ストーカー Aルート

やぁ。ぼくはストーカー。

え？変わった名前だね、って？

あはは、違う違う。名前じゃないんだ。

僕、犯罪者なんだよね。

名前出しちゃうと、色々まずいでしょ？

だから、ストーカー。

まぁ、気軽に変態クソ野郎、とでも呼んでよ。そう呼んでくれれば殺しに行くからさ。

ま、こんな冗談はさておき。

…実は僕さ、ストーカーする相手決まってないんだ。

でもさ、想像してみてよ？

かっわいい女子高生が、視線を感じて怯える様子を。

怖がってなく様を。

…ねぇ、とっても興奮しない？

え？しない、って？

それは残念だ。君とは趣味が合わないね。悲しいよ。

ま、そんなのどうでもいいことだ。

それより、獲物を探そうか。

…ん？あんなところに、黒髪ロングの女子高生がいるね？

どうやらマスクをつけているようだけど…風邪かな？

でも、目がすごくぱっちりしてて、とても可愛いね…？

あの目は、恐怖を感じれば、どんなふうに歪むんだろう…？

あは…決めた。

今日の獲物は、あの子だ。

…と、思ったんだけど。

なんだか様子がおかしいね？

電柱から、動こうとしないなぁ？

でも、もうとっても暗い。

ほかのストーカーに狙われたら大変だよ？僕だけでも厄介なんだから。

ちょっと、帰宅を促してみようかな？

お、可愛い。やっぱり、このこの目は綺麗だなぁ。

危なかった。

ほんっとうに危なかった。

お兄さん間違えて「君の後つけられないんだけど…」とか言っちゃうとこだった。

いや、マジで危ない。

うん。

ちょっとまってね？

状況が掴めないよ？

整理していい？状況。

いいよね？

むしろ止める人とかいないよね？

いやむしろ僕も異論を認めないよ？

じゃあ整理しようか。

・僕はストーカー。

・で、今日の獲物がこの女子高生。

・先ほど危うく犯罪者まがいのことを言いそうになった。

・そして、焦る僕に彼女が一言。

・私、綺麗？

…？

？？？？

わけがわからないよ。

僕は声を大にして言いたい。

わけがわからないよ！

ストーカー歴はや10年。今までこんなこと聞かれたことないよ？

てかなんて答えればいいの？

綺麗って言っていいの？

仮にも成人済み20代のお兄さんが、可愛らしい女子高生に、「綺麗だねぇ…ぐへっへ」

…とか言っていいの？

ダメだよね？

しかも外くらいからさらに犯罪臭ますよね？

いや犯罪者だけどさ。

まだこの子狙ってるけど。

でもだからといって「綺麗じゃない」とか言ったらそれはただのクズだよね？

ねぇ僕どうしたらいいわけ？

なに？もう僕の思考回路が迷子のまいごの子猫ちゃんだよ？

わけがわからないよ？

とにかく子猫はお家に帰ろうね？

うん。

わけがわかんない。

そういって、彼女はマスクをとった。

…あれ？

これって、さぁ。

口裂け女、パターン？

これ、あれ？

なんか唱えないと死ぬ感じ？

僕そういうのよく知らないんだけど？

とりあえず回復魔法でいい？

一応覚えてるよ？

いい？

うっわぁ。

情けない声だね。

Aルート:見ない

無理。

無理だ。

だって、あれでしょ？

これみたら、鎌取り出してぬっ殺パターンでしょ？

僕まだ死にたくないよ？

まだストーカー続けてたいよ？

なんならこの10年で磨き上げたストーカーの技術を孫に語り継ぎたいとすら思ってるからね？

と、いうわけで、ね。

逃げよう。

見なきゃいいんだ。

ごめんなさい。ただの女子高生だったらごめんなさい。

ほかの変質者に話しかけられないよう、早くお家に帰るんだよ。

じゃあ、ね。

彼女の声が後ろから聞こえてくる。

追いかけてくる様子はないが、不思議と心が痛んだ。

でも、見たら死ぬかもしれないんだ。

しかたがないじゃないか。

相手は、理不尽に人をぶっ殺す化物なんだから。

いいんだ。これで。

......................................................

でも、その日から、電柱の前を通ると、聞こえてくるんだ。

俺は、間違えたのだろうか。

女子高生を化物と決めつけ、逃げることは、間違いだったのだろうか。

あれから、彼女は僕の前に現れることは無かった。

未だに僕は、彼女の顔を見もしなかったことを、後悔している。