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その日、北原風香《きたはら ふうか》は小躍りしたい気分だった。
地元の冴えない公立高校を卒業後、東京のいわゆるFランク大学に進学。卒業後は都内の三流ゴシップ誌の記者として就職。
これまでの取材と言えば、工業地帯の団地で繰り広げられる主婦たちの泥沼のあてこすりあいや原宿に出現したハイテク・アマゾネスの追跡、ペニスを二つに改造した男の二十四時間密着取材なんてものもあった。
入社から二年余り。そんなろくでもない仕事ばかりこなしてきた彼女にようやく人に胸を張って話せる仕事が舞い込んできたのだ。
それは遺伝子研究所の取材。なんでもそこではノーベル賞ものの大発見があったそうだ。
風香は初めての大仕事に浮かれ切っていた。
同時に、疑問も浮かんだ。
北原 風香
編集長
編集長《ボス》が、トレードマークのサングラスを傾けて隙間から睨みつけてきた。 風香は慌てて首を左右に振った。
北原 風香
編集長
北原 風香
風香が涙目になっていると、編集長は二カッと金色の刺し歯を見せて笑った。
編集長
北原 風香
編集長
北原 風香
顔もカタギには見えないし、という言葉が舌の先まで出てきたが、なんとか喉の奥まで引っ込めた。
編集長
北原 風香
魔王ですよ、と小声で言うと、編集長はデスクに両肘を乗せて真剣な顔になった。 聞こえたかな、と思い、風香は喉を鳴らした。
編集長
北原 風香
一時間説教コースだろうか。それとも飲み会の幹事任命の刑だろうか。 どちらにしろなにかしらのパワハラまがいの教育的指導が行われるだろう、と風香は覚悟を決めていたが、編集長の様子が普段とは違った。
編集長
怒っているというよりは、なにかを案じているような、気遣うような雰囲気を風香は感じ取った。
北原 風香
風香が尋ねると、編集長は椅子を回転させて後ろを向いた。 おもむろにブラインドを開いて電子タバコをふかす。
編集長
北原 風香
どうにも釈然としない返事だったが、風香は取材に向かうことにした。