一覧ページ

〜妖万華鏡〜空虚咎送り〜

第1話 - 第1話

2020年10月13日

#アイナナ

#妖万華鏡

ゆ

???

─ちっせぇ手、もみじみてぇ

いつか、どこかで聞いた、懐かしい声。目の覚めるような鮮烈な紅とともに。胸のうちに絶え間なく燻り続けている。

あの日から、俺は何かを探している。失くしてしまった、大切なものを。

何を失ったのか。あれは、誰の声だったのか。すべては、幼い子供の夢だったのか。

なにひとつ、思い出せないまま────。

刀衆詰所・応接室前

???

おい、そこの紙人形。

式神

……………

???

着任早々、ずいぶん気の利いた出迎えだな。
いきなり突撃して、人間を床に突き倒すのが、式神流のもてなしなのか？

???

しかも、どうして腹の上に乗っている？
今すぐ、降りろ。廊下に寝転んで、天井を鑑賞する趣味はないんだ。

式神

…………

???

……おい。聞いているのか？
担当の人間はどこだ？
ずいぶん待つが、迎えの1人も来ないじゃないか。

式神

……………

???

……反応しない……。
俺の言葉は、通じないのか……。

???

仕方ない。

───チャキ

???

………あらあら。
こんな廊下のど真ん中で寝転んで、なに式神と遊んではるの？

???

しかも、いきなり刀抜こうやなんて、お綺麗な顔して、えろう物騒やなぁ。

???

人がいたのか…？
今まで、どこに……。

???

たった今、入ってきたとこや。
廊下の端の、どでかい扉からな。
式神と遊ぶのに夢中で、気づかんかった？

???

……この状況は不可抗力です。
応接室で迎えを待っていても、
誰も来る様子がなかったので……。

???

ふーん。
それで、人探しに、廊下出たら、この有様、ちゅうわけか。

???

詰所をうろつく不審者を見逃さんやなんて、さすがうちの式神は優秀や！

???

不審者……？
俺は、ちゃんと任を負って、帝都から………。

???

あー、ますます怪しいわ。
不審者はみぃんな、そう言うやん。

???

………………………。
その制服と腰に差している刀からして、刀衆の隊員のおひとりとしてお見受けします。

???

初対面でこのようなことを申し上げるのは不本意ですが………。
俺の顔を、にやついた面で覗き込まないでくれ。
不愉快だ。

???

あはっ。
怖い顔して堪忍やわぁ。
解剖前の蛙みたいに
ひっくり返ってるくせに、偉そうやん。

???

せやけど、ごめんなぁ。
高いとこから人の顔見下ろすのって、めっちゃ愉快やん？

???

………人望ないだろう、お前。

???

そっちに足りひんのは、可愛げやんな。

???

もういい。
これ以上は時間の無駄だな。
やはり、自分で対処する。

───カチャ

???

わぁ、ちょっと待って！
ストップ、ストップ！

???

（もう1人いたのか……。）

???

──重（かさね）隊長。
からかうのはやめて、式神を消してあげたらどうです？
その人、また、刀抜こうとしてますよ。

重

おお、円（まどか）。来とったん？

円

ずっと後ろにいました。
面倒くさ──ではなくて、部下の立場で、口出しは差し出がましいかと控えてたんですけど。

円

彼が、今日から刀衆に着任する新人隊員じゃないですか？
うちの第弐番隊に来るって話だったでしょう。
制服だって、ほら。

重

あーー……………。
そういや、そうやったな。
すっかり忘れてたわ。

円

昨日、自分でそう言ってたのに………。

重

堪忍なぁ。
オレ、興味ないことって
あんま覚えてられん質なんよね。

???

（……第弐番隊の隊長？
じゃあ、この男が、俺の上官………。）

重

────ほい。

???

……!
式神が、一瞬で………。

重

綺麗さっぱり消したったで。
これで動けるやろ？
とっとと起きや。

重

まさか、起き上がるのにも手ぇ貸してなんて言わんよな？

???

……………。
いえ。自分で立てます。みっともない姿をお見せしました。

円

……シレッと立ち上がった……。
式神の尻に敷かれて、ひっくり返ってたのに、なかったことにしてるぞ…………。

重

あら、どぉも。
敬礼まで、ご丁寧に。
態度も、えろう畏まってくれて、なによりや。

???

それと、先ほどの失礼な言動、申し訳ありません。
あなたが、第弐番隊の隊長殿ですね。
こちら、入隊任命書です。

円

うわ……。
真面目そう………。

楓

本日付で配布となりました。
刀衆・第弐番隊所属───楓です。（かたなしゅう・だいにばんたいしょぞく────もみじ）

重

……ん？もみじ？入隊任命書には、"楓"（かえで）て書いてはるけど。

重

"かえで"じゃなく"もみじ"ってやんやそれ？
読み方おかしない？

〜妖万華鏡〜空虚咎送り〜

作品ページ

次の話を読む

この作品はいかがでしたか？

1件

ゆ

プロフィール

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

〜妖万華鏡〜空虚咎送り〜

第1話 - 第1話

#アイナナの新着小説
一覧

作者の他の作品すべて見る

関連するタグ

〜妖万華鏡〜空虚咎送り〜

第1話 - 第1話

#アイナナの新着小説一覧

作者の他の作品すべて見る

関連するタグ

#アイナナの新着小説
一覧