頭上からは吹奏楽部の練習演奏が聞こえていた
放課後、校舎裏
頬を赤らめた男女が、初々しくも目線を泳がせて向かい合っていた
男子生徒
男子生徒
女子生徒
言葉少なに微笑んだ二人の距離が、おずおずと縮まる
浅い呼吸を繰り返す男子生徒が、ゆっくりと女子生徒に手を伸ばした
しかし
その指先が彼女の顎にかかる瞬間、女子生徒の目の色が変わる
女子生徒
嘲笑とともに、土を蹴る音が鼓膜を揺らした
次の瞬間、彼女の足は高く空を蹴り上げる
だがそれを連続したバック転で避け、男子生徒は忌々しげに舌打っていた
男子生徒
肩を竦める男子生徒に、女子高生は艶然と笑って自らの頬に手を添える
女子生徒
女子生徒
男子生徒
男子生徒
余裕のある視線が交わる場所で、肌を焼くような見えない火花が散る
その殺気を誰が察知したのか、やがて校舎の窓辺に野次馬が集まり始めていた
野次馬1
野次馬2
野次馬3
野次馬4
野次馬5
眼下で繰り広げられている死闘にも似た光景に
野次馬たちは窓から身を乗り出すほど興奮して見入っていた
その騒ぎは、職員室の中にまで聞こえていた
担任
担任
担任
ジョー
担任
溜め息を吐く担任に対し、日直日誌を渡して職員室を出る
扉を出る直前、一年生の女子が定期を落としたのだと相談しているの見た
ジョー
音を立てて引き戸を閉め、呆れ顔で背中を預ける
ジョー
ジョー
スマートフォンを操作しながら、通行人を流し見る
ジョー
ジョー
ジョー
ジョー
動画サイトを開き、興味を惹かれる動画を探す
ずらりと並んだサムネイルには、そのほとんどに【あごクイ】と書かれていた
ジョー
うんざりしながら、どうにかお笑い芸人のトーク動画を開く
トークだけで視聴者を楽しませるらしいその概要に安堵の息を吐き
画面を見ながら改札をくぐり抜けた
ジョー
ジョー
ジョー
ジョー
ジョー
ジョー
ジョー
ジョー
ジョー
ジョー
トーク動画の馬鹿馬鹿しさに、思わず堪えきれなかった笑いが漏れる
その瞬間だった
ジョー
突然殴られるような衝撃で肩を押され、壁にぶつかる
アキト
面喰って向き直った先にいたのは、同級の芥川アキトだ
蒸気でも出しそうなほど顔を赤くして、ひどく怒っている
不良イメージが強いこともあって、これまで積極的に関わったこともない
突然の事態に混乱していると、アキトの不良仲間がケラケラと笑った
ジョー
アキト
ジョー
アキト
アキト
不良仲間1
不良仲間2
不良仲間2
アキト
車内の至る所から、迷惑そうな視線を感じる
まったくの無関係だと訴えたくても、同じ制服の時点で説得力がない
その時ふと、これまで意識していなかった発車ベルが耳に飛び込んだ
その瞬間、思考よりも先に足が動いていた
アキト
伸ばされた指をすり抜け、全速力でホームを駆け抜ける
初速の早さが功を奏したのか、同じく電車を飛び降りたにもかかわらず
遠く置き去りにされたアキトの声が、ホームに反響した
アキト
アキト
ジョー
ジョー
華やいだ繁華街にに合わない重い足取りで、這うように街を歩く
思いもかけない事態に、ただただ鉛のような息が肺から溢れるばかりだった
ジョー
ジョー
ありえないと思いつつ、自分に有利な勝負を願わずにはいられない
そこで、ある異変に気付いた
ジョー
進行方向が騒がしい
妙にざわめいている人だかりは、落ち込んでいながらも好奇心をくすぐった
背伸びをして、なんとかその中心部を覗き込む
ジョー
そこに見えたのは、信じられない光景だった
一人の美少女が大勢の屈強な男を引き連れて歩いている
しかも男達は全員、彼女に話しかけられると常に顎を上げて応えていた
ジョー
ジョー
ジョー
か弱げな少女が屈強な男を従える奇跡があるのなら
自分にもその奇跡の片鱗が見えるのではないかと期待に胸が高まる
まるで花魁行列のようなそれを静かにつけ回したが
しかし一時間経っても、収穫らしい収穫は得られなかった
ジョー
ジョー
時計を確認したのとほぼ時を同じくして、男たちが解散していく
見れば、少女が人払いを命じたらしい
これからなにが起こるのかと再び胸が高鳴り、息を詰めて見つめると
やがて少女は、振り向かないまま静かに口を開いた
少女
ジョー
探偵気分だったのにと呟くと、コロコロと鈴のような笑い声で振り返る
長い髪がかすかな風に揺れて、柔らかな目元を印象的に彩った
少女
少女
見透かされている
思わず震えたジョーに、しかし彼女は気にする素振りもなく笑って見せた
少女
少女
ジョー
疑わしげなジョーに対し、あくまでも少女はゆるゆると笑む
少女
含み笑い、たおやかな指先がするりとジョーの頬を撫でる
即座に赤面してみせたその反応を、少女は見上げながら、見下すように見た
少女
邪悪に笑う少女の髪を大きく乱し、風が過ぎる
その表情は怖気とともに、ジョーにひどく困惑をもたらした
ジョー
少女の言葉を復唱し、頭を抱える
確かにあれだけ可憐な少女だ、懐に入ること自体は簡単かもしれない
しかしジョーの相手は、怒り心頭のアキトだ
ジョー
苦悩を、ノックが遮った
妹
ジョー
妹
ジョー
ジョー
妹
妹
ジョー
妹
ジョーがグルーガンを探す間、妹の手が本棚をあさる
やがて一冊のコミックスを手に取ると、嬉しそうに表紙を指さした
妹
それは、制服の上からでも巨乳とわかるキャラクターだった
けれどそれを見て、ジョーは可哀想なものを見る目で妹を見る
ジョー
妹
ジョー
妹
妹
ジョー
ジョー
ふと気付き、黙り込む
妹
突然の沈黙を訝しみ、覗き込んだ妹の顔を真剣な表情で見返した
妹
ジョー
ジョー
ーー後編へ