恋と寒村とどうしても悪霊

久保田が今までにないくらいに 引きつった顔で

やがてそれを引っ込めると今度は少し 寂しそうな笑顔をこちらに向けてきた ことがとても印象的だった

オレが住む左手村という名のド田舎から 電車で二時間

駅前の混雑を避けて自販機に背中を 預けていた時だった

男たちの視線が胸元に注がれた途端 不快感が一層強くなった

その声を聴いた途端 曇りに曇ったオレの顔がスーっと 明るくなったのが自分でも わかった

本当なら今日はゲームセンターに 連れていって貰うはずだった

左手村にゲームセンターなんて洒落たものは当然ない

それが先輩の大遅刻のせいで即帰宅

頭をポンポンと優しく触れられる

途端に顔がカーっと熱くなる

ちょっとはにかんだ先輩の笑顔

それはいつもの先輩で だからオレのよく知る先輩で

それなのに次の言葉は オレが見たこともない先輩のそれだった

二人だけを運ぶ静かな電車内にオレの声がこだました

誰だ？　先輩に役者魂なんてものを 植え付けたのは

結局先輩はオレを家に送り届けるまで ずっとこの調子で

レンちゃんとかいう幼女(先輩曰くレンちゃんは幼女らしい)に話しかけていた