ブーブー、とけたたましくブザーが鳴り響く。
観客席に座るのは相変わらずたった1人。
観客のヒトは今か今かと、開演を待っている。
少しのノイズと共に先ほどのヒトの声がゲキジョウに響く。
案内人の声
案内人の声
案内人の声
開幕の時間には絶対に遅れぬようになさってください。
案内人の声
お手元の端末の電源を切ると、このゲキジョウに居ることができなくなります。
観測者様はこのゲキジョウのヒトでは御座いませんので。
電源が切れぬようになさってください。
案内人の声
我々しかこのゲキジョウを把握しておりません。
迷った場合、案内人か“門番”にお声かけくださいませ。
案内人の声
淡々とアナウンスが進んでいく。
案内人の声
と、思ったら少しの空白がこちらに流れた。
案内人の声
案内人の声
いってらっしゃいませ。
軽い雑音が流れ、そこで放送は途切れた。
ゆっくりと、紅い緞帳が上がっていく。
紅い緞帳の先には永遠に続くのではないか、と思わせるほど長く、広い階段があった。
門番
その長い階段の中心に、黒髪の女性らしき人物は佇んでいた。
こちらに気がついたのか、ぱっと顔を上げて口を開く。
門番
彼女は落ち着いた女の声色で語る。
彼女は案内人とは違い、女性、という性別の枠に収まった存在のようだ。
門番
門番
門番
門番を兼ねていますので、演目が変わる度に顔を合わせることになりますね。
門番
門番
少し興奮した声ですらすらと自己紹介を済ませる。
門番
これより先には階段がありますが、すぐに門に辿り着きますのでご安心を。
そこまで言い、門番は恭しく頭を下げる。
門番
その声と共に、階段がこちらへ近づいてくる。
なのに、彼女はそこでお辞儀をしたまま、動かない。
観客は驚いたかのように目を見開く。
階段は観客にぶつかることなく、すり抜けてゆく。
あっと言う間に、果てがないように感じた階段の端に辿り着く。
──そこには大きな大きな門があった。
門番は迷うことなく大きな門を開き、もう1度頭を下げる。
門番
観客は吸い込まれるように門に近づき、躊躇うことなく足を踏み入れた。







