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第24話 - 『ユユさん』

1,107

2025年03月17日

#司類

#冬彰

#ホラー

#ほのぼの

#感動

あかまる🍓🐾໊

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午後20時32分

駅のホーム階段

彰人

(ったく、こんな時間まで付き合わせやがってあの教師め…)

彰人

(まぁ、掃除中に花瓶割った俺が悪いんだけど…)

今日の帰宅がこんなに遅いのは、先生の雑用係としてこき使われたからだ。

元はと言えば掃除中、クラスメイトとふざけて遊んでいた箒が花瓶に当たり、思いっきり割ってしまったのが原因だ。

彰人

(反省文と説教に加え、雑用係まで…そこまで怒んなくてもいいのに…)

彰人

(いや、どちらにせよ自業自得か。早く帰ろ)

ドンッ

彰人

？！

後ろから誰かに強く肩を押されて、バランスを崩した。

彰人

(ヤバ、落ちる…！クソ、誰だ？！)

体が宙に舞うような感覚の中、顔を確認してやろうと後ろを見た。

彰人

！？

怪異研究部部室

司

な、なななな、な……っ？！？！？

司

え、駅の階段から落ちて怪我をした？！？！？！

彰人

うるさっ

彰人

怪我と言っても、ただの捻挫なんで大丈夫ですよ。

司

松葉杖じゃないか！！！！

彰人

これは医者が大袈裟なだけですって。

類

いやいや、歩行が困難だと判断されたんだろう？大袈裟ではないよ。

彰人

松葉杖はいらねぇって言ったのに…

彰人

…というか、青柳。そろそろその顔辞めろって。

冬弥

………

彰人

朝からずっとそんなんじゃねぇか。怪我も大したことないって言ってんのに、そんな悲痛な顔するなよ。

冬弥

大した事だろう、足が…捻挫だって、立派な怪我だ。

冬弥

階段から落ちるなんて…

司

うむ…もしや、階段が濡れていたのか？昨日は雨では無かったが、

類

ボーッとしてて踏み外しちゃったとか？

彰人

両親や医者には、「足を滑らせただけ」って言いました。

司

む…その言い方だと、本当は違うのか？

彰人

多分、誰かに突き落とされたんですよね。

冬弥

突き落とされた？！

類

だ、誰に？！顔とか見た？！立派な傷害事件だよ！

司

あぁ、大事件だ！！何故大人には嘘をついたんだ？！

彰人

いなかったんですよ。

司

はっ？

彰人

押された時、顔見てやろうと思って後ろ振り返ったけど、後ろに誰もいなかったんです。

彰人

あの短時間だと逃げるのも絶対不可能なのに、何もいませんでした。

司

こ……こっわ……！？！？

類

お…押されたのはたしかなんだよね？

彰人

あ、そうそう。これ見えます？

司

む？

彰人がカバンから黒い上着を取り出した。

彰人

これ、その時着てた上着です。

彰人

背中のこれ見えます？

司

背中…

司

ん……？

彰人

司センパイもか…

類

…手形だね。

彰人

！

司

む、手形だと？

類

背中に白い手形が付いてる。

彰人

類センパイ、見えるんすか？！

類

あぁ。

司

むむむ…？？何も見えんぞ…？

冬弥

俺もです。ただの上着にしか見えませんが…

彰人

家族も医者も、周りのヤツは大抵何も見えないみたいで。俺がおかしいのかと思ったけど…

類

ふむ…けどこの手形、気持ち悪いねぇ。

彰人

あ、やっぱ変ですよね？

類

とてつもなくね。

司

む…？何がだ？

彰人

これ、指が4本な上に指紋が無いんですよ。

司

？！？！

冬弥

ゆ、指が4本に…指紋がない？

類

ちょっと触っていい？

司

触るのか？！

彰人

どーぞ。

類

…

類

ふむ、粉っぽいけど違うみたいだ。洗濯しても取れなさそうだね。

彰人

はい、取れる気配ゼロでした。

司

き、気持ち悪いな……

冬弥

ということは…東雲を突き落としたのは、人間じゃないと？

彰人

だろうな。

司

な…っ

司

(体質か…？！霊媒体質のせいなのか？！)

司

(しかし、階段…4本指の白い手形…どこかで聞いたような…)

彰人

しかも、小指らしき部分の指の付け根から第1関節までが赤いんです。

※分かりやすいように手のひらを向けています

司

！

類

なんか、気持ち悪いよね。なんで1部だけ赤いんだろう…

彰人

最初は白いままで、赤色なんか無かったんですよ。

冬弥

段々赤く染まってきてる…ということか？

司

思い出した！！

彰人

うわっ、急に叫ばないで下さいよ。

冬弥

何を思い出したんですか？

司

その手形だ！そういえば、そういう都市伝説があったんだ！

類

都市伝説？

司

あぁ、たしか「呪印」と呼ばれる呪いの一種だ。

冬弥

の、呪い？！

司

彰人、怪我をしてから何日目だ？

彰人

えっと…今日で3日目です。

司

怪我をしたのは夜だったな？

彰人

はい。多分20時30分くらいです。

司

恐らく、今日の20時30分には小指の先まで赤く染まるだろう。

彰人

！

類

ふむ…カウントダウンみたいなものかい？

司

あぁ、そういう事だ。

冬弥

えっと、1本の指で3日なら…12日分？

司

いいや、最後は手のひら全体を含んで13日だ。

類

13日…不吉だね。

彰人

13日経ったらどうなるんですか？

司

たしか…死ぬ。

冬弥

？！

彰人

うわ、シャレにならねぇな

冬弥

の、呪いを解く方法はあるんですか？！というか、なんで東雲が…！

司

ち、ちょっと待ってくれ。たしか…えっと…

司

4日目、9日目に…たしか、何かが起こるはずなんだ。

類

何か？

司

何だったか…えっと、これはたしか…

司

あぁ、思い出した！『ユユさん』という都市伝説だ！

彰人

聞いた事ないっすね

司

少し前に流行った話だし、あまりメジャーでもないからな。

司

『ユユさん』は駅に現れる女性の怪異で、10年ほど前に少し有名になった話だ。

司

男子高校生が夜に1人で駅の階段を降りていると、後ろから『ユユさん』に背中を押され、怪我を負わされる。

司

『ユユさん』が背中を押すのは、『ユユさん』が気に入った男子高校生だけで、何らかの条件があるらしい。

類

それで、彰人くんが気に入られちゃったと…

司

あぁ。『ユユさん』の好みに当てはまってしまったんだろうな。

司

『ユユさん』に背中を押されたら、骨折や最悪足を切断するレベルの怪我を負うため、入院する事になるらしいが…

彰人

え、捻挫なんですけど。

司

『ユユさん』も想定外なんじゃないか？？よく捻挫で済んだな。

彰人

普通に受け身とったんで。

冬弥

流石の運動神経だな…

司

ああ、それがかなりの救いかもしれん。

司

『ユユさん』はターゲットが入院してる間を狙って連れ去ろうとしてくるんだ。

司

その手形は「呪印」と言って、『ユユさん』のターゲットだという目印で、日が経つごとに段々赤く染まっていく。

司

1〜3日目は特に何もないが、4日目の夜、ベッドに『ユユさん』がやってきて、ターゲットの「寝息」を吸うらしい。

彰人

えっ、キモい…

冬弥

な、なんで寝息なんですか？

司

少し脱線するが、「山地乳」という妖怪を知ってるか？

類

うぅん…そういうのには疎いから、知らないな。

司

「山地乳」とは寝ている人間の枕元に現れて寝息を吸う妖怪なんだ。

司

「山地乳」に寝息を吸われた人間は死んでしまうが、一部始終を他人に目撃されると、逆に寿命が伸びて健康になると言われている。

冬弥

じゃあ『ユユさん』に寝息を吸われたら…

司

大丈夫、死にはしない。4日目はな。

司

死にはせんが、「寝息」を吸われることで生気を奪われるらしい。

司

生気を奪われると、ベッドから起き上がることが不可能になるほどまでに衰弱してしまう。

類

それは…回避できるものなのかい？

司

あぁ。極論を言えば寝息を吸われなければいいからな。4日目は寝なければいい。

彰人

てことは…明日オールすればいいのか。

司

そうだな。明日は丁度土曜だし、オレも付き合おう。

冬弥

俺もそばにいたい。

類

そうだね。僕も心配だな。

彰人

…じゃあ、3人とも泊まりに来ます？明日家族いないし。

司

む、いいのか？

彰人

オレが付き合わせるんだから、当然でしょ。

司

むむ、別に付き合わされてるとは思ってないが…

司

なら、明日は彰人の家に泊まりだな。

翌日

東雲家リビング

司

お邪魔します！！！

冬弥

お邪魔します。

彰人

どうぞ。狭いですけど。

類

わぁ、綺麗なダリアだねぇ

司

おぉ、オシャレな花瓶だな！

彰人

あぁ。その花瓶、青柳がくれたやつです。

司

む、冬弥が？

冬弥

あ、はい。

類

この花も冬弥くんが贈ったのかい？

冬弥

はい。東雲っぽくて綺麗だったので。

司

(なるほど。だからオレンジのダリアなのか。)

彰人

あー…お茶出すんで、適当にその辺座っててください。

司

あぁ、ありがとう！

司

とりあえず、昨日『ユユさん』について調べて纏めてきた。

冬弥

か、かなりの枚数ですね。しかも手書き…

類

君、ちゃんと寝た？徹夜したんじゃないの？

司

まぁ、これは仕方ないだろう。

彰人

ありがたいですけど、そこまでしてくれなくても…

司

彰人の命がかかってるんだぞ。徹夜くらい問題ない。

彰人

…ありがとうございます。

彰人

あ、そうだ。類センパイ、これ見てください。

類

うん？

彰人

手形、司センパイの言った通り小指まで染まりました。

類

おや…本当だね。

司

相変わらずオレには見えんな。

冬弥

俺もです。

司

手形が見えるのは基本、呪いを受けた本人だけのはずだが…類は"見る力"が強いのかもな。

類

そうかもねぇ

彰人

けど、なんでオレが『ユ…

司

ストォォップ！！！！！

彰人

？！

司

いっ、言い忘れてた！！彰人は絶対に『ユユさん』と呼んではいけないんだ！！

彰人

えっと…呼んだらどうなるんですか？

司

『ユユさん』がここに来る。

冬弥

東雲以外が呼ぶのは大丈夫なんですよね？

司

あぁ、それは問題ない。今『ユユさん』が気に入ってるのは彰人だけだからな。

類

僕らも男子高校生だけど、『ユユさん』に気に入られる可能性はあるのかい？

司

いいや、『ユユさん』にターゲットがいる間は狙われることはない。

司

とりあえず、この纏めた資料の内容を説明しよう。

都市伝説『ユユさん』

司

駅に現れる女性の怪異で、「男子高校生が夜に1人で駅の階段を降りていると、後ろから背中を押し、怪我を負わせる。」…という所までは説明したな。

司

『ユユさん』がいつ、どういう経緯で生まれたのかは不詳で分かっていない。ただ分かっているのは、男子高校生のみを狙うということ。

司

『ユユさん』の好みに3つ以上当てはまれば、狙われてしまうそうだ。

司

『ユユさん』の好みは、
･身長が165〜179cm
･サッカーをしている、していたことがある
･くせ毛でふわふわした髪
･少し口と素行が悪い
･動物好き

司

この5つらしい。

冬弥

ほぼ東雲の事じゃないですか…

類

ドンピシャだったんだろうね。

彰人

この条件、当てはまる人のが少なそうですね。

司

そうだな。オレも類も冬弥も、多分当てはまらんだろう。

司

何故『ユユさん』の好みがこの5つなのかは分からないが…過去に好きだった男性の特徴では無いか、という説がある。

司

『ユユさん』はターゲットに怪我を追わせ、入院させる。自由に動けない入院期間を狙って襲うためらしい。

司

「呪印」とはターゲットだという目印で、日が経つごとに赤く染まる。

司

4日目は昨日説明した通りで、5〜8日目までは何も起きない。

司

問題は9日目だ。

司

9日目の夜、駅で『ユユさん』に追いかけられる夢を見る。『ユユさん』の足はそこまで速くないため、逃げ切れる場合もある。

司

ただ、地面には今まで『ユユさん』に連れ去られた男子高校生たちがいて、足を掴まれたり引っ掛けられたりと、邪魔をされることもあるそうだ。

司

夢の中で『ユユさん』に捕まってしまうと、夢から覚めることが出来ないまま13日目を迎え、そのまま『ユユさん』に連れ去られる。…つまり、死んでしまうというわけだ。

彰人

9日目、捕まったらその時点で終わりってことか…

類

9日目も寝なければいいのかい？

司

…それが出来ればいいんだが、

冬弥

で、出来ないんですか？

司

9日目は何故か強烈な睡魔に襲われ、ほとんど確実に眠ってしまうらしい。

彰人

うわ…マジか、

類

ということは…彰人くんは9日目、絶対に『ユユさん』から逃げ切らないといけないと、

冬弥

いくら東雲の足が速いとはいえ…捕まった時点でお終いだなんて、リスクが高すぎる…

司

これについても様々な対処法を調べてはみたが…逃げ切るしか方法は無いらしいんだ。

彰人

…

冬弥

…俺たちに出来ることは無いんですか…？

司

あぁ、残念ながら…

彰人

とりあえず、逃げ切ればいいんでしょ？

彰人

足の速さと運動神経にはそれなりに自信ありますし、多分大丈夫ですよ。

類

不安を煽るようで悪いけど、そんな上手くいくかなぁ…

冬弥

9日目までに『ユユさん』を追い払う方法は無いんですか？

司

残念ながら、13日耐えることしか『ユユさん』から逃れる方法はないそうだ。

彰人

じゃあ9日目に逃げきれたとして、そこからはどうすればいいんですか？

司

10日〜12日目までは何も起きない。

司

『ユユさん』から逃れるには13日目、『ユユさん』に落とされた駅の階段まで行く。そして、自分が落とされた時間に『ユユさん』が階段に現れるから、『ユユさん』の背中を押し、『ユユさん』を階段下に突き落とす。

司

…こうすることで、『ユユさん』の呪いは解けるそうだ。

彰人

突き落とすのか…

類

怪我したのって何時だっけ？

彰人

たしか20時30分頃でした。

冬弥

じゃあ、13日目の20時30分に駅に行くと…

類

僕たちも着いていっていいのかい？

司

いいや、彰人が1人で行かねばならん。誰かと一緒だと『ユユさん』が現れないから、呪いを解くことが出来ないんだ。

彰人

…分かりました。

彰人

9日目に逃げ切って、13日目に駅に行けばいいんですね。

司

あぁ、

類

それにしても…本当に僕らに出来ることって無いんだね、

冬弥

…

彰人

えっと…一通りの説明聞きましたし、ゲームでもします？

司

え、この状況でか？？

彰人

いや、ずっと全員テンション低いから。

類

そりゃあそうだよ…

冬弥

この状況でテンション上げろって言われる方が難しいんだが、

司

あぁ。今日は良くても、9日目が本当に危険なんだぞ。

彰人

そんなのまだ先の話でしょ。

彰人

もし9日目に逃げきれなかった時のためにも、今のうちに遊んどきましょうよ。

司

え、縁起でもないことを言うな！！

彰人

もちろん逃げ切りますよ。まだ死にたくねぇし。

類

でも…

彰人

大丈夫ですって。そんなに不安がられると、こっちまで不安になってくるんですけど。

冬弥

…本当に信じていいのか？

彰人

もちろん。お前も俺の足が速いのは知ってんだろ？

冬弥

あぁ…知ってる。

彰人

絶対に逃げ切ってくるから、信じていいぞ。

冬弥

……

冬弥

分かった。信じよう。

司

むむ…

司

まぁ…信じるしか無いからな…

司

他に方法がないかはまた調べておくが…もし何の方法も見つからなかったら、その時は頼むぞ。

彰人

はい、任せて下さいよ。

類

…怖くないのかい？死んじゃうかもしれないのに、

彰人

いや、まぁ…そりゃちょっとは怖いですけど、

彰人

でも、絶対に死ぬわけじゃないんでしょ。だからそこまで怖くないです。

類

…そうか。

夜

23時56分

類

あと4分だね。

司

彰人！！！絶対に寝るなよ！！！

彰人

うわっ、今ので目覚めました。

冬弥

それは良かった。

司

隣でずっと叫んでてやろうか？

彰人

気絶するんでやめてください

類

一応深夜だし、ご近所迷惑だから程々にね。

彰人

ふわぁ…

司

彰人ーーー！！！！起きろぉぉ！！！

彰人

う"ッッ？！

冬弥

うっ…

類

おや…2人とも、鼓膜大丈夫？

彰人

気絶するかと思った…

冬弥

耳鳴りが…

司

む、すまん！！

彰人

いや、お陰で目覚めましたけど…類センパイは大丈夫なんですね。

類

まぁね。

類

それより、司くん。さっき程々にって言ったばかりなのに…

司

す、すまん！彰人が眠そうだったものだから…

冬弥

…あっ、あと1分ですよ。

司

彰人、起きてるな？！

彰人

起きてます

類

あとちょっと頑張ろうね。

司

…0時10分、

司

ふむ…そろそろ大丈夫なんじゃないか？

彰人

全然まだ起きてられますけど

類

念の為、あと1時間くらい起きとく？

司

オレは大丈夫だが…

彰人

…青柳、大丈夫？半分寝てね？

冬弥

あっ…す、すまない。起きて…る。

司

ね、寝てていいぞ！！もう大丈夫だと思うからな！

冬弥

大丈夫です…あと1時間くらい…なら…

類

無理そうだけどねぇ…

彰人

寝てていいぞ。膝貸してやろうか？なんてな。

冬弥

あぁ…

彰人

ん？

冬弥

Zzz…

彰人

え、マジ？冗談だったんだけど？！

司

おぉ、秒で寝たな。

彰人

いや、膝じゃ寝心地悪いだろ…

類

そうかな？心地よさそうに見えるけど。

彰人

気のせいでしょ…センパイ、青柳のことベッドに運ぶの手伝ってくださいよ。

司

うむ、それは構わんが…もう少しそのままでもいいんじゃないか？

司

折角寝たのに、すぐ起こしてしまったら可哀想だろう。

彰人

まぁ……

彰人

……じゃ、俺の足が痺れたら運ぶの手伝ってください。

司

あぁ、任せてくれ！

9日目

廊下

冬弥

今日…だな。

彰人

だな。

彰人

夕方は親いるけど、夜は家族出かけていなくなるから。

冬弥

あぁ、また泊まりに行かせてもらう。

冬弥

その…信じると言ったが、正直不安だ。

彰人

まぁ…正直、俺も。

冬弥

…自分に出来ることが無いのが、とても歯がゆい。

彰人

…

彰人

青柳…ってさ、俺のためにどこまで出来る？

冬弥

？

冬弥

どこまで…東雲が望むのなら、どこまででも頑張るが。

彰人

もし…もしもだぞ、俺が逃げ切れなくて、目が覚めなかった時、

彰人

その時はお前が俺の事殺してくれよ。

冬弥

…え？

彰人

訳わかんねぇ怪異に殺されるくらいなら、お前に殺されたいと思って。

冬弥

な…

彰人

……悪い、変なこと言った。忘れてくれ。

冬弥

ま、待ってくれ！考える！

彰人

え

冬弥

………………

彰人

いや、そんな真剣に考えなくても…

冬弥

…まず、東雲には死んで欲しくない。

冬弥

だが、どうしてもやむを得ない時…

冬弥

東雲が訳の分からない怪異に殺されるくらいなら、俺の手で…殺せると思う。

冬弥

本当に東雲がそれ望むならだが…

彰人

……

彰人

じゃあ、"その時"は頼むわ。

冬弥

！

彰人

もちろん絶対逃げ切ってやるけどな。

冬弥

…あぁ、分かった。

冬弥

俺は…東雲のことを信じるから。

彰人

あぁ、ありがとな。

夜

東雲家リビング

司

…出来るだけ、今日も寝ないように頑張るぞ。

彰人

はい。

類

今の眠気どれくらい？

彰人

今はあんまり。昨日結構寝たんで。

司

彰人が寝そうだったら全力で起こすからな。

彰人

気絶しない程度にお願いしますね

彰人

(つっても、本当に眠くねぇんだよな。)

冬弥

…東雲、大丈夫か？眠くないか？

彰人

あぁ、全く。

冬弥

本当か？手が温かくなってきたから、眠いのかと…

彰人

え、マジで？

司

彰人！！！起きろぉぉぉ！！！！

彰人

うるさっ

類

ほ、ほっぺ引っ張ろうか？

彰人

いや、センパイのはマジで痛いんで遠慮しときます

冬弥

眠い時は体を冷やしたり、冷たいものを飲んだりするといいから…何か飲み物を持ってくる。

彰人

あぁ、ありがとう。

類

体を冷やす…怖い話でもする？

彰人

えぇ、怖い話で体冷えますかね？

司

冷えるだろ、怖い話だぞ？！

冬弥

東雲、お茶で大丈夫か？

彰人

おう、サンキュ…って冷たっ？！

冬弥

出来るだけ冷たい方がいいかと思って、

彰人

いや、まぁ…たしかに眠気覚めるわ。

冬弥

一応ストローもあるぞ。

類

ここ彰人くんの家なのに、ストローの位置まで把握してるんだね。

冬弥

えっと、よく泊まりに来させてもらうので…

司

おぉ、随分と仲がいいな！

彰人

センパイ達も泊まりくらいするでしょ？

司

む、いいや。した事ないな。

類

そうだねぇ

冬弥

そうなんですか？なんか…意外ですね。

類

ふふ、そうかな？

司

そもそも、そういう話した事ないな。冬休みにでも泊まりに来るか？

類

君の家に？う〜ん、そうだねぇ…

彰人

！

彰人

(うわっ、マジか……いつの間に寝ちまったんだ？)

彰人

(これ、駅だよな……)

彰人

(センパイの話だと、『ユユさん』が追いかけてくるはず…)

ペタ…

彰人

！！

後ろから足音のようなものが聞こえ、振り返った。

彰人

！？

彰人

(手足なっが……！？あれが『ユユさん』か？！明らかに人間じゃねぇ…！)

ユユさん

うレｼヰ

ユユさん

やッﾄ見ツけタ…

その声にはなんとも言えぬ不気味さがあり、全身の毛が逆立つのを感じた。

「絶対に捕まってはいけない」

本能でそう感じた。

ユユさん

おヰデ

彰人

っ

底知れない恐怖を感じながらも足を動かし、『ユユさん』から距離をとった。

彰人

(なるほど、たしかに足は速くない…普通なら逃げ切れる速さだ)

彰人

(けど、)

ガッ

何かに足を掴まれた。

彰人

！

男子高校生

帰りたい……帰りたい…

彰人

(クソッ…最悪だ、)

足を掴む『ユユさん』の被害者の腕を振りほどき、また走り出した。

彰人

(あの高校生たち…そこらかしこに転がってやがるから、避けんのも大変だ)

彰人

(踏みつけられれば簡単だが…)

男子高校生

家に帰りたい…

男子高校生

お母さん…お父さん…

男子高校生

試合…出なきゃいけないのに…

男子高校生

帰りたい…

彰人

…ﾁｯ、

彰人

(これ踏みつけんのは無理だろ…！)

ガッ

男子高校生

帰して…

彰人

…悪い、

足を掴む腕を、また振り払った。

彰人

(クソッ、いつまで逃げりゃいいんだ？！)

彰人

(どっかに出口みたいなのがあんのか？！)

ガシッ

男子高校生

帰さない

彰人

うわっ？！

両足を掴まれ、思わずバランスを崩した。

彰人

痛って…

男子高校生

帰さない帰さない帰さない

彰人

っ……離せ！

男子高校生

帰さない帰さない帰さない帰さない帰さない帰さない帰さない

ミシッ

足を掴む力がどんどん強くなっていく

彰人

…クソッ、

ユユさん

うレｼヰうレｼヰ

ユユさん

やッﾄ会ヱタ

彰人

(ﾁｯ…)

ユユさん

タｸみ

彰人

……は？

ユユさん

こコにヰタ

ユユさん

タｸみ

彰人

(「タクミ」…？誰だ？)

ユユさん

探ｼタよ

ユユさん

タｸみ、帰ロう

彰人

(俺のことを「タクミ」だと思ってんのか…？)

ユユさん

だヰｼﾞｮうぶ

ユユさん

おカァさンが、迎ヱにきタカらﾈ

彰人

(お母…さん…？)

彰人

(っ、じゃねぇ！とりあえず逃げねぇと…)

『ユユさん』はもう、すぐそこにいる。

ユユさん

ごメンﾈ、タｸみ

ユユさん

帰ロう

『ユユさん』がこっちに向かって手を伸ばしてきた。

彰人

っ…

この子は「タクミ」じゃないわ。

彰人

？！

ユユさん

ヱ…

この子は「タクミ」じゃない。貴方にはあげられないわ。

彰人

(だ……誰だ？！)

彰人

(これは…助けてくれたのか？いや、分かんねぇ…逆かもしれねぇ…)

ユユさん

ガう……ﾁガうﾁガうﾁガう！！

ユユさん

タｸみ…タｸみ！わタｼのタｸみ！！

いいえ。この子は「タクミ」じゃない。

ユユさん

ﾁガうﾁガうﾁガうﾁガうﾁガうﾁガうﾁガうﾁガう

ユユさん

カヱｼて……カヱｼてカヱｼてカヱｼてカヱｼて！！

返してもらうのはこっちの方よ。

都市伝説の分際で私のお気に入りに手を出すだなんて、いい度胸してるじゃない。

彰人

(な…なんか言い争ってる…？)

ユユさん

ﾁガう…タｸみ…タｸみ……

ユユさん

わタｼガおカァさンだﾖ…？ﾈヱ、タｸみ？

ユユさん

ァのおンナは、モうヰナヰﾖ…？

ユユさん

わタｼガ、ほンモののおカァさンだﾖ…？

ユユさん

だカら、帰ロう…？

都市伝説ってのは、本当に話が通じないのね。

彰人くん、貴方は「タクミ」なの？

彰人

えっ？！いや、違…いますけど、

彰人

(というか、この人俺の名前知って…)

ほら、違うって言ってるじゃない。聞いた？

ユユさん

ﾁガう…タｸみ…タｸみ…タｸみ…

ユユさん

わタｼガ、おカァさン…

ユユさん

ァのおンナは、ﾁガう…

ユユさん

タｸみ…タｸみ…タｸみ…

ユユさん

うｩ……

彰人

(な、なんか苦しんでる…？)

そもそも、貴方に息子なんていないでしょう。

彰人

？！

ユユさん

ﾁガう！！！

ユユさん

タｸみは、わタｼの子！！！ァのおンナはﾁガう！！！！

ユユさん

ァのおンナガ、拐ッタ！！わタｼのタｸみを盗ンだ！！！

ユユさん

わタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみわタｼのタｸみ

あ〜、もう。うるさいわね。

ピンク髪の女性がそう言って、右手を『ユユさん』の方に向けた。

パァンッ

彰人

？！

一瞬『ユユさん』が歪んだと思ったら、すぐに何かが弾けるような音がした。

そこにはもう、何もいなかった。

彰人

(え……？)

全く。勘違いも大概にしてほしいわ。

彰人

え、いや、あの……

彰人

(これは…助けてくれた…のか？)

あら、何かしら？

彰人

えっと……だ、誰…ですか？

あら…そう。まぁ、分からないわよね。

ならそれでいいわ。私はモモイアイリ！

彰人

モモイ…

彰人

(聞いてもピンと来ねぇな…)

彰人

モモイさんは…助けてくれたんですか？

アイリ

えぇ、そうよ。あんな都市伝説なんかに、彰人くんはあげられないもの。

アイリ

それより、遅くなっちゃってごめんね。あの時に力を使いすぎて、寝ちゃってたのよ。

彰人

(あの時？)

アイリ

でも、もう大丈夫！ちゃんと目が覚めたわ。

アイリ

これからは私が守ってあげるからね。

頭が混乱している。

この人は一体何者なのか、何故俺を助けてくれたのか、「あの時」とはなんの事なのか。

色んなことがぐちゃぐちゃで、頭が痛い。

アイリ

その階段を降りれば、ここから出られるわ。もう、あの都市伝説に彰人くんが狙われることもない。

彰人

あ…えっと、ありがとうございます。

アイリ

ふふ、いいのよ。早く皆の所へ帰ってあげなさい。

何がなんだか分からないまま、少しふわふわした気持ちのまま、促された通り階段を降りた。

彰人

(眩し…)

冬弥

東雲っ！！

彰人

うわ？！

司

あ、彰人ぉぉぉ！！！！

類

よ、良かった……逃げきれたんだね。

彰人

えっと……逃げきれたというか…

彰人

助けられた…みたいな、

冬弥

助けられた…？

彰人

いや、自分でもよく分かってねぇんだけど…

司

とにかく、無事で何よりだ！！！

類

ねぇ、彰人くん！この上着見てよ！

彰人

上着？

彰人

あっ、手形が無くなってる？！

類

そう！多分、呪いが解けたんだと思う。

冬弥

夢の中で何があったのか、聞いてもいいか？

彰人

あぁ、いいけど意味分からないと思うぞ。

司

ふむ…その「モモイアイリ」さんに助けられたと…

類

「あの時」っていうのも気になるねぇ…心当たりは無いのかい？

彰人

いや…全く無いですね…

冬弥

弾けた…ということは、『ユユさん』を恐らく消滅させるほどの力を持っているということなのだろうか、

彰人

「都市伝説の分際で」って言ってたし、都市伝説よりは上位の存在なのかもな。

類

都市伝説より上位の存在…って、なんだろうね？

司

むむ…それは何を基準にするかによるだろうな。

冬弥

東雲の体質と、何か関係あるのだろうか…

彰人

…ん？

冬弥

あっ

彰人

俺の体質…って、何？何の話？

冬弥

あ…えっと、

司

いや、まぁ…いい機会だし、話しておこう。

彰人

？

彰人

霊媒体質…

彰人

うわ…心当たりしかねぇ…

類

黙っててごめんね。言うべきか迷ってて。

彰人

全然いいですけど…頭痛とか吐き気とかも、その体質のせいなんですか？

司

あぁ、そうだと思う。

彰人

良かった…

冬弥

よ、良かった？

彰人

いや、なんかの病気かと思ってたんだよ。病気じゃなくて良かったわ。

類

うぅん、良かった…のかな？

彰人

(怪異を引き寄せたり、影響を受けやすい体質…)

彰人

(いつから？割と最近な気もするが…少なくとも、小中は無かったはず。)

彰人

(いや、でも中3の春…あの事故から、たまに頭痛とか吐き気がすることがあったような…)

彰人

……あっ、事故、

冬弥

事故？

彰人

いや…事故という程でもないか、

彰人

霊媒体質がいつからなのか考えてたんですけど、もしかしたら中3の事故からかもって思って。

冬弥

中3の事故？！

彰人

いや、そんな大したことじゃないぞ。骨折だけで済んだし。

類

事故って…どんな風に？

彰人

詳しくはあんま覚えてないんですけど……トラックかなんかに撥ねられて…

彰人

中3の5月に事故って、１ヶ月くらい入院してました。

冬弥

5月…たしかに、しばらくいなかったような…

冬弥

(そうだ、俺があの時クラスメイトに金をたかられていたのは、東雲がいなかったから…)

冬弥

事故…だったのか、知らなかった…

彰人

まぁ、言ってなかったしな。大した事故でもなかったし。

類

いや、トラックだろう？よく骨折で済んだね…

彰人

そこら辺がなんか記憶曖昧なんですよね…

彰人

まぁ、それが体質に関係あるのかなんて分かりませんけど。

冬弥

たしかに分からないことは多いが…とにかく、無事で良かった。

類

あぁ、そうだね。

司

…

彰人

センパイ？

司

ん？！あ、あぁ！なんでもないぞ！

彰人

いや、汗ヤバいですけど…

司

あぁ、すまん！少し暑くてな。

冬弥

特に暖房もついてませんが…大丈夫ですか？

司

大丈夫だ！彰人に、そういった経験があったことに驚いてな。

司

……無事で良かった。

彰人

…どうも。

彰人

面白くない話してすみません。お茶でも淹れてきます。

キッチン

彰人

(…やっぱダメだったか、)

中学3年生の5月、事故に遭った。

今までその話題を出して来なかったのは、わざわざ話す必要が無かったと言うのと…

司センパイの前で出していい話題なのかが、分からなかったからだ。

「新手の記憶喪失みたいな？事故ったりでもしたんすか？」

青柳が怪異部に体験入部に来た時に俺が言った、何気ない冗談だ。

司センパイはそれを聞いた時に頭痛を訴えていた。

それからなんとなく、そういう話題は避けるようにしていた。

彰人

(まぁ、結局言っちまったんだけど…)

彰人

…

司

彰人？！お茶が溢れてるぞ？！

彰人

えっ？！？

彰人

うわ、ヤバ！タオル！

司

遅いと思ったら…疲れてるんだろう。色々あったしな。

彰人

ま、まぁ…たしかに色々ありましたね。

彰人

(顔色は…もう悪くないな。)

司

さっきはすまんな。少し変な態度をとってしまって…気を遣わせただろう。

彰人

いや…こちらこそ、マイナスな話してすみません。

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