どういうことだ、東京が‥いや、日本全土が砂漠化し、都市という都市が消滅している
廃れたビルには、人がいる気配がない。本当に生存者はいるのだろうか。
男はもう残りない水を片手に絶望していた。男は叫ぶ「神はどこだー!」
樹
あー、違う!なんでカッコつけるんだ!
樹
妄想で劇を作りだす。これは俺が得意とすることだろ!そうだ…妄想だ。
樹
妄想を具現化するんだぁ〜、妄想で世界を作るんだ〜
樹
そうといえども、どのように書けばいいんだ…
樹
明日締め切りなんだぞ!今日書かなければ!
俺の名は内海 樹37歳
小劇団の作家が俺の仕事だが、日に日に俺の発想力がなくなっていくことに嘆いている。バイトはもうやめた。電気ももう止められている。俺は暗い部屋の中でひたすら描き続けなければならない…
樹
そうだ!シュチュエーションから決めるか!
ここは砂漠化した東京。1人生き残った男が嘆いている。「雨が…雨が降らない」
樹
あー💢このシュチュエーションで普通のセリフを思いつくんだ💢
樹
とりあえずここはこうするか
ここは砂漠。今まで彩っていた全ての思わせぶりな謎や伏線が一瞬に砂漠へ回帰する。絶望も悲嘆も粉になった砂漠‥
樹
って、俺は何を書いてるんだ💢
こんなの理解できねぇよ…現に俺もはっきり意味がわからない。
樹
土台はいいと思うんだけどな〜
没かな…どうしよ。
樹
とりあえず今日書かなければ!今日書かなければ俺は生活ができなくなる…
樹
誰だ、こんなときに?はーい。
隣人
すみません!隣に住んでいるものですが…
隣人
水を預かってもらえないでしょうか?
樹
水?
隣人
とりあえず、お願いします!!
また後日取りに来ます。それじゃ!
樹
なんだ?2リットルの水が6本…
てか、預けに来たあの子、可愛かったな。
樹
学生っぽいけど、隣にあんな子住んでいたっけ?
樹
でもまぁ、あの子ももう少し説明して来れよな、なんで?とかいつまで?とか…
樹
でもまぁ、可愛かったなぁ〜さっきの子。生足で…腹見えた格好して…これがきっかけで何か発展して、2人の…2人のぉ…みらぃ
樹
ってなにを考えてる!こういう失敗何度もあるだろ💢何度失敗したらわかるんだ俺は💢
樹
未来とかないんだよ!そういうのとか、そういうのとかぁ〜…
樹
いやいやいやいや、そうじゃない!それもありだが、そうじゃないだろ!
樹
んで、預かった水だが、みたところ全てにラベルが貼ってない。どう見ても水だが、なにか…なにかひっかかる…
樹
てか、預かるときに水って言われたんだから水だろ!なんで俺は水かどうか疑ってるんだ!?
樹
第一俺は考えすぎる!考えすぎることで何かから逃げている!何から?
樹
そうだ締切からだ!!
樹
でもなんで水を預ける?預けなくてもいいものじゃないか!
例えばあれか?水係りになって自分の部屋で水を管理できなくなったからか?
樹
水は重い。重いからできるだけ近くの人に預けたい…だから隣の俺に預けたのか
樹
なんか頭が疲れてきたな…、うわっ!
樹
あ、見間違えか…
いつの頃だろうか?…俺は幻覚が見えるようになっていた…
樹
もしかして、ペットボトルに何か書いてあるのか?
ん、、?水ではありません…?
樹
いや、何も書いてないな…、まただ。また幻視だ!やっぱり俺は疲れてるんだ!!
樹
とりあえず出したペットボトルを片付けて、早く書かないと!
俺はそのとき、ペットボトルが入れてあった段ボールの底にふと目がいった
樹
スイ…?水だからスイなのか?
他のところにも何か書いてあるのか?
樹
あった!スイス?
さっきのはスイスのスイなのか
樹
いやいやいや、さっきの女学生のただの意味のない落書きだよ〜
樹
そんなんだったら俺ももう想像するだけで今日の分の飯はいらないわぁ〜
樹
じゃなくて💢しまえ、こんなもの!こんな水。
樹
ん?このペットボトル開けた形跡があるぞ!しかも6本とも全部…
樹
これは一体なんだ?飲んだらどうなるんだぁ…?
樹
いくぞ!
樹
飲んでしまった…。でも間違いなくこれは普通の水だ。
樹
まてよ、俺なんでこの水飲んでいるんだ?
樹
他人の水だろぉ💢なんとか、なんとかして均等にしなければ…
樹
よかった〜!全部開いている形跡があってよかった!
樹
しかしなんで俺は預かっている水を飲んでしまったんだ?
樹
こんなことがバレたら、あの女の子と俺の明るい未来がぁ…
樹
じゃない💢俺はこんなことしている暇なんてないんだろ!明日が締切なんだろ!今日までに書かないといけないの!!
樹
書けねぇ、やはり俺は何も書けねぇ…
樹
あの水だ…あの水のせいだ。
スイってなんだ? スイスのことか! 本当に学生なのか? そもそもあんな子がいたのか? 違和感! 水を預ける? 水係りってなんだ!? あの子可愛い。 友達になれる? なる! 甘い! 幻視か! 妄想か! 俺は終わりか!?
樹
…んなぁ!このままだと今日中に原稿が書けない!
樹
落ち着け、俺!締め切りは明日だ。だが俺は何も書けていない。今日書かなければ…俺は…全てを失う…
樹
返そう、この水を…、そうじゃないと俺はこの水に全てを飲み込まれる…
樹
でも預かってって言われた水を返すと怒るだろう。さすがにあの可愛い女の子も怒るだろ!!そしたら彼女と俺の次の展開もないぞ!!せっかく知り合ったのに
樹
手を繋いだり…、一緒にホテルに行ったりぃ…
樹
やめろぉ!もう何も考えるな!
何も考えるな俺!もう怒られてもいい!とりあえず返しにいくぞ!!
男はペットボトルが入った段ボールを持ち、隣の部屋に行った。
隣人
あ、どうも!今ちょうどこの水が必要でしてね…
隣人
水来たよ!お〜い!
樹
お〜い?誰かいるのか?
???
やったー!水だー!水だー!
樹
うわっ!これはコロボックル?
あの人里離れた森に住んでいるあの伝説の小人のコロボックルなのか!
隣人
ごめんね〜スイスイ!水欲しかったんだよね〜
隣人
あ、ありがとうございました!
助かりました!
樹
あ、はい。
隣人
ところで最近…雨が…雨が降りませんね‥
樹
なるほど、俺が水を預かった時の違和感とはコロボックルか。
そしてスイはスイスではなく、スイスイだったのか…、聞きたいことは山ほどあったが、部屋に戻ってしまった。何も聞けなかった。
樹
彼女は最後、最近雨が降らなくなったと言っていた…。どういう意味だ?
樹
やっぱり変だろ!もう一度聞きにいくぞ!!
なぜだろうか、外は暗く、地面は砂で敷き詰められている。誰かいる気配がない…
男は隣の部屋をノックしたが、返事がない…入ってみることにした。
樹
ん?なんかふんだぞ?
写真…?
写真に映っていたのは、さっきの女学生と2人の人。よくみるとさっき見たコロボックルにそっくりだ…
男は目の前の段ボールに2リットルの水が1本だけ残されてあるのに気づき、それを手に取って絶望に浸った。
樹
しまった………
また現実に引き戻されてしまった…。せっかく妄想で作り上げた世界がまた1から作り直しだ…
樹
しかし俺はいつまでこの現実逃避ができるんだ…。この砂漠化の世界から…。雨が降ってくれればまた妄想ができるんだが…
樹
しかし妄想の中の女の子、「最近雨が降りませんね」って言ってたっけ?
あのセリフは妙に現実感がある…。
樹
そろそろ現実に向き合わなければならないのか…、絶望も悲嘆も消えて全て粉へと変わってしまったこの世界で俺ができることとは?
樹
いや、そんなことより…。
樹
このペットボトルの水で生き延びられる時間はあとどれくらいなんだろうか…。
原作:『水を預かる』
世にも奇妙な物語2013年秋の特別編より