テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それからの生活は、今まで以上に大変だった
あの女が度々、目の前に現れる
現れるのは決まって夜だけど いつくるのかまでは分からない
それが怖くて、本当に怖くて
夜は眠れなくて、いつも怯えている
周りには見えないのに 僕だけは見える
そういう状況が続いて ついに僕は宣言通り父から見放された
その時に言われた言葉が 今となっても忘れられない
お前の言ってることが分からない
家の恥さらしめ
そう、分からないだろう
あの"イミマ"に入れられた日から 信じたくもない恐怖がずっと押し寄せてくる
こんな苦痛が
この父親に、分かってたまるか
こうして僕は、家を出た
中学卒業後、僕はすぐに就職した
そうしなければ生活もままならないし 体も別段強くなかったけれど、生きるためにはやるしかなかった
まさに骨身を削る思いで 恐怖と疲労に闘う毎日
地獄に違いなかった
……でも
それから10年後
職を転々としていたが、ある会社に拾ってもらった
みんな気さくで 人と関わるのが苦手な僕に対しても温かく接してくれた
何とか気を持って、必死に生きていた
そんなある日のことだった
久
千鶴
久
千鶴
久
千鶴
久
千鶴
千鶴
久
千鶴
千鶴
千鶴
久
彼女……千鶴さんから渡されたのは デコレーションされている包装紙に入ったチョコレートだった
何が何だかわからずに 視線を泳がせていると
デスクの上に立てかけてあったものが 目に入った
僕はカレンダーに目をやった
2月14日だった
僕と千鶴さんはチョコレートをきっかけにして だんだんと仲良くなった
仕事上の付き合いだけではなくて 個人的な付き合いも多くなり、そして男女間の付き合いも始めた
それでも尚、あの女はたまに現れた しかし、その頻度も心なしか減ったように思えたし、今は千鶴さんのことで頭がいっぱいだった
そして、付き合い始めてから2年が経った
相変わらず人付き合いは苦手だったけど、彼女とデートを重ねるうち、もう、何の障壁もなかった
だから、遊園地に行こうなんて言ってみた
更には 観覧車のなかでプロポーズをしようなんて思った
恋愛をしたこともなかった僕は こんな方法が正当なんだとばかり思っていた
いや、そう言い聞かせて 断られる不安を押し殺したかったに違いない
もう夕暮れだった
久
千鶴
千鶴
久
千鶴
久
久
千鶴
久
千鶴
久
久
下手な言葉を吐く気はなかった
自分の想いを伝えたかっただけだから
しかし 千鶴さんの目を見ることはできなかった
久
千鶴
心臓の鼓動が聞こえてくる
文字通り、胸が張り裂けそうだった
千鶴
久
久
千鶴
千鶴
久
久
久
千鶴
思いとは裏腹に、静かに、そして唐突に運命は定められた
叫びたい気持ちを抑えて 僕は千鶴さんを静かに抱きしめた
それから更に3年後
僕は30歳になった
千鶴さんは2つ年上だったから 32歳という勘定になる
これまでは僕の家に同棲していた時期もあったが 生活費を節約しようと、千鶴さんの家に同棲することになった
……千鶴さんは、実家暮らしだった
つまり、既に挨拶は済ませてあった向こうのお義父さんと、お義母さんとも一緒に暮らすことになる
不安で仕方がなかったが、止むを得ず、千鶴さんの意向に従った
千鶴
友枝
友枝
友枝
哲夫
哲夫
哲夫
友枝
友枝
久
千鶴
千鶴
千鶴
久
もともと中学を卒業して、すぐに就職活動を始めたわけだから、十分な稼ぎを得ているというわけではない
会社に勤めて長くもなったし、昇進も適切にしてくれている恩のある会社であるが、千鶴さんが産休に入れば生活の糧を作るのは僕一人だ
今のうちから 無理のない生活を送るために、ここに越してきた
……しかし、上手くやれるかは心配だった
千鶴さんの実家に移り住んでから 2週間が経ったであろうか
慣れないことも多いが 何とかやりくりをしていた
着実に、順調に生活を営んでいた
しかし
幸せは長くは続かない
久
千鶴
深夜1時
千鶴さんはもう眠っていたようだが 何となく僕は眠れなかった
目を開けて、ただ天井を見つめる
天井には幾何学的なデザインが入っているが 劣化して不細工な模様となってしまっている
同じような幾筋もの線が流れている
……ん?
天井の端に、黒ずんだシミがある
普段は気が付かなかったが 結構大きなシミだ
一体、何なんだろうか
何故か、目が離せない
嫌な予感がする
そう思っていると
久
シミが動いた
しかも こちらに向かって来ているような気がする
いや、確実に来ている
久
体は全く動かない
目も釘付けのままだ
もぞ、もぞ
シミは僕の真上まで動いた
そこで
久
シミから髪が伸びてきた
いや、シミだと思っていたものは
それ自体が髪の毛の塊だ
長い、長い髪が
天井から垂れている
やがてその髪は、僕の顔にかかる
天井の髪の塊からは まだ、何かが出てこようとしていた
見たくない
しかし、目が離せない
久
千鶴
千鶴さんに助けを求めても 気付く気配すらなかった
そうしている間に 髪の塊からは何かがヌッとでできた
それは、あの女の顔だった
アアアアア
久
必死で声を出そうとするが 虚しくも掠れた囁きにしかならない
アアアアアアアアアアアアアア
女の顔がゆっくりと降りてくる
目を見開き、口を開けて、耳が痛いほどに発声し続ける
恐ろしいのは 恨みがましくといった様子ではないことだ
長年、ずっと襲われ続けたからわかるが この女は笑っている
こちらを見て、笑っているのだ
久
アアアアアアアア
とうとう 女の顔は僕の顔の目の前に来た
はっきりと、その喜色満面が見える
怖い
怖い 怖い 怖い 怖い
そこで 女の声がピタッと止まった
これは、初めてのことだった
一体、何があったのか
久
う
う、う、う
う
女は、また一拍置いてから
目の前で笑った
うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
口から牙が覗く
それは赤黒く染まっている
ここにきて、殺される
死ぬ
死ぬぞ
久
僕は絶叫した