ねえ。幸せってなんだと思う?
いきなり発せられた言葉は、君から発せられたとは思わない程の予想外の言葉だった。
「幸せ……って……。」
意味を考えようとするものの、まだ驚きが隠しきれない。
きっと、それは君の人柄からだろう。
だって君は、世に殺人鬼と名を知らしめる、killerなのだから。
それも、ただの殺人鬼などではない。
何十回も何百回もその首をナイフで折ってきた、快楽殺人鬼と謳われる程の極悪人だ。
そんな君が幸せなんて言葉を口にするだなんて、思ってもいなかったのだ。
もしかして、幸せを考える程に心が病んでしまっているのだろうか?
ああ……きっとそうだ……。
最近、勝手にkillerの好物のチョコを食べてしまってもあまり怒る事はなかった。
それどころか、君は笑って「いいよ。」なんて、怒りとは裏腹に似つかわしくない温かい笑顔が返ってきた。
いつもの君なら、己の好物を食べられなその日は、一日中口を尖らせて口を聞いてくれなくなるというのに。
大変だ、憤怒が消える程にその心が蝕まれているだなんて……。
「深い意味なんてあるわけないじゃん。ただ、colorはどう思ってんのかなーって。」
相当酷い形相をしていたのか、君はあははと滑稽そうに笑った。
その笑みは俺の瞳に幼く映り、何処かの青い星型の瞳の人物を思い出させる。
本当にそうなのかとkillerの顔を覗き込むと、返事を返す代わりにデコピンをされた。
「深読みしすぎ。ウザイ。」
「ごめん……。」
きっとこの感じなら、killerの言う通り俺の深読みのしすぎだろう。
安心と、自分に対する呆れがくる。
killerの事となると少し過保護になってしまうのがあらだ。
「……そうだな。お前はどう思っているんだ?」
いざ幸せの意味を考えるとなると、イマイチよくわからなくて質問を質問で返してしまう。
killerはんーと斜め上を見上げ、可愛らしく唸る。
1つ瞬きをすると、その瞳は俺に向けられる。
「チョコ食べてるとき!」
killerはチョコを食べている時がいかに幸せかをうっとりしながら語る。
その言動が余計に青星をチラつかせ、思わず吹き出した。
killerは語る口をぴたりと止めさせ、不思議そうに俺を見た。
「何笑ってんだよ。」
「いや。お前を見てるとどうもUnderswapのsansがチラついてな。」
くすくすと笑いながら言う。
killerは一瞬言葉の意味を理解してなかったのか首を傾げていたが、すぐに理解したようで、顔のパーツがぎゅっと中央に寄った。
「それどういう意味。僕とあいつは違うから。」
いつもよりも若干低い声は、俺にからかわれて腹を立たせているからだろう。
killerはすぐに言動に感情が出る。
「ああ、そうだな。そういうとこもな。」
からかう事が愉快すぎてまたもやくすくすと笑っていると、ぽかりと軽い叩きが飛んできた。
「からかわないで!」
むすっと頬をふくらまし、キッと睨まれる。
本人からしてみれば威嚇をしているのだろうが、全く怖くはなかった。
むしろ、またからかいたいという衝動に襲われる程だ。
だが、これ以上からかうと本格的に口を聞いてもらえなくなるという焦りから、踏みとどまって軽く謝罪をした。
怒りから上がっていた肩をすとんと落とすと、killerはふっと息を吐く。
すると、ダイニングキッチンに置かれてある俺の隣の椅子に向き合うようにして座った。
「で、colorは?」
改めて質問を問われる。
ああ、そう言えば質問の答えを考えていなかったな、なんてぼんやりとした気持ちが。
「……そうだな。」
幸せ。
幸せって、なんだろうう。
人の役にたてれて、人の幸せを願うこと?
今、衣食住に困らず、平穏な日々を送れていること?
心も体も元気でいられていること?
考えてみるものの、思い浮かんだ幸せは、俺の頭にはピンと来なかった。
俺の考えた事はどれも幸せな事だ。
人の幸せを願うことだって。
平穏な日々を送れていることだって。
心も体も元気でいられていることだって。
みんなみんな、当たり前の事だって思ってはいけない。
そういう風に思える事は幸せである証拠なんだ。
そう分かってはいる。
でも、何処か本当の幸せとは違う気がして。
「……。」
深く深く、考える。
幸せの意味を。
幸せとはなんなのかと。
すると、不意にkillerが吹きだした。
それを合図に大笑いして、お腹を抱える。
何故キラーが突然大笑いをしだしたのかがわからなくて、思わず思考が止まった。
暫くすると笑いの波は治まってきたのか、生理的に出てきた涙を瞳に浮かべながら、瞳をこちらに向ける。
その瞳はまだニヤニヤと笑っていた。
「お前深く考えすぎじゃね?すっげー顔してた。」
加えて「ちょーうける」と、呼吸を整えながらkillerは口にする。
相当おかしな顔をしていたのか、呼吸を整える間際も、killerはあははと笑っていた。
その顔は悪戯げで、可愛くて。
胸の奥がじんわりと暖かくなって、自然と笑みが零れた。
「……あぁ。」
その時、考えても見いだせなかったあの言葉の意味がわかった気がした。
「?どうしたんだよ?」
「……わかったよ。」
「お!やっとか!教えろ!」
killerは興味で溢れているのか、あるいわ、俺の世迷言をからかうのを楽しみにしているのか、目を輝かせて返答を待っている。
そんなkillerの頬に、するりと手を添えた。
ほんの少しだけ、killerの肩がぴくりと揺れた。
改めて、瞳を見つめる。
「大切な人の笑顔を見た時。」
目を細めて、想い人をぎゅっと抱きしめた。
彼の瞳は、甚だしく愛おしかった。
コメント
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すき❤️
( ∩՞ټ՞∩) ンフ~~(キショ)フォロ失礼しやす∠( ̄^ ̄)