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夢の国から帰って数日後。 彼女は、また病院に戻ることになった。
「少しだけ体調を崩しちゃって」 最初はそんな軽い調子で、LINEが来ていた。 でも、面会に行った病室で出会った彼女は―― 前よりも、やせ細っていた。
目の下には濃いクマ。肌は透けるほどに白くて、あんなに楽しそうに笑っていた笑顔が、 今は、少し動くだけで息が上がってしまう。
秋保 楓花
彼女が、ふっと笑って言った。 それが何を意味するのか、分かっていて それでも俺は聞き返す。
及川 徹
秋保 楓花
喉の奥がぎゅっと詰まる。 何も言えなくて、ただ、ベッドの端に座り込んだ。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
彼女の瞳が揺れる。 涙がこぼれて、俺の指に落ちた。
それからしばらくの間 俺たちは病室で過ごす“デート”を繰り返した。
ある日は、海外の風景のY○uTube動画を並んで観て 「ここ、行きたかったんだよね」と 彼女がつぶやく。
別の日には、花火大会の動画を観ながら 「こうして一緒に観られたら、それでいいよ」と笑ってくれた。
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
そう言って、俺はベッドの横にノートを開く。
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
弱い声で、何度も頷く。 この病室の中で 俺たちは“世界中”を旅した。
今日も俺は病室に通った
点滴の管が通った細い腕。 呼吸が少し苦しそうで、顔色もよくない。
ベッドに横たわる楓花を見ていると どうしようもない無力感に 押し潰されそうになる。
及川 徹
小さく名前を呼んでみると 彼女はかすかにまぶたを動かし 俺を見た。
秋保 楓花
及川 徹
その言葉が、ずっと胸の奥にあった。 いっそ全部、自分が背負えたらいいのにって、何度も思った。
だけど──
秋保 楓花
その瞬間、バッと彼女の手が動いた。
パシッ。 乾いた音が頬に響く。 叩かれた、ってすぐに理解できなかったけど 彼女の目は怒りに燃えていた。
及川 徹
秋保 楓花
声は震えていた。怒っているのに 泣きそうな声だった。
及川 徹
秋保 楓花
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
その言葉に、胸が詰まった。
彼女の怒りの裏にある想いが 痛いほど伝わってきた。 悲しみと、愛しさと、どうにもならない現実に、涙がにじんでくる。
及川 徹
言いながら、そっと彼女の手を握った。 叩かれた頬がじんじんと熱い。 でも、その何倍も、心の奥が熱くなっていた。
病院の屋上 流星群の夜
吐く息が白くなるような、冬の夜だった。 昼間は晴れていたけど、夕方には雲が広がって――それでも夜には奇跡のように晴れた。
秋保 楓花
彼女が、空を見上げた瞬間 小さく息を呑んだ。 頭上には、無数の星が瞬いていた。 そしてその中を――一筋の光が、夜空を横切った。
流れ星だ。
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
そう言いながら、俺も一緒に空を仰ぐ。 風は冷たいけど、彼女の手を握っているから、あたたかい。
その時、不意に彼女がぽつりとつぶやいた。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
彼女の声が、空気に溶けていくようにやさしかった。 冷たいはずの空が、なんだか少しあたたかく感じた。
及川 徹
秋保 楓花
流れ星がまた一つ、夜空を走った。 俺は彼女の顔を見つめて そしてそっと言葉を紡いだ。
及川 徹
彼女が、驚いたように目を見開いて それから小さく笑った。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
言葉にした瞬間、ちょっと恥ずかしくなって、夜空を見上げる。 でも――また、流れ星が流れた。
彼女が、俺の手を握る力を少しだけ強くした。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
また、流れ星。 そのあとに続けるように、いくつもの光が空を滑っていった。
短く、でも確かに光って、夜を彩る星たち。 すぐに消えるとしても―― 願いが、そこに乗っている限り それはちゃんと届いている。