ブーブー、とけたたましくブザーが鳴り響く。
観客席に座るのは相変わらずたった1人。
観客のヒトは今か今かと、開演を待っている。
少しのノイズと共に先ほどのヒトの声がゲキジョウに響く。
案内人の声
それでは皆様、お席に着かれましたでしょうか?
案内人の声
では、諸注意をさせていただきます。
案内人の声
上映時にゲキジョウに出入りする事はできません。
開幕の時間には絶対に遅れぬようになさってください。
開幕の時間には絶対に遅れぬようになさってください。
案内人の声
次に、お手元の端末についてです。
お手元の端末の電源を切ると、このゲキジョウに居ることができなくなります。
観測者様はこのゲキジョウのヒトでは御座いませんので。
電源が切れぬようになさってください。
お手元の端末の電源を切ると、このゲキジョウに居ることができなくなります。
観測者様はこのゲキジョウのヒトでは御座いませんので。
電源が切れぬようになさってください。
案内人の声
最後に、我々を見失わぬようになさってください。
我々しかこのゲキジョウを把握しておりません。
迷った場合、案内人か“門番”にお声かけくださいませ。
我々しかこのゲキジョウを把握しておりません。
迷った場合、案内人か“門番”にお声かけくださいませ。
案内人の声
他にもいくつかありますが、詳しいことはパンフレットに記載させていただいていますので、それを参考になさってくださいませ。
淡々とアナウンスが進んでいく。
案内人の声
と、思ったら少しの空白がこちらに流れた。
案内人の声
長くなってしまいましたが、これで諸注意は終わります。
案内人の声
それでは皆様。
いってらっしゃいませ。
いってらっしゃいませ。
軽い雑音が流れ、そこで放送は途切れた。
ゆっくりと、紅い緞帳が上がっていく。
紅い緞帳の先には永遠に続くのではないか、と思わせるほど長く、広い階段があった。
門番
その長い階段の中心に、黒髪の女性らしき人物は佇んでいた。
こちらに気がついたのか、ぱっと顔を上げて口を開く。
門番
いらっしゃいませ、観客様と観測者様方。
彼女は落ち着いた女の声色で語る。
彼女は案内人とは違い、女性、という性別の枠に収まった存在のようだ。
門番
あんまり長く挨拶するのはよくないですよね。
門番
では、観測者様方はあたしのことを知っていると思いますが…観客様のために、軽く自己紹介させていただきますね。
門番
あたしは管理人と申します。
門番を兼ねていますので、演目が変わる度に顔を合わせることになりますね。
門番を兼ねていますので、演目が変わる度に顔を合わせることになりますね。
門番
門番
ここまで言えばいいですかね。
少し興奮した声ですらすらと自己紹介を済ませる。
門番
─では、皆様。
これより先には階段がありますが、すぐに門に辿り着きますのでご安心を。
これより先には階段がありますが、すぐに門に辿り着きますのでご安心を。
そこまで言い、門番は恭しく頭を下げる。
門番
演目1、道化の抵抗へいってらっしゃいませ。
その声と共に、階段がこちらへ近づいてくる。
なのに、彼女はそこでお辞儀をしたまま、動かない。
観客は驚いたかのように目を見開く。
階段は観客にぶつかることなく、すり抜けてゆく。
あっと言う間に、果てがないように感じた階段の端に辿り着く。
──そこには大きな大きな門があった。
門番は迷うことなく大きな門を開き、もう1度頭を下げる。
門番
─どうぞ、お気をつけて。
観客は吸い込まれるように門に近づき、躊躇うことなく足を踏み入れた。