絶対絶命ゲーム

妹の弱々しい声で、滝沢美奈は目を覚ました。

椅子に座ったまま眠っていた。

6歳の妹、由佳は、体にたくさん管を付けられて、ベッドで寝ている。

パパとママは、病室の床で寝ている。

美奈の嘘は、妹にバレている。

それでも、言わずにいられなかった。

と言って、由佳は目を瞑った。

妹の寝顔を見ていると、涙が溢れてくる。

どうして、うちだけ、こんな目に遭わないとならないの。

何も悪い事してないのに……

1年前まで、仲のいい4人家族だった。

毎日が楽しくて、笑わない日は無かった。

妹が重い心臓の病気だと分かり、生活は一変した。

アメリカで移植手術を受けないと由佳は生きられない。

でも、手術には1億円も必要だ。

そんなお金は家には無い。

皆で募金活動をしてるけど、全然、集まらない。

昨日の夜、パパとママは喧嘩をしていた。

ママはそう言って涙を流した。パパは頭を抱えている。

こんなに困っているのに、神様は何もしてくれない。

きっと、神様なんて居ないんだ。

お金がなかったら、大切なものは守れないんだ。

お金がなかったら、幸せになれないんだ。

この世界は、お金が全てなんだ。

妹が苦しんでいるのに、小学生の私には、何も出来ない。

美奈はママのバッグからノートパソコンを取ると、こっそり廊下に出た。

『賞金1億円のゲーム大会』の噂を聞いた事がある。

皆は、都市伝説だと言ってたけど……。

確か、『絶体絶命ゲーム』だった。

インターネットで検索すると、公式ページがある。

ページを開く。

アクセスしたページが見つかりません。

なんだ。やっぱり都市伝説なんだ。

1億円を貰えるゲーム大会なんて、あるはずない。

美奈は、そのままぼっとしていた。

どこからか、風を切るような音がした。

今の音は何？

パソコンのディスプレイに目を戻す。

刀で切られたような黒い線が、斜めに入っている。

続けざまに風を切るような音がして、ディスプレイに何本もの黒い線が走る。

鏡が割れるように画面が崩れ落ち、真っ黒になる。

何よ。何が起きてるの？

真っ黒な画面に稲妻が走り、古びた三角屋根の洋館が現れる。

絶体絶命ゲームにようこそ。

これだ。本当に『絶体絶命ゲーム』があった。

不気味なサイトだけど、先に進んでみよう。

洋館の上でEnterを押した。

この先に進むものに、命の保証はありません。

それでもいいですか？ YES NO

こんなの、脅かしよね。そうに決まってるわ。

本当は怖かったけど、勇気を出してYESを押した。

命懸けのゲームをしてもらいます。

賞金は1億円。

身も凍るような恐怖が待っています。

強い気持ちが無いものは、引き返すのが身のためです。

命と引き換えかもしれないんだよ。

それでも、1億円が欲しいのかい? YES NO

欲しいわ。どうしても1億円が必要なの。

お願い。私をゲームに参加させて。

YESを押した。

必要事項を入力し、登録をして。

名前　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

生年月日　平成　　年　　月　　日

郵便番号　　　　　　ー

住所　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

メールアドレス　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

お金が必要な理由　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

登録を完了します。

Enterを押してください。

美奈は必要事項を書き込む。

これで、賞金1億円のゲームに参加できる。

学校の成績は普通だけど、度胸だけは人の10倍はある。

パパの口癖だ。

度胸と直感の鋭さだけは誰にも負けない。

由佳のために、1億円を獲得するんだ。

Enterを押せば、登録されるのよね。

体が震えている。

こんなの怖く無い。私なら出来る。

直感を信じるのよ。

Enterを押した。

もう引き返せない。

このあと、どうなるの？

不安と期待で胸が高鳴る。

登録ありがとう。

ページがブラックアウトする。

どういう事、これだけ？

いたずらだ。

お金に困っている人をからかっている、悪質なイタズラなんだ。

悔しくて涙が溢れてきた。

やっぱり、この世界に神様なんていないんだ。