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深夜の町は静まり返っていた。 昼間の喧騒が嘘のように灯りも人もまばら。 終電が過ぎたことを示すように、駅前のロータリーにはタクシーが数台並ぶだけだった。
元貴
ぼそっと呟く。 普段ならこんな時間に来ない場所だから変な感じがする。
何人かの酔っ払いがフラつきながら歩いているのを横目にスマホの地図を睨む滉斗と歩を進めた。
滉斗
元貴
涼ちゃんのGPSが途絶えたところに全力で走る。
住宅街の狭い路地を抜け、飲み屋街の灯りがぼやけて見えるあたりまで走り込んだ俺たちに酔っ払いがふらつきながらぶつかってきた。
滉斗
強く肩をぶつけてきた男が酒臭い息を吐きながら滉斗を睨みつける。
滉斗の目がすっと細くなった。
滉斗
滉斗
滉斗
冷たい視線に男がたじろいだ。
男が吐き捨てるように言いながらよろけて去っていったのを見届けると、滉斗は小さく肩を回して吐息をついた。
滉斗
元貴
そう言って走り出そうとしたとき──
背後から声がして、俺たちはピタリと足を止めた。 振り向くと2人の警官がこちらをじっと見ていた。
滉斗
滉斗がなにか言おうと口を開いた。
けどこういう時は俺の役目、
元貴
元貴
動揺を何とか隠して話す。 滉斗も隣で焦ってるのがわかる。
元貴
怪しまれないよう言葉を慎重に選びながら話す。 警官達は一瞬顔を見合わせたけどまだ疑いの色を完全には消していない。
元貴
元貴
元貴
滉斗のスマホのGPSアプリを開いて、涼ちゃんの位置が飲み屋街近辺で途切れている画面を見せた。
元貴
泣き真似をしながらスマホを差し出す。
警官の視線がスマホに移り、沈黙が落ちた。
元貴
警官が去ったのを確認し、俺たちはすぐに顔を見合わせた
元貴
滉斗
滉斗
元貴
元貴
滉斗
涼ちゃん、必ず無事で居て……!!
─元貴と滉斗が家でストーカー被害に気づいた頃─
涼架
夜の街は冷たく静かで、ネカフェの明かりを背にして必死に走っていた。心臓が激しく鼓動を刻むけれど、息遣いだけでも整えようと必死に意識を向ける。
涼架
そう繰り返しながら、足を止めることなく人の少なくなった飲み屋街を進んだ。 ふと横に見えた裏路地は、狭くて人影が全くない。けれど逆にここに潜めば巻けるんじゃないか。
裏路地を走りながら、曲がり角を見つけて咄嗟にそこへ滑り込んだ。
壁際に背を預けて、小さく呼吸を整える。 目を閉じれば心臓の音が耳の奥にまで響いてくる。
涼架
角の隙間から通りを覗いた。 誰もいない。 でも、胸のざわつきは一向に消えない。
自分の手をぎゅっと握りしめて、じっとその場で息を殺した。
風の音すら怖い、息をするのも…。
そんな時だった。
遠くから微かに
コツ……コツ……
涼架
足音が聞こえる。
しかもそれは俺の方に近づいてきている。
涼架
手をぎゅっと握ってその足音がただの通行人であるようにと願った。
だけど音はゆっくりとでも確実に、隠れている方に近づいてくる。
涼架
コツ、コツ、コツ……
足音は止まらない。
涼架
ネカフェで感じた、あの気配と同じ。 肌が粟立つような、嫌な気配──確信した。
涼架
次の瞬間、足音が急に止まった。
そして角のすぐ向こう側、あとほんのわずかのところに誰かが立ち止まったのがわかった。
ここにいたら、捕まる。もっと遠くに逃げないと……!
涼架
真っ暗な裏路地を月明かりだけを頼りに走る。 曲がり角をいくつも通り過ぎ、どこかに外へ通じる道があるはずと走り続けた。
だけど、
涼架
壁のような建物で道は遮られ、引き返す以外できない所へ来ちゃった。
涼架
引き返すために体の向きを変えようとした、その瞬間。
後ろから手首を強く掴まれた。
希舟
背後から聞こえた声に背筋が凍りつく。 もがく間もなく強く腕を引かれ地面に倒れ込んだ。
涼架
希舟
足音は回り込む音を立てていたのではなく最初から逃げ込む場所を読んでいた。 先回りされていたのだと気づいた時には、もう遅かった。
涼架
必死に手を振りほどこうとした。 けれど、まるで鉄のように微動だにしない。
希舟
その言葉の直後、首にチクリと痛みが走った。
涼架
希舟
一瞬の違和感。 次の瞬間には全身の力が抜け始め、頭がぐらりと揺れて視界がぼやけていった。
涼架
涼架
意識は朦朧としているけど、必死に周りを見渡す。
涼架
スマホにつけてた大切なキーホルダーを外し、動かなくなってきた手を無理やり動かして投げた。
目の前の暗闇がじわじわと広がっていく。 もう逃げられない。だけど、これだけは…伝えたい。
涼架
呟きは風に溶けて、声が遠ざかっていく。 足も手も力が入らない。 そんな俺の体を希舟くんが抱き寄せた。
希舟
耳元で囁かれた声は優しく甘やか。
希舟
そのまま夜の闇に溶けていくように意識が落ちていった。