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第1話 - あ

2023年09月03日

#恋愛

結城　真矢

タカト

おはよう

タカト

今日も撮影、よろしくね

マコ

はい！いつもありがとうございます

タカト

今日の撮影のコンセプトなんだけど、

タカト

日焼け止めのプロモーション撮影で海に行くから、

タカト

体調には十分気を付けてね

マコ

私は大丈夫ですよ！

マコ

それよりも、タカトさんの方が私は心配です

タカト

え？なんで？

マコ

だって、この前、炎天下で撮影があった時、

マコ

タカトさん、熱中調で倒れちゃったでしょ？

タカト

あ～知られちゃってたか～

マコ

あのあと、病院に行った、って聞いて

マコ

大丈夫でしたか？

タカト

うん、たいしたことなかったよ

タカト

誰も来なかったから、あんな恥ずかしい場面見られなくて良かった、と思ったけど

タカト

マコちゃんは知ってたんだね

マコ

タカトさんのことは、常に見てますもん！

タカト

え？

マコ

仕事の合間で、あの日は特に忙しかったからスマホ見れる時間なかったですけど、

マコ

カメラのアシスタント変わった時に、

マコ

「タカトが熱中症で搬送されたって聞いたんですよ」

マコ

抜け出せるなら、抜け出して会いに行きたかったです

タカト

そう思ってくれてた、って知れただけで十分嬉しいよ

タカト

ありがとうね

マコ

はい！

マコ

それで、あのいきなりなんですけど今日の夜って空いてますか？

タカト

今日？特に予定ないよ？

マコ

あの、よかったら一緒にご飯行きませんか？

マコ

この前、ワイン好き、って言ってたので、

マコ

おいしいイタリア料理のお店、紹介したいんです

タカト

ほんと？じゃあ、行こうかな

マコ

ぜひ！今日は、私がご馳走しますよ

タカト

え？いいの？

マコ

いつも撮影でお世話になっているので

マコ

そのお礼です

タカト

でも、それは仕事だからだし、お礼と思っているなら気にしなくていいよ

マコ

じゃあ、撤回します！

マコ

私がタカトさんと行きたいんです

タカト

え？僕と？

マコ

普段あまりできない仕事の話もしたいですし、

マコ

いいですか？

タカト

うん、仕事中の時はゆっくり話せないもんね

タカト

じゃあ、今日撮影終わって機材の片づけとかも終わったら、

タカト

連絡するね

マコ

はい、待ってますね！

～その日の昼休み～

マサ

あの、タカトさん

タカト

あ、マサ君

タカト

どうしたの？

マサ

今日、マコとご飯行くって本当ですか？

タカト

うん、そうだけど何で知ってるの？

マサ

俺が今日の夜ご飯に誘ったら、「タカトさんともう予定あるからって」

マサ

言われたんです

タカト

そうなんだね

タカト

まあ、その通りだから

マサ

僕が何でそのことで連絡したか、分かるでしょ？

タカト

は？何？

マサ

「仕事で急用できたって言って、断ってくださいよ」

マサ

僕がマコのこと好きだって、こと知ってるでしょ？

タカト

マコちゃんが誰とご飯に行くかは、マコちゃんが決めることじゃない？

タカト

それに、僕だってマコちゃんと話したいから行く、って言ったんだよ

タカト

あと、今回はマコちゃんの方から誘われたから

マサ

え？タカトさんみたいなヘタレを選ぶなんて信じらんないですよ

タカト

「ヘタレとか仕事できないやつとか、」

タカト

周りのモデルの子たちにも言ってるみたいだね

マサ

良く知ってますね～

マサ

そうですよ

マサ

実際に今日も失敗ばっかりして、プロのカメラマンさん困らせてたじゃないですか

タカト

僕は、今は確かにまだ全然プロのレベルではないし、

タカト

そこには程遠い段階にいるけど、

タカト

何よりもカメラが好きだから、この仕事を続けたいよ

マサ

そういう綺麗ごとみたいなこと言う人、大嫌いなんですよね

タカト

別に、誰かに好かれたいと思ってこの仕事してないよ

タカト

君みたいにゴマすって仕事で成功したい、なんて卑怯な手使いたくないしね

マサ

俺のこと、そんなふうに思ってたんですね

タカト

好きな女の子にアプローチしたいんだったら、

タカト

もっと真剣に、考えてアプローチしなよ

マサ

アドバイスとして聞いておきますよ～

マサ

それじゃ

～その日の撮影後～

タカト

マサ君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、

タカト

今日取った撮影のデータ、消したよね？

マサ

何のことですか？

タカト

今日の撮影後、機材片づけにスタジオ出た時にいたのはマサ君だけだったはずだよ

マサ

確かにタカトさんが出てきた後、忘れ物取りにスタジオ入りましたけど、

マサ

それだけですよ？何も触ってないです

タカト

ウソつくのかよ？

タカト

今日のデータ整理、今日中にやらないと締め切りに間に合わないって知ってるから、

タカト

僕がマコちゃんとご飯行けなくなるようにするために、やったんだろ？

マサ

そんな勝手にストーリー作らないでくださいよ

マサ

困ります

タカト

迷惑かけるのが僕ならまだしも、

タカト

締め切りに間に合わなかったら、見てくれる人にも迷惑が掛かるんだよ

タカト

プロのモデルとして、そんな仕事の邪魔して恥ずかしいと思わないの？

マサ

モデルの仕事はやりたくてやってるんじゃないですし、

タカト

は？なんだって？

マサ

オーディション受けたらたまたま受かって、

マサ

なんとなく撮影してポーズ取ってたらたまたま表紙も飾らせてもらっちゃって

マサ

僕のビジュアルが生かせるから、この仕事してるだけですよ

タカト

マサ君、そんなこと他のモデルの前で言えるの？

タカト

ファンの人が知ったら絶対に悲しむと思うけど

マサ

別に、自分が良ければいいので

マサ

儲かるし、

マサ

モデル以外に色んなブランドのアンバサダーもやらせてもらってますしね～

マサ

だから、仕方なく続けているんですよ

タカト

そんな気持ちで仕事してる、ってマコちゃんが知ったら、

タカト

きっと幻滅すると思うけど

マサ

マコは俺が仕事で一生懸命なこと、知ってますよ

マサ

この前、水着の撮影合ったでしょ？

マサ

マコが「そんなに腹筋あったけ～？って言ってきたから」

マサ

「筋トレと食事で絞ったんだよって話したら」

マサ

「すごいね～！モデルの仕事にプライドあるんだねって言われましたもん」

マサ

そういうことなので、俺もトップモデルとしてこれからも頑張るつもりです

タカト

そんなんで、マコちゃんの隣にいようだなんて、図々しいんじゃない？

マサ

マコの隣にいれたら俺は幸せだし、マコだってそう思ってますよ

マサ

少なくとも、タカトさんみたいないつまでもぺーぺーカメラマンより、

マサ

俺と付き合った方が、マコも幸せに決まってます

タカト

仕事よりも、好きな女の子の方が大事なんだね

タカト

最初は自分磨きもしていて、モデルの仕事に真剣に向き合っているものだと思っていたけど、

タカト

がっかりだよ

～10分後～

タカト

マコちゃん、今日のディナー行けなくなっちゃったんだ

タカト

撮影のデータが削除されてて、

マコ

え！？

マコ

誰かに消されたんですか！？

タカト

いや、パソコンにデータを保存する前に電源を切っちゃったみたいで、

タカト

今からまたパソコンにデータ取り込みなおして、整理しないといけないから

タカト

時間に間に合わないと思うんだ

タカト

ごめんね

マコ

そんな！仕事を優先するタカトさんのこと、尊敬しますよ！

タカト

本当にごめんね

タカト

あっ、そういえば明日は「私の尊敬する人の単独インタビューだね！」

タカト

誰の事話すか決めたの？

マコ

はい！即決でしたよ！

タカト

へ～誰にしたの？

マコ

「仕事に熱心で、失敗を恐れずに挑戦する人です」

タカト

誰なのかは教えてくれないのね

タカト

でも、明日知れるのが楽しみだな

タカト

僕もまたアシスタントで入るし、良い話聞けるの楽しみにしてるね

マコ

トークとかインタビューは得意じゃないですけど、

マコ

頑張りますね

～撮影後～

マサ

マコちゃん！？

マサ

どうして、今日のインタビューで

マサ

「撮影データを消すようなマサ君は尊敬できませんなんてこと言ったの？」

マサ

誰かに...タカトさんとかに何か変なこと言われたの？

マコ

私の友達がね、

マコ

マサ君がタカトさんのパソコンいじっているところ、見ちゃったんだって

マコ

それで怪しいと思ってマサ君のこと見てたんだって

マコ

それで、電話してた相手に「これでデータの取り込みのし直しだ～」

マコ

って笑ってとか？

マサ

いや、あれは、

マコ

その先の話もあるみたいだね

マサ

その先って、マコちゃん知ってるの？

マコ

その先？あ、友達からもらった録音のことかな？

マサ

録音！？してたの...！？

マコ

なんか、聞かれたらまずいことだったみたいだね

マコ

マネージャーさんと話してたのかな？

マコ

「そんなお金にならないモデルの撮影なんて俺がやるわけないでしょって...」

マコ

笑いながら話してたみたいだけど

マサ

違うんだよ...本当に

マサ

あそこまで言うつもりなかったんだけど、つい言いすぎちゃったっていうか

マコ

私、マサ君はもっと仕事に真剣なんだと思ってた

マサ

俺は、いつも真剣だよ！

マサ

それに、なんで「私の尊敬する人で僕のこと選んでくれなかったの？」

マサ

なんで、あんな失敗ばかりするタカトさんなんだよ？

マコ

何でって...。「仕事に熱心で、失敗を恐れずに挑戦する人って言ったでしょ？」

マコ

周りのことをリスペクトできない人がなんで

マコ

「尊敬する対象になるの？」

マコ

マサ君、私が知らないとでも思った？

マコ

私がいない時の撮影現場で、すごいタカトさんの失敗をすごいはやし立てるらしいじゃん

マコ

酷い時は、「僕のせっかくのビジュアルが台無しなので、アシスタントさんを変えてください」

マコ

って言ったこともあったんでしょ？

マコ

ひどすぎるんじゃない？

マサ

いや...だってその方が撮影も速く、効率的に進むと思ったから、

マサ

僕なりの判断だよ

マコ

またそんなこと言ってさ

マコ

失敗することなんて誰だってあるじゃん

マコ

それを周りの人間がカバーして支え合っていくのが仕事、ってもんじゃない？

マコ

モデルの周りの人たちは、1人をたてるためにいるんじゃないんだよ

マコ

みんな対等で、リスペクトし合うものだと思ってたんだけど

マコ

マサ君は、違ったみたいだね

マサ

俺、タカトさんのことも尊敬してるよ

マサ

アシスタント変えてください、って言ったのもそれくらい言った方が、

マサ

厳しさが伝わるんじゃないかな、と思って...

マコ

信じられない

マコ

自分のしてきた嫌がらせとか、そんなふうに言っていい話にしようとするんだ

マサ

良い話にしようとか、そんなんじゃなくて、

マサ

僕なりにその時、精いっぱい考えたことなんだよ

マコ

タカトさん、ミスは多くても絶対にデータだけは大事にするんだよ

マコ

だから、念のために他のデバイスでも保存してるの

マサ

え？そうなの？

マコ

マサ君はそのこと、知らなかったでしょ？

マコ

誰よりも仕事のこと好きで、いつも一生懸命だもん

マコ

そんな人が誤ってデータ消すなんて、ありえないよ

マサ

え？誤ってデータ消した、って、どういうこと？

マコ

友達は「マサ君が今日の撮影データ消してるみたいって連絡くれたけど、」

マコ

その前にタカトさんから連絡があって、

マコ

「誤ってデータ消しちゃったんだって言ったの」

マコ

多分、タカトさんだってマサ君がやった、って気づいてたと思うよ？

マサ

俺のことかばうとか、あの人はしないでしょ

マコ

すると思うよ

マサ

マサ君のこと、「モデルとしては熱量があって尊敬してるって言ってたもん」

マコ

え？

マコ

でも、マサ君のデータの削除の件があって、証拠を全部スタッフさんたちに見せたらしいよ

マサ

全部！？

マコ

うん

マコ

それで、スタッフさんたちみんな、マサ君にがっかりしてた

マコ

編集長は、「マサに来ているオファーは全部断るって言ってたよ」

マサ

うそ！？

マコ

それで、今回の雑誌を最後にいったん撮影には参加させない、だって

マコ

長期の休みと思って楽しんだらいいんじゃない？

マコ

またね

～後日談～

タカト

その後マサ君の不祥事を知り幻滅し、スタッフさんは全員マサ君をやめさせることを提案しました

タカト

ただ、僕が「ちょうどアシスタントがもう一人必要だと思いますと提案したところ、」

タカト

みんな賛成し、良い雑用係としてマサ君をこき使っています

タカト

毎日体力消耗が激しいアシスタントですが、汗流して働いているマサ君を見て、

タカト

なんだか清々しい気持ちです

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結城　真矢

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