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ねぇ。誠(まこと)さん。
ちょっと相談があるの。
ん？どうした。恵子(けいこ)。
いえね、久(ひさし)のことなんだけど…
…やっぱり、まだ学校に行けないみたい。
ふん。くだらん。
いいか。あいつは男だぞ。
気が小さいんだか知らんが、いい加減に男なら男らしく自立するべきだ。
でも……。
そうだ。あいつが中学卒業したら、さっさと家から追い出してやる。
そうはいきませんよ、誠さん！
何を言ってる。男はさっさと家を出るもんだ。
そんな考えやめてください！
久のことをなんだと思ってるんですか！
うるさい！！
人と関わるのが苦手なんて理由でな、学校にも行かん奴を養ういわれなどないと言ってるんだ！！
ちょっと！！誠さん！！
久
今日もけんか
……
けんかはダメだって
お母さんは教えてくれたのに
……
……
いま、おこられてるのかな？
久
久、言ってみなさい。
お母さん、何か久に悪いことしちゃったかな。
久
なんで、お母さんのほっぺ、叩いたりしたの？
久
言いにくかったら良いのよ。
お母さん、別に怒ってるわけじゃないからね。
だって、お母さんはいつだって久の味方なんだもの。
久
久
だって？
久
喧嘩？
久
久
……久。
聞いてたのね。
ふふ。ごめんね。 お母さんが悪かった。
教えてくれて、ありがとうね。
久
……
いまは、ぜったいにおこられてる
お父さんは、いつもおこってるから
……それで。
久。なんでお母さんをぶった？
誠さん。それは久が私たちのことを思ってくれていたからよ。
それについて、私たち二人でもう一度話し合おうって話だったんじゃないですか。
話し合うことなんかあるもんか。
今は久、お前に聞いてるんだ。
なんでぶった？
ちょっと貴方。
お父さんは
いつも、ぼくのてきなんだ
久
久
じゃあ、お父さんをぶってみろ。
ほら。
久
ほら！！できないんだろ！！
誠さん！！
ふざけやがって！！
その根性、叩き直してやるわ！！
久
いたい
誠さん、もういいでしょ。 子供をこんな風にぶったりするから、久も同じことをしたんですよ！！
そうか。なら、父さんを殴り返せるまで殴ってやるからな。
おらっ！
久
なんで、こんなことするんだろ
同じことを、ぼくはしただけなんだ
誠さん！！！！
……ふん。お前なんか、閉じ込めておいてやる。
そうだ。あの"イミマ"でな。
イミマ？
ダメです！！なりません！！
あそこだけは、絶対になりません！！
ちっ。うるさい！！
きゃっ！！
恵子は黙ってろ。
久、お前みたいな奴は怖い思いでもするべきなんだよ。
一晩、そこで反省していろ！！
……
ぼくは、いまひとりぼっちだ
久
久
久
なんで、おこられたんだろ？
なんで、こんな暗いところに
とじこめられたんだろ？
久
まどが開けてある
外の風がつめたいな
そういえば
ここ、外にある蔵みたいだけど
お母さんにきびしく入っちゃダメって 言われてるから
ぜんぜん入ったことないや
久
久
なんだか、こわいな
さびしいな
……お母さん。
久
久
ぼくが目を上げると
なにかが見えた
久
あれ、なんだろ。
かげがうつるから
なにかあるのはわかる
……
ふすまの向こうに
なにかいる
久
久
……
でも、なにも言わないし。
お母さんじゃないのかな？
でも、かみのけが長いよね？
お父さんでもないんだったら
誰なんだろう？
久
なにしてるんだろ？
かげがすごい動いてる
かみを
ふり回してる？
すごいゆれてる
強い風がふいたときみたい
……あれ
なにか言ってる
久
ア……アア…ア…
…アアアア
久
女の人だけど、ひくい声
声が大きくなってくる
すごくこわい
それに
……だんだん近づいてくる
久
アアアアアア
久
アアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアア
ァァァァ
……ァァ
久
なんだか分からないけど
いきをとめていた
見つかっちゃいけない気がしたから
久
アアアアアアアア
久
となりに、女の人のかおがあった
口を開けて、目もすごく開いてて
かみがながくて、こわい
こわいよ
久
アアアアアアアアア
久
アアアアアアアア
久
久！！
久
久！！大丈夫？
久
久
え？どこ。
久
まわりをみわたしても
いつのまにか、女の人は消えてた
……そう。
これがこの女を見た、初めての瞬間だったんだ。
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