
小さく息を吐き
戻る。
イベントスペースの端
人の輪から少し外れた場所
そこに
小さな背中があった
小学校二年生ぐらいの女の子
しゃがみこんで
赤い短冊を握りしめている
肩が小さく震えている
しくしく、と
泣いている
周りは誰も気づいていない
笑い声と、賑わいの音に溶けてしまうくらいの
小さな涙
○○の足が止まる
━━あ。
胸の奥が、静かに痛む
人の輪に入れなかった日
声を出さなかった日
小さかった自分と
重なる
どうしよう
声をかける?
でも、なんて?
足が動かない
その時
菅原
振り向く
少し離れたところに立つ菅原
柔らかな視線
菅原
静かな声
○○は迷ったまま
小さく頷いた
ゆっくり近づく
驚かせないように
目線を低くして
○○
声が少し震える
○○
女の子が顔をあげる
涙で濡れた目
○○の顔を見た瞬間
さらに泣きそうに歪む
○○
○○は慌てて振り返る
助けを求める視線
菅原は静かに首を振る
━━大丈夫
口の動きだけで伝える
○○は息を飲む
そして
赤い短冊に目をやった
少し考えてから言う
○○
女の子の手元を指さす
○○
○○
女の子は涙を止めきれないまま
小さく首を傾げる
ほんの少しだけ興味
○○はゆっくり言葉を選ぶ
○○
短冊をそっと見つめる
○○
○○
○○
女の子の目が短冊に落ちる
涙がぽたりと落ちる
でもさっきよりも静かだった
○○は続ける
○○
○○
○○
女の子は小さく息を吸う
握りしめていた短冊を見つめる
さっきより
少しだけ力が抜けている
小さい声
○○は頷く
○○
少し不器用な笑顔
女の子は袖で涙を拭いた
女の子は赤い短冊を見つめたまま
小さな声で言った
言葉が途中で揺れる
○○の胸が
ぎゅっと痛む
下を向いたまま続ける
短冊を握る指が少し震えている
○○
○○は静かに頷いた
簡単な言葉しか出てこない
でも
その言葉を軽くしたくなかった
少し考えてから
○○は顔をあげる
○○
周りを見渡す
机の端に置かれた画用紙と色鉛筆
それを手に取り
女の子の前にしゃがむ
○○
○○
女の子は顔をあげる
驚いたような顔
○○
○○
○○
女の子は戸惑った表情のまま
小さく首を振る
○○は少し笑った
○○
色鉛筆を1本差し出す
○○
一瞬だけ迷って
続ける
○○
女の子はゆっくり鉛筆を受け取った
○○は画用紙を広げる
何を書こうかと考える時間
少しの沈黙
○○
○○
女の子が小さく頷く
○○は柔らかな線で屋根を描く
女の子が隣に窓を描く
少し歪な形
でも真剣な顔
○○
○○が言うと
女の子は少しだけ口元を緩めた
木を描いて
空を描いて
太陽を描く
3つならんだ人の影
赤、青、黄色
色が重なっていく
やがて
1枚の絵が出来上がった
○○はそれを少し離して見た
○○
女の子も同じように見つめる
さっきまで震えていた指は
もう静かだった
気が付けば
光の色が変わっていた
強かった日差しは和らぎ
飾りの影が長く伸びている
空は、昼の青から少しずつ夕方の色へ
○○は手を止め、完成した絵をもう一度見た
その時遠くから声がした
女の子が振り向く
人混みの向こうから小走りで近づいてくる女性
女の子が小さく呟く
母親はしゃがみこみ
女の子の肩に触れる
その声は少し息が乱れていた
女の子は画用紙を抱えたまま
躊躇いがちに差し出す
母親は受け取り絵を見る
家
木
太陽
3人の並んだかげ
母親の目が、ゆっくり瞬いた
そしてほんの少し潤む
女の子の頭を優しく撫でる
女の子は振り向き○○を見る
母親も視線を向ける
女の子は頷いた
そして○○の方に駆け寄る
さっきより軽い足取り
息を弾ませて
笑顔
○○は一瞬言葉を失い
それから小さく笑った
○○
○○
女の子は母親のところに戻り
手を繋ぐ
ふたりは並んで歩き出す
さっきよりも少し近い距離で
人混みの中へ溶けていく背中
○○はその姿を見送りながら
静かに手を振った
夕暮れの光が
ゆっくりと商店街を橙色に染めていく
子どもたちの声は少しずつ遠のき
風に揺れる七夕飾りの音だけが静かに残っていた
片付けを手伝おうと机に近づいたとき
○○の視界の端に
一本の短冊が残っているのが見えた
赤い短冊
さっきの女の子が握りしめていた色
そっと手に取る
揺れる紙の感触
そこに、少し不揃いな文字で書かれていた
【かぞくでなかよくいられますように】
○○はしばらく、その文字を見つめた
胸の奥が、静かに波打つ
あの小さな手
不安そうな目
絵を描いてる時の真剣な顔
○○は短冊を胸の前で軽く握り
吹き流しの並ぶ飾りの下へ歩いていく
夕方の風が、涼しくなり始めている
背伸びをして、枝に手を伸ばす
赤い短冊を結ぶ
指先でしっかりと結び目を作る
風に揺れないように、少しきつく
そして
少し息を吐く
叶いますように
声には出さない
でも確かに願いを込める
短冊が風に揺れ
夕焼けの光を受けて、やさしく揺れた
○○は少しだけその場に立ち止まる
揺れる願いを見上げる
胸の奥のどこかに
静かな温かさが残っていた
夏の夕方の空は、やわらかく滲んでいた
夕方の空気が少しだけやわらいできたころ
ボランティア用のテント脇で
菅原は配布物をまとめながら
何度目か分からない視線を
広場の方に向けていた
子供たちスペースの端
○○が立っている
短冊を手にして何かを見つめている
その様子を確認してから
また手元の作業にもどる
夜々
ベンチに倒れ込むように座った夜々が言う
夜々
矢野
隣で大地が苦笑する
透華はすでにスナック菓子の袋を開けていた
夜々
むしゃ、と音がする
矢野
夜々
矢野
その言葉にピクリと菅原の手が動く
夜々は肩を回しながらため息を着く
夜々
夜々
その会話の途中も
○○はまだそこにいる
透華がそれに気づく
袋からスナックを取り出しながら
夜々の膝を軽く小突く
夜々もちらっと視線を送る
そして
口元が僅かに緩む
菅原は気付かずに言う
菅原
夜々
菅原
夜々
菅原
透華がむしゃむしゃしながら言う
矢野
矢野
矢野
矢野
その言葉の後
菅原の視線はまた○○の方へ向いた
今、短冊を結んでいる
夕焼けの中
背伸びをして結ぶ姿
風に揺れる飾り
その光景を見た瞬間
菅原は静かに立ち上がった
クーラーボックスからのみものをとりだし
菅原
自然な声
そう言って歩き出す
残された3人
少しの沈黙
夜々が小声で言う
夜々
透華がすかさず口にスナックを突っ込む
矢野
夜々
透華は笑いながら言う
矢野
大地は腕を組み
広場の方を見る
澤村
三人はそれ以上何も言わず
夕焼けの中の二人を静かに見守った
風に揺れる七夕飾りが
小さな音を立てていた
夕焼けの色が少しずつ深まり
七夕飾りが橙色の光を受けて
やわらかく揺れている
短冊を結び終えた○○の背後から
菅原
静かな声が近づいた
○○
○○
手に持っていたペットボトルを見て
少し首を傾げる
○○
○○
○○
菅原は1本差し出す
軽くペットボトルをぶつける
小さな乾杯の音
菅原
○○
キャップを開けながら○○は言う
○○
○○
○○
少しの間
風が吹く
短冊が揺れる
○○
○○
菅原は小さく頷く
菅原
○○
○○
○○
○○は空を見上げながら言う
菅原
菅原
菅原
○○
菅原
菅原
○○の手が一瞬止まる
○○
○○
素っ気なく言って誤魔化す
少しの沈黙
○○
○○
○○
○○
机の上から1枚とる
菅原が笑いながら聞く
菅原
○○は迷わず紫の短冊を取る
ペンを走らす
さらさらと
書き終えて結ぶ
そこに書かれていたのは
【仲本、内申絶対くれよ】
菅原は吹き出した
肩を震わせながら笑う
菅原
○○は結び終えた短冊を見上げ
手を合わせる
○○
○○
菅原
○○
まだ笑いが収まらない菅原
○○はふと振り返る
○○
菅原
○○
菅原
菅原
○○
菅原
○○
その瞬間
夜々
遠くから夜々の声
矢野
透華の声も続く
○○は振り向き
○○
そして菅原を指さす
○○
そういいながら駆け出していく
夕焼けの中へ溶ける背中
その姿を見送ってから
菅原はゆっくりと短冊の並ぶ場所へ戻った
揺れる色とりどりの願い
菅原
小さく呟く
1本の短冊を取り
ペンを走らせる
迷いは無い
結び
軽く引いて確かめる
菅原
満足そうに見上げた、そのとき
○○
遠くから○○の声
菅原
菅原
短冊を一度だけ見上げ
軽く手を振るようにしてから
皆のいる方へ歩き出す
夕方の風が吹く
飾りが揺れる
並ぶ短冊の中で
一枚だけ静かに揺れていた
そこに書かれていた言葉
【○○がずっと笑っていられますように】
風がやさしく、願いを揺らしていた
夏の夕暮れは、静かに更けていく