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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

―後日、町田家―

クラスメイトからの手酷い発言を受けたあんずは、転校するその日まで、学校へと行くのをやめた。

あんずは玄関口で荷物をまとめてながら、苛立った様子でガムテープを切る。

彼女はひとりで、小学生から見れば重労働とも言える、引越し作業をしていた。

あんず

まさか、盗作の話が学校中に広まってるなんて!

あんず

昨日は他の学年の子からも、盗作犯だとか散々言われたし……最悪

あんず

セラーノベルで憂さ晴らしをしようにも、何故か私が作ったアカウントだとすぐバレる!

あんず

あのなんとかアドレス、ってやつのせい?

あんず

ああっ! もうっ!!

怒りに任せて、拳で机を叩いたあんずの前に、父が現れる。

出勤日で着ているスーツよりも、しっかりした格好の父に、あんずは驚きの声を上げた。

お父さん

さっきの音はどうしたんだ!?

あんず

な、なんでもないよ!ちょっと手をぶつけただけ!

あんず

それよりもどうしたの?そんな格好!

お父さん

仕事の話し合いだよ。今から行ってくるんだが……

お父さん

確認させてほしい

お父さん

今度の週末、家を空けられるよな?

あんず

うん、大丈夫だけど

あんず

もしかして、どこかに連れて行ってくれるの!?

お父さん

あぁ、実はな……

お父さんはポケットから封筒を取り出し、それをあんずに渡す。

あんず

えっと……これは?

お父さん

お前が盗作をした作者さんから、送られてきた手紙だ

あんず

えっ

お父さん

ちゃんと読んでおきなさい

お父さん

夕方には帰ってくるから

あんず

う、うん。わかった

あんず

行ってらっしゃい

恐る恐る、震える指で、 あんずは封を開けていく。

そして中に入っていた一枚の手紙を取り出すと、ゆっくり開いて読み始めた。

バッキンガム野口

拝啓 秋風が身に染みる季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか

バッキンガム野口

お父様よりお話があったかと思いますが、近いうちに、貴方の行った盗作について、お話をさせていただきたいと思っております

バッキンガム野口

そこで、ご相談なのですが

あんず

いやーっ!!!

あんず

もう読みたくない!

あんず

こんなもの!

あんずは手に持っていた手紙を破り捨て、床に散らばった紙くずを踏みつけながら、自室へと駆け込む。

あんず

こわい!こわい!!こわすぎる!!

あんず

嫌がらせの次はなんなの!?何をするつもりなの!?

あんず

これ以上私を苦しめて、何になるっていうの!?

あんず

いやだいやだいやだ!!

あんず

いやだああああああっ!!

あんず

あんず

……ぐすん

あんず

酷いよ、そんなに私が嫌い?

あんず

勝手に作品を借りて、私のアカウントで投稿したのは……

あんず

悪い事だって言ってたから、素直に認めるけど

あんず

でも、そこまで怒らなくてもいいじゃん

あんず

どうして誰もわかってくれないの?

あんず

こっちも攻撃されて、辛いんだよ?

あんず

あーあ、日曜日にならなければいいのに

だが、そんな願いなど叶うはずもなく、日曜日はやってくる。

あんずは父に連れられて、電車に乗ってある場所までやって来た。

―株式会社カミノベル出版― ―オフィスの一室―

バッキンガム野口

休日にわざわざ呼び出してしまい、申し訳ありません

マコ

ですが、どうしてもあんずさんに直接お会いしたいと思いまして

あんず

は、はい

バッキンガム野口

さて、早速ですが……率直に言いましょう

マコ

お父様にはお伝えしてある通りです

マコ

我々は損害賠償として、250万円の支払いを求めております

バッキンガム野口

あんずさんの、『作品を無断で使い、小説投稿サイトへ無断転載した』罪は重い

バッキンガム野口

それは理解していますか?

バッキンガム野口

貴方が不正に得た閲覧の数程、私達は売上を奪われています

バッキンガム野口

誠意をもって一括で、払っていただきたい

あんず

で、でも……

あんず

あれは、借りただけで……!

マコ

お静かに

あんず

ひっ!

バッキンガム野口

今更そんなことを言われて、「そうだったんだね」で済むと思います?

マコ

本当はこれ以上を考えてはいたんですけど

マコ

あんずさんは小学生ということですので、まだやり直しがきくかと思いまして

マコ

今後の更生を期待して、減額した次第です

お父さん

重ね重ね、何とお詫びをしたらいいか……

お父さん

温情ある、寛大な処置に感謝します

バッキンガム野口

話が早くて助かります

バッキンガム野口

では後日、各々の口座にお振込を

あんず

そんな……!

あんず

そんなお金、私、持ってないよ!?

モチモチ犬

当然でしょう?貴方は小学生なんですから!

バッキンガム野口

おや、モチモチ犬さん

バッキンガム野口

控え室にいなくて、本当に大丈夫ですか?

バッキンガム野口

もう少し落ち着いてからの方が……

モチモチ犬

落ち着くも何も、最初からすこぶる落ち着いていますよ?ふふ

マコ

(ああ、これは落ち着いてない奴だ……)

モチモチ犬

モチモチ犬

で、あんずさんでしたっけ

あんず

は、はい……

モチモチ犬

『人のものを盗ってはいけません』って、教わらなかったんですか?

あんず

えっ?

マコ

おやおや、本人の前で堂々と

モチモチ犬

だって本当のことでしょう?

モチモチ犬

私は許せないんですよ

モチモチ犬

人の物を好き勝手に使って、平気でいるようなヤツが、クリエイター気取りでいるなんて!

モチモチ犬

私は見ているんだっ、何度も何度も作品を盗まれて、読者までもを盗られた原作者を!

モチモチ犬

その現状を嘆いて、作家活動を辞めた人を、何人も!

モチモチ犬

わかる?お嬢ちゃん!

モチモチ犬

あんたがしているのは窃盗なんかじゃない!

モチモチ犬

作家の社会的な殺人だよ!

モチモチ犬

人の心を殺して楽しい!?このクソガキ!

あんず

やめてよ……そんなに怒らないで!

バッキンガム野口

モチさん……!

バッキンガム野口

だから『こうなるだろうから、今は来るな』って言ったじゃないですか!

お父さん

モチモチ犬さん!どうか、どうか抑えてください

モチモチ犬

でも、これくらい言わないと!

モチモチ犬

ある程度脅かさないと、こういうのは再犯します!するに決まってるんです!

お父さん

いえ、この子はもう、そんなことはしません!

お父さん

あんずは反省しています!

お父さん

家でも私の方から、盗作がいかに悪いことか、話して聞かせましたので!

モチモチ犬

へーぇ?それで私が「はいそうですか」と言うとでも?

モチモチ犬

親子共々、ふざけないでいただきたいですね!

モチモチ犬

別にいいんですよ、今から私の分だけ増額したって!

お父さん

申し訳ございません、申し訳ない……!

お父さん

どうか怒りをお鎮めください、この通りです!

あんず

お、お父さん!

初めて見る父の土下座は、広いはずの父の背を小さく、惨めに見せる。

かすかに震える彼の姿に、モチモチ犬のペンネームを持つ女は、溜飲を下げたらしい。

ふん、と鼻を鳴らして、彼女は改めて自席へと座った。

あんず

そこまでして……

お父さん

あんずも謝りなさい

あんず

う、うん

あんず

あんず

ごめんなさい

あんず

私、そんな人を殺すとか、そんなつもりじゃなくて

あんず

ただ、私の事が好きだって言ってくれた皆に、喜んでほしかったから……

あんず

ごめんなさい

あんず

ごめんなさい

あんず

ごめんなさぃ……

あんず

うわああぁん!!

あんずは声を上げて、みっともなく泣き出した。

自分がしたことを悔いて、これから起こるであろう罰に怯えて。

時が経ち、10年後。

あんずもまた、世間一般の若者同様、学生から社会人になろうとしていた。

―引っ越した町田家―

22歳のあんず

……ただいま

お父さん

おかえり、あんず

お父さん

行きたがってた会社の合否連絡、確か今日だろう?

お父さん

内定が取れるといいな!

22歳のあんず

それなんだけどさ

22歳のあんず

さっき連絡が来たから、見たんだよね

22歳のあんず

……全滅、しちゃった

22歳のあんず

出版社なんて、書類選考すら通らなかったよ

お父さん

そうか……まあ、仕方ないさ

22歳のあんず

割り切らないといけないのはわかるよ?わかるんだけどさあ

22歳のあんず

どうして、こんなことになっちゃったのかな

22歳のあんず

22歳のあんず

あれだけ時間が経っても、炎上したことは多くの人が覚えてる

22歳のあんず

おかげでSNSのアカウントだって、迂闊に作れない

22歳のあんず

作った瞬間に「盗作される!」って騒がれて、ブロックされまくりだし

22歳のあんず

友達だって、作ったそばから消えていく

22歳のあんず

私の周りにいるのなんて、私の不幸を面白がるやつばかりだよ

お父さん

おい、あんず……!

お父さん

そう悲観するな、お父さんも就活仲間なんだ!

お父さん

二人で頑張っていこう、な!?

22歳のあんず

本当にごめんなさい、お父さん

22歳のあんず

私のせいで、職まで……

お父さん

いいんだ、それはお父さんも悪いことだったんだ

お父さん

きちんと反省してくれたんだから、俺はそれで構わないさ

22歳のあんず

……とか言っちゃって

22歳のあんず

本当は恨んでるでしょ

お父さん

あんず……

22歳のあんず

あのまま仕事を続けていたら、今頃はいい地位にいたらしいじゃん?

22歳のあんず

ホント、身内の人生まで壊してまで、盗作で得たかったものって何だったんだろう

22歳のあんず

もう思い出せないや

22歳のあんず

22歳のあんず

あーあ、人生をやり直せたらなあ

22歳のあんず

子供の頃に戻って、クリエイターとしての誇りも無かった昔の私に、どうしても教えたいの

22歳のあんず

盗作したら破滅するよ、って

22歳のあんず

うふふ……

こんなことを言ったところで、結末は変わらない。

今流行りのライトノベルのような、時を逆行して、歴史を都合よく改変するミラクルなど、当然起きるわけもない。

型落ちしたスマホに並ぶ、大量の不採用通知は、まるであんずの人生そのものと言えよう。

他人からの承認を求め続けた結果、こうして、誰からも必要とされなくなったのだから。

そして、その事実を受け入れるしかないあんずは、自分の境遇を呪うことしかできないのだった……

ワタシノホコリ 完

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