~jealousy プロローグ~
吉田
吉田
山崎 孝太
吉田
山崎 孝太
昼休みの廊下に吉田達の無遠慮な大声が響く。
吉田
吉田は傍で談笑している二軍男子グループに顔を向けた。 男子グループは「感染感染」と言いながら吉田達から距離を取り、道を空ける。
「感染」を手刀代わりに、廊下に三々五々散らばってる生徒達をかき分け、吉田達は廊下の真ん中を闊歩(かっぽ)する。
時折 甲高い笑声を発しながら、吉田達は自分が在籍しているクラスに消えた。 それを見るとも無しに眺めていると
西村
近くにいた西村が肩を叩いた。
西村
西村
三津屋 篤
西村
西村は 一番最初に道を空けた二軍男子の1人を指差し、声をひそめた。
西村
西村
三津屋 篤
西村
三津屋 篤
西村
西村
西村
__そう助言した西村は、その2日後「透明人間」になった。
「透明人間」は2週間で解除されたが、それ以降西村は吉田を話題に出すことはなくなった。
都合の良い操り人形が形成された瞬間を見た。
____僕は思う。 どうして西村が「透明人間」になったのか。
独裁者の理不尽な制裁か。たぶんそれだけじゃない。 反抗すれば こうなるぞと言う、
僕に対する牽制だったのではないか。本当の標的は僕だったのではないか。
狡猾な見せしめ。
吉田と言う人間は、人の上に立つ素質がある。 ____であるならば
常に人の上に立って来た僕にとって
とても目障りな存在だ。
女子大生と男子中学生が交際している話 シーズン2 第6章
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
2月も半分を切った。
合格発表から1週間が過ぎても俺はまだ、合格通知を受け取った日を思いだしては涙を溢していた。
__春休みに入れば課題を出され、そこから入学後すぐにテストが行われるので、今はそれに向けて勉強をしている。
今日も塾で自習してたら先輩にばったり出くわした。
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
ようやく涙も引っ込んだので、缶コーヒーを一口啜り、スマホで時間を確認する。
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
__と、先輩と話していると、俺たちのいるエントランスロビーに わらわらと塾生達が出て来た。 どうやら授業が終わったらしい。
柚月はいないかなと首を巡らして探していると
三津屋 篤
見覚えのある人と目があった。 元生徒会長で同じクラスの三津屋 篤だ。
向こうもこちらに気付き、人当たりのいい爽やかな笑みを浮かべながら俺たちに歩み寄った。
三津屋 篤
溝口 圭佑
山崎 孝太
三津屋 篤
山崎 孝太
三津屋 篤
三津屋 篤は爽やかな笑みを崩さず、しかしどこか躊躇いがちに続きを口にした。
三津屋 篤
山崎 孝太
三津屋 篤
俺が「そうだ」と頷こうとした瞬間、 今まで(仮の姿で)黙って聞いていた先輩が口を開いた。
溝口 圭佑
三津屋 篤
予期せぬ人物からの予期せぬ言葉に、三津屋 篤は一瞬固まった。
しかしすぐに我に返り、二、三度瞬きする。 彼のそんな姿を見るのは初めてだ。
三津屋 篤
三津屋 篤
三津屋 篤は最後まで笑みを絶やさぬまま会釈すると踵を返した。
なんでいきなりあんな事を…と怪訝に思って先輩を見ると、仮面を剥がした先輩は目を細めて三津屋 篤が去った方向を眺めていた。
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
未だ先輩は目を細めたまま彼が去った方向を眺めている。 「どうしたんですか」と口にする前に、袖口を くいくいと引かれた。
見れば授業を終えた柚月が不思議そうに俺と先輩を見比べていた。
山崎 孝太
溝口 圭佑
柚月と一緒にぺこりと頭を下げて玄関扉に向かったが、
溝口 圭佑
山崎 孝太
先輩がネックウォーマーを後ろから掴んで引っ張ったので、軽く首が締まった。
山崎 孝太
溝口 圭佑
先輩は俺の抗議を聞き流すと、ネックウォーマーを掴んだまま耳元で囁いた。
きょとんとした顔でこちらを見てる柚月を ちらと見て先輩は真剣な顔で続けた。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
山崎 孝太
俺の声も自然と小さくなった。 先輩が更に声を潜める。
溝口 圭佑
~jealousy 1~
鳴沢柚月
その名前はいつも僕の上にある。
テストの成績上位20名が公開されるランキング表の前で、何度落胆のため息を吐いただろうか。
いつもいつも、その名前は僕の上にある。
鳴沢柚月
彼がいる限り僕は「一番」になれない。
先生の話は真面目に聞いた。 生徒会長にもなった。 皆に優しくした。 それでも僕は「一番」じゃない。
だって僕の上にその名前があるんだから。
僕は二番手?銀メダリスト? ふざけんな。
先生の話を真面目に聞いたのも、生徒会長になったのも、皆に優しくしたのも
「一番」になる為にやって来た。
一番優れてる人になる為に「いい子」で居続けた。
「一番」にならないと意味が無いんだ。
____鳴沢柚月
いつも僕の上に名前がある。 鳴沢柚月!
邪魔だなぁ。
鳴沢柚月さえいなければ僕が「一番」になれるのに。
___少しボーッとしていたようだ。やはり寝不足なのか…。
僕は深く長く息を吐くと、踵を返してランキング表をあとにした。
ランキング表が掲示されている職員室前の廊下から3年の教室棟に繋がる階段に出た。
朝のホームルームが始まるまでまだ時間があるので、そこら中にお喋りの花が咲いている。
今日はその喧騒がやけにキンキン響いているように感じる。 体が重いのは昨夜あまり寝付けなかったからだろう。
昨日 短期で入った塾で鳴沢柚月を見た。
それだけでもモヤモヤするのに志望校まで同じだった。蒼陽高校。
僕もA判定だけど、鳴沢柚月の学力なら絶対に合格するだろう。首席合格だってあり得る。 ……高校に入ったら鳴沢柚月を考えずに済むと思ってたのに…。
そんな感じで昨日は眠れなかった。
でも僕も数学の2学期期末テストで学年で2人しかいない90点台を取ったから、と無理やり鼓舞して今朝ランキング表を見たが、
……見るんじゃなかった…。その数学のテストは鳴沢柚月が99点で1位だった。僕とは8点も差がある。
体が重い。 階段の踊り場で思わず立ち止まってため息を吐いていると
背中に何かがぶつかった。 どうやら後ろを歩いている人がぶつかってしまったらしい。
「っとぉ。わりぃ」
三津屋 篤
謝罪の言葉を言い終わらないうちに、後ろの人は歩行を再開し僕を抜いた。 整髪剤の匂いが鼻を衝いた。
あ、と小さな声が出た。 ぶつかった人は吉田だった。
僕は3年間吉田とは別のクラスだった為、間近で彼を見たのはこれが初めてだった。 想像以上に背が高く、想像以上の威圧感。
かつて三嶋や西村を手駒にした独裁者は立ち尽くす僕を置いて階段を上って行く___
__が、2~3段上がった所で一瞬、肩越しに振り返った。
咄嗟に目を逸らした。何故かは分からない。
___「本能的に」とはこの瞬間を言うのだろうか。 まるで腕利きのスナイパーが獲物をロックオンしたような____…
あの流し目は何を意味するのだろう。
しかし 喉元過ぎれば何とやら。
朝のホームルーム、1時間目2時間目と時間が経って行くうちに、朝の得体の知れない感覚は薄れて行った。
きっと寝不足による考え過ぎだ。 彼からしたら正反対の立ち位置にいる僕にどんな感情を抱くと言うのだ。
それよりも問題は鳴沢柚月だ。 以前にも増してあの人の行動1つ1つが鼻に付く。
気にしない気にしない、と念じながらもどうして目はそっちに向かうのだろうか。
___2時間目の休み時間。 一般入試まで1ヶ月を切り、教室内は休み時間でも参考書を広げる人が増えた。
僕もその1人だけど___鳴沢柚月の単語が頭にちらついて集中出来ていない。
何度目かの小さなため息を漏らすと、ふと右頬に視線を感じた。
ちらりと そちらに目をやると、慌てて顔を逸らした者がいた。 山崎 孝太だ。
先程より大きめのため息が溢れそうになった。 あの人もあまり好きじゃない。
___漫画やアニメによく出て来る、偉い奴の「右腕」や「側近」と呼ばれてる奴。 僕は昔からその手のキャラが大嫌いだった。
どうしてお前が傲慢な態度を取るのだ。偉いのはお前の主だろう。 山崎孝太はまさにそう言う右腕気取りのタイプだ。
こちらが善意で声をかけてやってるのに、あの警戒した目付き。「柚月と話したいなら俺を通せ」と言わんばかりの態度。
__昨日塾で別れた後、溝口 圭佑に何事か吹聴されたのか、今日はやけにチラチラ見て来る。
何様のつもりなのだ。 1年ほど前までは吉田の言いなりの「手下A」だったくせに。
__僕がこうやって苛々している間も、鳴沢柚月の顔は一瞬たりとも英単語帳から上がらない。
きっと完璧に集中出来てて内容もスラスラ頭に入っているのだろう。 ムカつく。
ムカつくムカつくムカつく。 どいつもこいつもムカつくなぁ。
結局今日1日は全く勉強に集中出来なかった。 本番までもう1ヶ月切ってるのに…。
これも全部鳴沢柚月のせいだ。あの人さえいなければ、僕の名前が一番上に…僕は「一番」になれたのに。
放課後。 僕はまた職員室横のランキング表の前にいた。
僕は何度、この表の前で消沈し歯噛みしただろう。 これが高校になっても続くのか。
一番になりたいのに…。 いつになったら僕は。 どうしたら僕は。
どうしたら_____…
放課後。 僕は職員室横のランキング表の前にいた。
表の向かいには小さな棚がある。職員室を訪ねる生徒の荷物起きとして利用されている。 その中に___
鳴沢柚月の荷物があった。
真面目に学校指定の物を使用しているその鞄には、 きっと受験勉強に必要なツールがたくさん入っているのだろう。
____教師に質問にでも行ったのか、鳴沢柚月はまだ職員室の中にいる。 ___職員室や校長室が並ぶこの辺りをわざわざ好き好んで通る生徒はいない。
何をどれだけ頑張っても相手の上に立てないなら相手を引きずり下ろせばいい。
____今ここで
彼の 鳴沢柚月の 受験勉強に必要なツールを。
心臓が高鳴る。 今。今ここで。
1つでもいい。1日でもいい。 今。
______「その行動」に移ったら、僕は一番になれるだろうか。
___ゆっくりと、鳴沢柚月の鞄に触れた。 「一番」になる為に
ここで今。今……
今_______
誰かが僕の肩を掴んだ。
心臓が一際大きく跳ね、様々な思考が濁流のように全身を走り回った。
見られた。この状況を?いやでも。大丈夫だ。この状況。言い方次第で。打開は可能。言い方次第で。大丈夫だ。
きっと大丈夫。相手が教師でも生徒でも、山崎孝太でも 僕は誤魔化せる____
吉田
全身から汗が吹き出た。 肩を掴む手の力は想像以上に強い。
これは。この展開は予想してない。 誤魔化す為の言葉は一瞬で霧散した。
立ち尽くす僕の耳に吉田の愉しげな声が入り込む。
吉田
吉田
吉田
吉田は掴んだ肩を軸に僕を振り向かせると、目を細めて唇を舌で舐めた。
吉田
コメント
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三津屋 篤くんは体育祭(第3章最終話)で初登場しました☺ 第6章「受験」編がスタート致しました!これは本当長いしどろどろ…😖 ついに、ついに「彼」が動くぜ💦! 読んでくださりありがとうございました❗