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ここは蒼天中学校。
約七十年前に設立し、近くに団地が多いからか十何年も県内一位の生徒数を誇ってきた、特になんの変哲もない学校だ。
今は十一月の下旬。三学期制のこの学校の生徒には、もう目前に二学期の期末テストが迫ってきていた。
俺はそんな蒼天中学校の生徒であり、二年一組二十三番の帰宅部、世路 優(せろ ゆう)。
学年の中ではそこそこ頭が良く勉強熱心な方で、今日も学校に少し残ってテストの対策をしていたところだ。
自意識過剰すぎやしないかって? そんなことはないさ、だって毎度のテストで必ず二教科以上は百点満点取ってるんだから。
な、そこそこ凄いだろ? そんなに見くびらないでもらいたい。
そんな俺はぽつんと一人、テスト期間で部活動もない静かな学校を歩いていた。
時折教員とはすれ違うが、軽く会釈をする程度でそれ以外はなにもない。
ユウ
俺は手袋をつけた両手をこすり合わせる。
立冬はとうに過ぎている、もう今の季節は冬なのだ。
それに現在時刻は十八時少し前。もうとっくに日は沈みはじめているし人もいないため、暖かさなんて感じられるわけがない。
もう少し着込んでこればよかったと今更後悔するが意味はなく、俺は暖かい家へと帰るため早足で階段に向かった。
この学校は四階建てで、一年生の教室は一階と二階に、三年生の教室は三階に、そして二年生の教室は四階にある。
つまり二年生は他より多くの階段を上り下りしなければならないので、登下校がだけでも毎日のいい運動になる。
今日も気合いを入れて階段を下ろうとした、そのとき。
階段付近へ近づいた俺は、さっきまでよりもひどい冷気に襲われひときわ大きく体を震わせた。
ユウ
そう呟いたのもつかの間、強く冷たい風が音を立ててこちらへ吹いてきて、俺は思わずその場でよろけてしまう。
ここは校内だし、辺りの窓はしまりきっているため風なんて吹くはずがない。
怪奇現象かとも疑った俺は、ふとその風が吹いてきた方向を見る。
その方向とは、階段をさらに上った先……つまり四階よりも上にある、屋上がある方だ。
ユウ
俺は怖さを紛らわすためにそんなことを呟きながら、はやく寒さから逃げようと階段を下りはじめる。
しかし二、三段下りたところで、ふと足が止まった。
俺は後ろを振り返る。
なぜだかは分からない。ただなぜか、屋上の方へ心が惹かれるのだ。
俺の身体が、魂が、何かに引っ張られるようにして帰り道とは逆の方向へ歩み出す。
その行動に疑問を持つことすらできないまま、俺は無意識に階段を上がっていった。
屋上の扉には大きな窓がついていて、そこから溢れた月光が踊り場を淡く照らしている。
そこに一歩を踏み出せば、その周りにあったホコリやチリが宙に浮き、光を反射し儚く舞った。
俺は扉の目の前で立ち止まる。
そこでようやく気がついたのだが、その扉は十数センチほど開かれたままになっていて、そこから外の冷えた空気が中へ侵入してきていた。
おそらくこの隙間風によって、あの場所はあんなに寒くなっていたのだろう。
しかし屋上の鍵が開いていることなんて、なおさら開きっぱなしになっていることなんてそうそう無い。
なにかがおかしい、そう思うのが普通だろう。
普段の俺だって、きっとそう考えるはずだ。
ただこのときの俺は、その普段の俺ではなかったんだ。
ユウ
俺は無心でドアノブに手をかける。
そして間髪入れずに、その扉を勢いよく開いた。
その瞬間、強靭な風がこちらに押し寄せた。
それに乗って砂やジャリまでもやってきて、俺は思わず目を細め顔を手で隠す。
避難訓練くらいでしか来ることがない、コンクリートに囲まれた殺風景な屋上。
うっすら見える視界の中でその情景を見ていると、その中にひとつの白い塊を見つけた。
ユウ
風が吹きやんだあと、視界から手を退けその塊にピントを合わせる。
それは、人だった。
薄灰色の髪に、白いシャツに、肌色のカーディガンに、藍色のスラックス。
その服装は蒼天中学校の制服だ。
その白い人物はこちらに背を向けて、地面に体育座りをしながら空を見上げている。
ああ、こいつだ。
こいつが俺の魂を引き付けたのだ。
俺はそいつを見て、直感でそう感じた。
ユウ
俺はその背中に声をかける。
ユウ
その声に反応して、白い人物はこちらを振り返る。
そいつの顔は逆光でよく見えなかったが、多分だけど、微笑んだ。
レイ
そう言って白い人物は空を指さす。
確かに綺麗だ。冬の大三角形も、それを囲うダイヤモンドもはっきりと見える。
ユウ
レイ
俺は図星をつかれて押し黙ってしまう。
しかしすぐに、俺はそいつの発言に違和感を覚えた。
ユウ
その質問を聞いたとたん、白い人物は堪えきれずに笑い声をもらす。
レイ
白い人物はそう言って立ち上がると、いきなり俺の方へ向かって歩いてくる。
ユウ
レイ
そう言って俺の目の前までやってくると、そいつは姿勢を改め名を名乗った。
レイ
ユウ
俺は困惑の声を漏らし、ただ呆然とレイと名乗った男を見つめた。